壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

四川を思う

2008年05月15日 23時00分56秒 | Weblog
  国際アンデルセン賞画家賞など多数の受賞をはじめ、国内外で高い評価を
 得ている画家・絵本作家 安野光雅。
  2004年から4回にわたり、中国の歴史書「三国志」をテーマに、中国
 各地でのべ1万キロにおよぶ取材を行いました。
  日本では物語性の強い「三国志演義」が知られていますが、今回は「正史
 三国志」を基本とし、史実としての面白さが独自の視点で描かれています。
 中国製の絹本と画材を使い、大胆な構図のなかに当時の武具などを繊細に表
 現しております。その成果は『週刊朝日』の連載が進むなか、全作品93点
 の『絵本 三国志』シリーズとして完成しました。
  取材先での写真、落款に使用した印材や愛用の画材などもご紹介いたしま
 す。どうぞご観覧ください。(「TAKASHIMAYA] チラシ広告 より)

 また来てしまった、「安野光雅 絵本 三国志展」に。
 おそらく、安野氏が、心魂をかたむけて完成された作品が、呼んだのだと思う。
 作品によっては、凝視していると、霊気のようなものさえ感じる。
 鬨の声が聞こえる。民の苦しみ、怒りの声が聞こえてくる。街中を行く人々のさんざめきが聞こえる。

 全作品93点中、「四川」を描いた作品が14点ある。
 四川は、「三国志」の重要な舞台の一つだ。劉備の一行が、はじめて蜀に入った場所でもある。
 氏の作品「劉備入蜀」・「秦嶺故景」・「長江群青」・「白帝望蜀」などを観ていると、心安らぐのだが、反面、非常に悲しくなる。

 この四川の美しい山々は崩れ、ふもとの村は壊滅状態。
 「四川大地震」で、推計5万人以上の死者、1千万人の被災者が出る、と中国当局が明らかにした。
 “生死を分ける72時間”が過ぎてから、やっと仕方なしに?、日本の救援部隊を受け入れると、発表する中国政府に、強い憤りを覚える。

 今にして思うと、天の神様が、記録として留めておくために、安野氏に描かせたのではなかろうか。そう思いつつ「図録」をしみじみと観ている。
 今後は、この「図録」を観るたびに、「四川大地震」で亡くなられた方の、ご冥福を祈りたい。

    白帝望蜀
                        四川・白帝城
     劉備は、白帝城で病に倒れた。丞相の諸葛亮に、嗣子・
    劉禅の補佐を託すと、ついに蜀に帰還できぬまま、六十
    三年の波乱の生涯を閉じた。白帝城で長江の対岸を描い
    ていると、少女が美しい声で歌いながら弟とやってきて、
    私のスケッチを見ながら何か言っていた。同行してくれた
    ガイドの羅さんも、このあたりの言葉はわからないと言っ
    た。(「図録」より)

 この少女と弟は……、どうか無事であって欲しい。


      揺らしては濡らす天地(あめつち)ねむの花     季 己