壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

雑炊

2009年11月29日 22時38分03秒 | Weblog
        雑炊に琵琶聴く軒の霰かな     芭 蕉

 「琵琶聴く軒の霰かな」だけでは、巧んだあとが感じられる。しかし、「雑炊(ざふすい)に」によって、生活の手ごたえといったものが生まれ、霰を琵琶ととりなすことさえ、侘びた孤独の心の色になってゆくのである。
 『野ざらし紀行』の際の、「琵琶行(びはかう)の夜や三味線の音霰」の別案とも考えられるが、この句は、挨拶的なものを去って、句境はいちじるしく境涯的なものとなり、己の生活を噛みしめるつぶやきに近いものとなっている。

 「雑炊」は、大根・葱などの野菜を刻み込んで味付けをして炊いたかゆ。わびしい食事である。今は、
        雑炊もみちのくぶりにあはれなり     青 邨
 の名句があるように、「雑炊」は冬の季語とするが、当時は季語として意識されていなかったようだ。
 「雑炊に」は、雑炊を食しているとその時に、というほどの意味。
 「琵琶聴く軒の霰」は、軒打つ霰の音の中に琵琶の音を感じるという意。

 季語は「霰」で冬。「霰」を琵琶の音に聴きなすところに、「琵琶行」がひびいている感じがあって、霰そのものの感じをやや情趣化しているところが目立つ。

    「ひとりわびしく雑炊をすすっていると、軒を霰がぱらぱらと打つ。よく
     はずむその音を聴いていると、琵琶を弾ずる音を聴いているような
     感じがする」


      雑炊に何か足らざるもののあり     季 己