爪の先まで神経細やか

物語の連鎖
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作品(2)-3

2006年05月19日 | 作品2
フー・ノウズ フー・ケアーズ

Chapter 3

 
 彼が、用事をすませて家に着くと、ポストに手紙が入っていた。見慣れない封筒の形。エア・メール。封を開いて読み始める。

 お元気ですか。
 あっという間に時間というのは、過ぎてしまうものですね。
 優二君と過ごした一時が、とても懐かしく感じられます。そう遠い話ではないのに。

 わたしも、やっとこちらの生活に慣れてきました。午前中は、語学の学校に通って、午後は、毎日ではないのですが、絵のクラスにも入っています。
 そこでは、やはり本場だけあって、とても密度の濃い時間が過ごせています。
 その授業がない日は、新しくできた友人と連れ立って、いろいろな所も見て廻っています。同封した写真も見てくださいね。

 ご飯は外で、安いこともあるし食べることも多いのですが、見よう見真似で自分でも作っています。手際は、そんなでもないことは、保証済みですよね。

 そちらの生活はどうですか? 仕事の方も、はかどっていますか? 優二君は、直ぐに挫けてしまうようなことは、ないと思いますが、時々、息抜きも必要ですよ。
 デートなどもしていますか? よく女性の話に耳を傾けてあげてくださいね。お節介かもしれませんが、わたしからの忠告です。守ってください。

 あまりに、ここでの生活が楽しいので、戻ることを考えたくない心境になっています。また、周りの空気とか、本物の芸術に触れる機会もたくさんあるので、その面でも刺激的です。優二君も将来、短い期間でも来て、きちんと自分の目で確かめた方が良いですよ。

 長くなりましたが、今の気持ちを知って欲しかったので、書きました。

 では、お元気で。

 彼は、その便せんをていねいにたたみ、封筒に戻した。そして、机の中にしまった。
 玄関に置きっぱなしの食材を冷蔵庫にしまい、かわりにビールを出して、缶を開けた。飲みながら、なぜか鼻の奥がつんときた。それから、彼女の、あの長い髪の匂いがするような気がした。

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