胡 蝶
朝朝暮暮雲の夢みるや花の陰 惟 中
『俳諧三部抄』(惟中編、延宝五年[1677]刊)所出。
「朝朝暮暮」は、『文選』巻第十九に載る宋玉の「高唐賦」中の故事を踏まえたもの。楚の懐王が高唐に遊んだ時、疲れて昼寝をしたが、そのとき見た夢に一人の婦人が現れる。そこで王は、彼女を寵愛するが、去るにあたって婦人は、「妾(しょう)ハ巫山ノ陽(みなみ)、高丘ノ阻ニ在リ。旦(あした)ニハ朝雲ト為リ、暮(くれ)ニハ行雨ト為リ、朝朝暮暮、陽台ノ下(もと)ニアリ」と言ったという。したがって、「雲の夢」とは、男女の契りをさす。ここでは前書きに「胡蝶」とあるから、去っていった女蝶の夢を、男蝶が見ているのである。
季語は「花」で春。漢詩文の知識を生かし、「高唐賦」を踏まえたところが作者の得意なところである。しかし、前書きがなければ一句の意味の不明なのが難点である。談林随一の論客、惟中らしい衒学的傾向の句。
「花の陰で静かに羽根を休めている蝶は、朝も夕も、あの契りを結んだ女蝶のことを夢見ている」
初ざくら婚ととのひし少女の眼 季 己
朝朝暮暮雲の夢みるや花の陰 惟 中
『俳諧三部抄』(惟中編、延宝五年[1677]刊)所出。
「朝朝暮暮」は、『文選』巻第十九に載る宋玉の「高唐賦」中の故事を踏まえたもの。楚の懐王が高唐に遊んだ時、疲れて昼寝をしたが、そのとき見た夢に一人の婦人が現れる。そこで王は、彼女を寵愛するが、去るにあたって婦人は、「妾(しょう)ハ巫山ノ陽(みなみ)、高丘ノ阻ニ在リ。旦(あした)ニハ朝雲ト為リ、暮(くれ)ニハ行雨ト為リ、朝朝暮暮、陽台ノ下(もと)ニアリ」と言ったという。したがって、「雲の夢」とは、男女の契りをさす。ここでは前書きに「胡蝶」とあるから、去っていった女蝶の夢を、男蝶が見ているのである。
季語は「花」で春。漢詩文の知識を生かし、「高唐賦」を踏まえたところが作者の得意なところである。しかし、前書きがなければ一句の意味の不明なのが難点である。談林随一の論客、惟中らしい衒学的傾向の句。
「花の陰で静かに羽根を休めている蝶は、朝も夕も、あの契りを結んだ女蝶のことを夢見ている」
初ざくら婚ととのひし少女の眼 季 己