壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

青ざし

2010年05月05日 23時04分18秒 | Weblog
        青ざしや草餅の穂に出でつらん     芭 蕉

 見立てによる句である。「青ざし」は夏のもの、「草餅」は春のものなので、春の草餅が夏の今、穂に出たものであろう、と見立てた句。古い興じ方の発想が主となっていて、詩的感動は薄い。
 出典の『虚栗(みなしぐり)』から見て、天和三年以前の作であろう。
 芭蕉の号が初めて用いられたのは、天和二年三月刊の『武蔵曲』であるので、掲句は〈桃青〉時代の作かも知れない。

 「青ざし」は、菓子の一種で、青いままの麦を煎り臼でひいて細く糸のようにねじれさせたもの。『枕草子』に、「青ざしといふ物をもて来るを……」とあるほか、『徒然草』にも出てくる。
 「草餅の穂に出でつらん」は、青ざしのねじれて臼から出てくるところが、あたかも草餅が穂を出して来るような感じであるのを言ったもの。

 季語は「青ざし」で夏。理に陥った使い方で、古いものの残滓といえよう。

    「細く青く伸びた青ざし。これはきっと、あの春の草餅が、青い穂になって出たものであろう」


      入院の話すずしく柏餅     季 己