「こいつ、誰?」
いきなり迅の稲荷神社に呼び出された日曜の朝。
山ちゃんの隣にいた迅と同じ位の背丈のガキからの最初の言葉だった。
「一応これでも、迅のいい人だから」
「……ふーん」
人を吟味するみたいに見ていたそいつは明るい茶色の眸で、一通り俺を上から下まで見下ろした後、「まぁいっか」と両手を頭の後ろに回した。
顔にはにきび痕なのかそばかすなのか。大きな眸をキラキラさせて、所跳ねがある焦げ茶の髪を揺らしていた。
「さて、そろそろ始まるかな」
「何が?」と訊く前に、ざぁっと風が鳴った。
風の音色に乗って。
歌声が境内に響き渡る。
「迅?」
俺は声のする方に歩み寄る。
迅は境内の中で一番大きなご神木の下にいた。
そこからどこから響くのか、たぶん境内全体から響いてくる曲に合わせて、綺麗な声で歌をつづる。
歌詞はよくわからなかったけど、喩えるならアリアとか、そういったのを和風にしたような感じ、だろうか。
「迅、歌、うまいんだな」
鼻歌程度は聴いた事あったけど、ちゃんと長く歌ったのは初めてみたかもしれない。
綺麗なボーイソプラノに聞き入っていると、山ちゃんが笑った。
「迅はうまいよ~。でも、制御できないから」
「制御?」
「あーやっぱ、始まった」
生意気なガキの声に、ふと視線を見回せば。
「はっ?」
寒さも強まってきた最近。なのに、花が咲き始めている?
落としたはずの葉が新芽を一気に噴出し始め、春も夏も一緒くたに訪れたような有様に、俺は眼を白黒させていると。
「やっぱりやめておいた方が良かったんじゃないですか?」
とガキが言うと、「でも迅が、泉の誕生日祝いしたいって言うし。お前好きなんだろ、迅の歌」山ちゃんが言うと、「……まぁな」と泉と呼ばれた少年が顔を少し赤くしてそっぽを向いた。
「迅はね、この同年代稲荷神仲間で唯一の幼馴染の誕生日祝いに歌を披露してるんだよ」
「へー」
「でも、泉も言ったけど。歌うのはうまいけど、その歌に込められた力を制御するのが苦手でね。このとおり、植物が反応しちゃうんだなぁ。今はこの境内だけにって俺が力を閉じ込めているけどね」
……某転生もの漫画の主人公と同じだなぁ。俺は思ったが口にしなかった。
そうこうするうちに歌も終わり、迅が恥ずかしそうにしてるのも可愛いと思いつつ、思いっきり三人で拍手を送った。
「ありがとな、迅」
「泉、お誕生日おめでとう」
「うん。まぁ、そっちのと仲良くな」と泉がちろっと俺を見た。
「泉も、浜ちゃんだっけ? 仲良くね」
「フン! あれとは腐れ縁なだけだ!」
そういった泉の頭に狐の耳が、そして尻尾も生える。
「それじゃ、またな。今日は学校のやつらが祝ってくれるって約束あるんだ。山ノ井先輩、また。そっちのも、またな」
泉が手を振ると同時に、その場から一瞬で消えた。
「いいな、泉。僕もちゃんと力、制御できるようにならないと、学校にもいけない」
しゅんと項垂れる迅の頭を撫でる。
「少しずつでいいじゃない。俺はゆっくり待つ、けど。もう1年も終わるから、せめて一緒に学校通えるうちに、覚えて」
「はい!」
迅は微笑む。俺も微笑んだ。
「なぁ、また歌、聞かせて?」
「えっと」迅が山ちゃんを見る。「いいよ。俺も聞きたいし」と山ちゃんが微笑んだ。
ぱっと微笑んだ迅が楽しそうに歌いだす。それにあわせて花は咲き乱れ、ゆれる。
今日だけは。
泉の誕生日を心の中で祝いつつ、迅を愛でながら過ごそうと思った。
突発! 泉君お誕生日おめでとう!
そして、私もおめでとうって事で。迅に歌ってお祝いしてもらったw。
まぁもう年取っても素直に喜べないけど、ソレはソレってことで。
一言コメントなんかこちらにどぞ。
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