滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

ベルン州、2035年までに熱の70%を再生可能に

2011-12-25 21:26:24 | 再生可能エネルギー

ブログを更新できないままに、冬至もクリスマスも過ぎてしまいました(涙)。ベルンはここ10日ほどで、ようやく冬らしい冷え込みとなりました。とはいえ、日中はとても暖かく、昨年の12月の寒さが嘘のようです。

 

今月中旬、3月に発売予定の共著単行本「欧州発、エネルギー自立の地域戦略(仮)」の原稿執筆をほぼ完了しました。本が出来上がるまでにはまだまだ多くの作業が必要ですが、あと一歩です。ヨーロッパの再生可能エネルギーで自立する地域をテーマとした本で、ドイツ・スイス・イタリアで活動するジャーナリストたちからの日本へのメッセージを込めた力作です。どうぞお楽しみに!! 著者チームは村上敦さん、池田憲昭さん、田代かおるさん、近江まどかさんと私の5人です。

 

著者チームの村上さんが本のブログサイトを作ってくださいました(リンク)。中身はまだこれからですが、是非、訪問してみて下さい!

http://blog.livedoor.jp/eunetwork/archives/1609543.html

 

 

ベルン州のエネルギー戦略、2035年までに熱の70%を再生可能に


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月末にベルン市でエネルギー・住宅メッセがありました。メッセと同時開催された今年のセミナーのテーマは、「100%再生可能エネルギー」です。住宅、地域の両方でのエネルギー自給を意図しています。ここで聞いた講演のうち、ベルン州の建設・エネルギー課長であるウルリッヒ・ニュンフェネッガーさんによる「ベルン州のエネルギー戦略」の話が面白かったので、今日はそれについてご紹介します。

 

ベルン州では20121月から改訂されたエネルギー法が施行されます。その背景にあるのが、2006年に策定された「ベルン州エネルギー戦略」で、ベルン州のエネルギー政策の目標と、それを達成するために必要な対策が定められています。


★ 2035年までに4000W社会 

ベルン州のエネルギー政策の目標は、大きくとらえると2000ワット社会です。2000ワットとは、一人頭の一次エネルギー消費量を出力に換算した数字です。現在のスイスは6500ワット社会です。それを長期的に3分の1に減らして、その75%以上を再生可能エネルギーでまかなう社会のことを2000ワット社会とスイスでは呼び、国づくりのビジョンとしています。CO2に換算すると一人頭1tの社会です。ちなみに、原子力は一次エネルギー消費量が大きいですので、原子力を使うと2000ワット社会は達成できません。

 

ベルン州では中間目標として、2035年までに4000ワット社会になることを目指しています。つまり一次エネルギー消費量を3割減らすということです。具体的には、電気の8割、暖房熱の7割を再生可能エネルギーで供給し、建物の熱エネルギー消費量を2割減らすことが目標です。(電気生産に占める再生可能エネルギーの割合は今日既に62%です。)こういった目標を達成するために、対策リストが作られ、項目ごとに効果、担当局、実施時期、評価方法が定められています。


★ 地域計画的な対策 

これまでに実施された対策には、例えば水力戦略があります。水系の自然保護と水力利用のバランスを配慮しながら、どの水系のどの部分を小水力に利用できるかを定義したものです。同様に州の風力建設計画では、大きな風力パークに適した立地を定義。

あるいは、自治体のレベルでは、
2020年までに35の主要な自治体にはエネルギー供給計画地図を製作することを義務付けています(うち20自治体では既に製作が進んでいます)。この地図は、地域内の廃熱源や木質バイオマスの地域暖房などに適した地域を示し、それに説明を加えた地図になっています。ベルン州の新しいエネルギー法では、自治体にはより大きな権限が与えられました。例えば、州のエネルギー法では熱源に占める再生可能エネルギーの割合が定められていますが、自治体は独自にこの割合を上げることができます。さらにカーボンフリー熱源地区や、ミネルギー地区、あるいは地域暖房への接続を義務付けることができます(チューリッヒ州では既に可能なことなのですが・・)。


★ 2020年には熱も電気も自給する建物が義務?

建物の省エネ化に関しては、ベルン州はこれまでも大変熱心に取り組んできました。ミネルギー基準を開発したのはベルン州とチューリッヒ州でしたし、30年前から施主向けの中立のエネルギーアドバイスを提供してきた実績があります。州が所有する建物は、新築にはミネルギー・P(パッシブハウス)、改修にはミネルギーが義務です。それからエネルギー法の改訂では、州の建物では適した屋根面やファザード面には、太陽光発電や太陽熱を利用しなくてはならないことになっています。

 

一般建築に関して来年からは、電気暖房の新設や交換が禁止されるだけでなく、既存の電気暖房には交換義務が有効になります。2020年にはEUと歩調を合わせて、ベルン州でも新築に「二アリーゼロエナジー」建築が義務化されます。その際に、前回紹介した熱を自給する「ミネルギー・A」よりも先を行く基準が義務になるようです。具体的には、躯体はミネルギー・Pで、熱も電気も自給する建築だといいます。こういった発展を視野に入れて、ベルン州では来年からは「プラスエネルギーハウス」が別途に助成されることになります。


★ 100%再生可能を求める住民イニシアチブが進行中 

今、ベルン州では住民イニシアチブ「再生可能なベルン」法案が州議会で検討されています。それは2040年ごろまでにベルン州を熱・電力において100%再生可能エネルギーにすることを州政府に求めるもので、2012年の秋以降に住民投票にかけられます。ベルン州は、水力やバイオマス資源に恵まれており、実現への良好な前提は揃っています。ですが、田園部の住民がエネルギー政策に関してはコンサバなことで有名です。ニュンフェネッガーさん自身、(ベルン州の)エネルギー政策は「何度も立ち止まる頑固なロバ」のようなものであり、ムチ(規制)・アメ(助成金)、ロバに上手く話しかけること(アドバイス、情報提供)の3つを駆使して誘導することが大切だと話されていました・・あまりに的を射た例えです。

 

最近のフクシマ効果

新しい議会も脱原発には大賛成

スイスでは、12月半ばに新内閣が選出されました。新内閣は、大臣7人のうち4人が脱原発派の政党ですので、今後も脱原発政策の路線は引き継がれることになりました。また、新しい下院の初会期では、脱原発についての再決議が行われました。脱原発の議員立法案の文面に、上院が変更を加えたため、案が再び下院に戻ってきていたためです。結果は、脱原発に賛成128対反対58票と、選挙前の下院よりも明確に脱原発が選ばれています。この決断を受けて、内閣はこれから原発新設の禁止を原子力法の改訂により法制化していきます。

 

★ 核燃料の生産地の透明性を求める議員立法案

また下院では、スイスに輸入されている核燃料の産地に関する透明性を求める議員立法案が可決されました。昨年ごろからスイスでは、大手電力の一社が核燃料を購入しているロシアのMajakという核都市の放射能汚染がひどい、という話がメディアで批判されていました。上院でもこの案が可決されると、スイスの内閣には、輸入核燃料の生産工程が地域の環境や健康に被害を与えていないことを保障する、という難題が突きつけられます。

参照:DerBund新聞

 

★ 「ミューレベルグ原発を止めよう」イニシアチブ成立

ベルン州電力が運転するミューレベルグ原発は、首都ベルンの西15㎞に位置するスイスで一番危険な高齢原発です。この原発の運転停止を求めて、10月頭に住民がイニシアチブ案の署名集めを開始しました。住民イニシアチブのテキストはわずか一行。「州は、ベルン州電力株式会社の過半株主として、ミューレベルグ原発の即時運転停止するように動く」。州レベルの住民イニシアチブが成立するのには1.5万人分の署名が必要ですが、12月中旬には既に集まったそうです。州議会が住民イニシアチブ案を却下すれば、住民投票にかけられることになります。

 

★ 「フクシマニュース12月号」がアップされました

126日に、スイスエネルギー財団のウェブサイトに私が書いている「フクシマニュース12月号」がアップされました。ドイツ語が母語のご家族がいらっしゃる方は、どうぞご参照下さい。今回は飯館村の後方支援をされている日本大学の糸永浩二教授に飯館村のお話を伺いました。

リンク:www.energiestiftung.ch

 

 

ニュース

 

● オーストリア:ブルゲンランド州、2013年には電力の100%を再生可能エネルギーに

1213日、ブルゲンランド州知事のハンス・ニーセル氏は、同州が2013年までに100%再生可能な電力供給を実現するという目標を発表した。特に力を入れているのが風力発電。同州の電力に占める風力の割合は既に50%に上り、数多くのプロジェクトが進行中だ。最近では、人口506人のポッツノイスィーデル村のプロジェクトが注目されている。エネルコン社製の出力7.5MW!)の風力発電 を2基設置する計画で、それにより8000世帯の電力をまかなうことができるという。

参照:オーストリア再生可能エネルギー連盟

 

● オーストリア:公益住宅が100世帯のパッシブハウス団地

フォーアールベルグ州では、家族や収入の少ない世帯のための住宅建設を行う公益住宅建設組合に対して、パッシブハウス基準に相応する省エネ性能を義務づけている。現在、ブレゲンツ市では、3つの建設組合とディベロッパーが共同で、100世帯の入るパッシブハウス団地を建設中。同州では最大規模のパッシブハウスとなる。建設価格は1600万ユーロ。もちろん熱回収式の換気設備や太陽熱温水器がついている。同州では太陽熱温水器の設置も義務付られている。

参照i+R Scherteler –Alge

 

● バーゼルもソーラー屋根台帳を公開!

ドイツやスイスの自治体では、ソーラー屋根台帳を作成するところが急速に増えている。これは、屋根面の太陽熱温水器や太陽光発電への適性や収穫量を示すもの。バーゼル都市州もソーラー屋根台帳をネット公開した。建物の文化財保護状況や地域暖房網の情報も出るのが便利だ。同州ではソーラー屋根台帳や固定価格買取制度といったツールを住民に活用してもらい、2年間で屋根面に5MWの太陽光発電を設置されることを目指す。屋根の断熱改修を行う施主に対して、同時に太陽光発電の設置を行う場合には、断熱改修への助成額を倍にするキャンペーンも実施中だ。

リンク:バーゼル都市州のソーラー屋根台帳

http://www.stadtplan.bs.ch/geoviewer/themes.php?instance=default&language=de&theme=264

 

● スイスで一番高いビル「プライムタワー」は、ミネルギー建築

チューリッヒ西区にある旧工場地帯に、スイスで一番高いビル「プライムタワー」が竣工した。高さは126m36階建てのこの建物を設計したのは、スイスの著名な建築家であるGigon/Guyer。設計と建設においては持続可能性が重視され、国際的な環境省エネ基準である「LEED」のゴールドマーク、そしてスイスの省エネ建築基準である「ミネルギー」、およびにGreenproperty認証を得ている。

参照Swiss Prime Site AG

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