竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
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一足の石の高きに登りけり  高浜虚子

2018-10-23 | 


一足の石の高きに登りけり  高浜虚子

陰暦九月九日(今年の陽暦では10月22日にあたる)は、陽数の「九」が重なるので「重陽」「重九」と呼び、めでたい日とする。その行事の一つが「高きに登る(登高)」ことで、秋の季語。グミを詰めた袋を下げて高いところに登り、菊の酒を飲むと齢が延びるなどとされた。したがって、「菊の節供」「菊の日」とも。元来は中国の古俗であり、今ではすっかり廃れてしまったが、この言い伝えを知っていた人は登山とまではいかずとも、この日には意識してちょっとした丘などの高いところに登っていたようだ。一種のおまじないである。「行く道のままに高きに登りけり」(富安風生)。掲句はその無精版(笑)とでも言おうか。用もないのにわざわざどこかに登りに行くのはおっくうだし、さりとて「登高」の日と知りながら登らないのも気持ちがすっきりしない。だったら、とりあえず一足で登れるこの石にでも登っておこうか。どこにも登らないよりはマシなはずである。というわけで、茶目っ気たっぷり、空とぼけた句になった。ただ、古来の習俗が形骸化していく過程には必ずこうした段階もあるのであって、その意味では虚子ひとりの無精とは言えないかもしれない。それが証拠に、たとえば草間時彦に「砂利山を高きに登るこころかな」の一句もある。『新歳時記・秋』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)

【高きに登る】 たかきにのぼる
◇「登高」(とうこう)
重陽に茱萸(ぐみ)を詰めた赤い袋を下げて高い所に登り、菊酒を飲むと齢が延びるという中国の古い言い伝えがあり、これを「登高」という。現在では近くの山、丘陵にハイキングに行くことも表す。

例句 作者

けふの日の高きに登り虚子思ふ 山口青邨
登高のこころの鐘をつきにけり 鈴木五鈴
登高の二年二組にまた会へり 羽根嘉津
一足の石の高きに登りけり 高浜虚子
わが町の見ゆる高きに登りけり 塚月凡太
亡びたる城の高きに登りけり 有馬朗人
地酒醒め高きに登る女たち 赤尾兜子
行く道のままに高きに登りけり 富安風生


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