竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

老いてゆく体操にして息白し 五味 靖

2019-12-18 | 今日の季語


老いてゆく体操にして息白し 五味 靖

季語は「息白し」で冬。句意は明瞭だ。年を取ってくると、簡単な動作をするにも息が切れやすくなる。ましてや連続動作の伴う「体操」だから、どうしても口で呼吸をすることになる。暖かい季節にはさして気にもとめなかったが、こうやって冬の戸外で体操をしていると、吐く息の白さと量の多さに、あらためて「老い」を実感させられることになった。一通りの解釈としてはこれでよいと思うけれど、しかしこの句、どことなく可笑しい。その可笑しみは、「老いてゆく」が「体操」にかかって読めることから出てくるのだろう。常識的に体操と言えば、老化防止や若さの維持のための運動と思われているのに、「老いてゆく体操」とはこれ如何に。極端に言えば、体操をすればするほど老いてゆく。そんな感じのする言葉使いだ。このあたり、作者が意識したのかどうかはわからないが、こう読むといささかの自嘲を込めた句にもなっていて面白い。ところで、この体操はラジオ体操だろうか。ラジオ体操は、そもそもアメリカの生命保険会社が考案したもので、運動不足の契約者にバタバタ倒れられては困るという発想が根底にあった。そんなことを思い合わせると、掲句は自嘲を越えた社会的な皮肉も利いてきて、ますます可笑しく読めてくる。『武蔵』(2001)所収。(清水哲男

息白し】 いきしろし
◇「白息」(しろいき)
大気が冷えている状態のなかで、呼吸が白く見えること。冷気で息が細かい水滴になる現象。寒気の厳しさをあらわす。

例句 作者

白き息ゆたかに朝の言葉あり 西島麦南
息白くやさしきことを言ひにけり 後藤夜半
荒涼たる星を見守る息白く 野沢節子
息白し極光の青噴き出でて 澤田緑生
人の老美しく吐く息白く 富安風生
妻恋の白息にある日本海 角川源義
泣きしあとわが白息の豊かなる 橋本多佳子
暁光にわが白息の真直なり 林 翔
この亀裂白息をもて飛べと云ふ 恩田侑布子
ぴったりと背に二番手の息白し 渡部洋一
中年や華やぐごとく息白し 原裕
南無妙と吐く白息もほとけのもの 吉田未灰
夜の山路より白息の二人ほど 友岡子郷
息白くなる扉から国境 花谷清
息白く両手にゴミの家長かな 峠谷清広
息白く激情治まらず 山内俳子洞
息白しこの掛値なき肺活量 住落米
父健やか早朝散歩の息白し 下田富美子
白い息そっと寄り添う影を踏み 猪狩理操
白き息ゆたかに朝の言葉あり 西島麦南
白き息吐きゐてこの世たのしかり 堤保徳
白き息鎮もりて果つオリンピコ 鈴木代志子
白息のゆたかに人を恋へりけり 藺草慶子
白息を吐きつ並べる世迷言 野島美津子
胸中に不条理燃やし息白し 髙橋宇雀
警笛の尖る踏切り息白し 吉川敬一郎

コメント    この記事についてブログを書く
« 咳の子のなぞなぞあそびきり... | トップ | 雪原の黒きが水の湧くところ... »

コメントを投稿

今日の季語」カテゴリの最新記事