壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

竹の蟻

2010年05月24日 23時12分27秒 | Weblog
        夕立にはしり下るや竹の蟻     丈 草

 夕立に見舞われたときの、一種 不安な緊迫感がとらえられている。よく見ると、蟻の動作はいかにも人間的だが、これを「夕立に‘うろたへ’下る」と擬人化すると、浅薄になってしまう。
 「はしり下るや」は、もとより蟻が一目散に駆け下る様子を言ったものであるが、襲い来る雨脚の気勢をも響かせている。

 この句は、『篇突(へんつき)』(元禄十一年)に「五老井の納涼」と前書して初出する。
 作者の丈草は、蕉門四哲の一人。寛文二年(1662)、尾張犬山藩士 内藤源左衛門の嫡男に生まれた。通称、林右衛門、遁世して丈草と号した
 元禄二年、芭蕉に師事し、同四年刊行の『猿蓑(さるみの)』に初入集した。しかも、其角・尚白・史邦らに次いで多く、発句十二を数え、漢文で後序を執筆するなど、一躍名をあらわした。

 季語は「夕立」で夏。小動物のあわただしい姿態を鮮明に描出しながら、沛然(はいぜん)たる夕立のもたらす涼味を示唆している。

    「暗緑色のつややかな竹の肌を、夕立におびえ、節につまずきながら、一匹また一匹と
     懸命に駆け下る、黒い大蟻の足どりよ」


      雷鳴と競ひ心経あげにけり     季 己