滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

木資源のカスケード的な利用のお手本、エルレンホフ

2011-07-06 17:36:13 | 建築

暑中お見舞い申し上げます。
スイスは採れたてのさくらんぼが美味しく、庭ではユリが輝いています。
私は庭-来客-視察-締切りに走り回り、ブログを更新できずに悶々としていました...。



■ 近況より・・

NHKの「プロジェクトウィズダム」
という番組のウェブサイトにビデオ参加しました。様々な市民の方が、いくつかの設問に対してビデオで意見を述べるコーナーで、下記から見られます。テーマは、日本のエネルギーシフト。私よりも、ドイツ在住のジャーナリストの村上敦さんや、デンマークのフォルケセンター代表のプレーベン・メガードさんの声が面白いですので、是非ご覧になって下さい!
http://www.nhk.or.jp/wisdom/110625/timeline_jp/movie/index.html

7月5日に発売された建築デザイン誌「コンフォルト」(建築資料研究社)は、省エネ改修が特集です。そこに、チューリッヒにある集合住宅のゼロ熱エネルギー改修事例のルポと、建物省エネ化政策についてのコラムを寄稿しました。建築関係者の方々にご覧になって頂きたいです! http://confort.ksknet.co.jp/

6月30日発売の環境誌「オルタナ」(㈱オルタナ)に、世界のエネルギー事情の一環として、スイスの脱原発事情の小さな記事を紹介しています。
http://www.alterna.co.jp/5989

オルタナ誌のウェブサイトは、日本のエネルギー関連のニュースが盛んに更新されておりお勧めです。そこに先月、チューリッヒ市営電力会社を紹介する短い記事を寄稿しました。電力の基礎商品を、100%再生可能エネルギーの商品に切り替えた事例です。チューリッヒ市営電力が、大きな水力発電の余力を持っていたからできたこととも言えますが、仕組み自体は日本にも役立つと思います。同社では、2018年までに310GWhの再生可能電力を増産するために国内や国外(スペイン、ノルウェー等)の設備に投資しています。
http://www.alterna.co.jp/5953

また先週は、日本からの都市計画の専門の方とシャフハウゼン市の環境部を訪ねる機会がありました。人口3万人強の小さな町ですが、都市発展計画から、交通計画、エネルギー計画までをコーディネートして計画・実施しています。ヨーロッパでは珍しくはありませんが、90年代より徒歩と自転車に優しい「移動距離が短い町づくり」を行い、近年では村や地区の間を自転車(専用)道で直結する計画も進んでいます。自動車よりも自転車道や公共交通が主体となる2000W社会、あるいはCO2-85%社会という大転換に備えて、着実に歩みを進めていることが感じられました。


 木資源のカスケード的な利用のお手本、エルレンホフ

今週の月曜日には、視察で東スイスにあるエルレンホフという木資源の産業クラスターを見に行きました。とても良い事例だったので、皆さんにもご紹介します。 エルレンホフでは、木資源を利用する4つの会社が1つの敷地に集まり、木を余すとこなく使う産業構造を形成しています。



1つ目の会社は、ブルーマー・レーマンという木造会社。木造の住宅やオフィスビル、農業建築、特殊構造などを設計・建設する会社です。2つ目は、レーマンホルツ製材所で、一年10万フェストメートルの丸太を加工しています。3つ目はペレットとブリケットを生産するベニウッド㈱。そして4つ目は、木質バイオマスから熱と電気を作るエルレンホフ・エネルギー㈱になります。施設全体では150名が働いています。

資源利用の流れは次のようになっていました。

 出発点:地域の山から下りてきた木を製材し、乾燥。材はブルーマー・レーマン木造会社に卸したり、外部に販売しています。

 樹皮:
製材所で出るバーク(樹皮)は、敷地内のブリケット工場に移動。バークはふるいにかけて、細かなものからブリケット(樹皮を圧縮した人工薪)を生産。あるいはペット用の敷き藁商品として袋詰めして出荷。バークの大きなものはもう一度裁断したり、造園業者に出荷します。

 おが粉・かんな屑:
対して、おがくずは製材所からパイプで、お隣のペレット工場のサイロに送り込みます。ペレット製造のキャパシティは、製材所で生じるおが粉やかんな粉の量に合わせられています。

 チップ: 製材所や木造工場から出る端材からのチップは、ふるいにかけられて、適したサイズの良質材は製紙工場などに販売。低質材はベルトコンベアで、敷地内の木質バイオボイラーのある建物に送り込まれます。

 エネルギー: このチップを燃料とした木質バイオボイラーでは、ORC(オーガニックランキンサイクル)方式で電気を作り、全量買取制度を利用して売電。廃熱は、製材所で材の乾燥と、ブリケットとペレット製造、冬には施設の暖房にも使います。冬の熱需要ピーク時には、昔から使っていた3.8MWの木チップボイラーを用いて、バックアップしています。

これら全ての設備が隣り合っているため、無駄な輸送が避けられます。
特に印象的だったのが、木質バイオマスエネルギーの本当に無駄なく活用している点です。エネルギー効率は、発電が18%、熱利用が70%以上ということで、総合すると90%近くになります。製材所やペレット工場での熱需要に合わせて、ボイラーの稼動出力を変える「熱主導式」設備で、それによって発電量も上下します。

ボイラーは燃焼出力8MWと中型のサイズで、暖房出力は6MW、ORC式発電の出力は1MW。一年のチップ消費量は5.5万㎥です。通年すると5GWh、約1200世帯分の電気を作っています。熱については20~24GWhを生産。エレクトロフィルターもついていて、排気中の煤塵量は法律で定められているよりもずっと低く抑えられています。

水蒸気を利用するタービンと異なり、ORCでは気化温度の低いシリコンオイルを蒸発させてタービンを回します。蒸気タービンと比べたメリットは設備コストが低いこと、そして熱需要に合わせてフレキシブルに発電出力を調整できることだそうです。

エルレンホフで面白いのは、高価なORC発電設備の部分は地元の州営電力会社に属していること。発電と売電に関しては電力会社にまかせ、発電設備の運転も遠隔管理させています。それ以外の熱利用部分の設備はエルレンホフ・エネルギーが運営しています。

エルレンホフでは、長い時間をかけてこのような産業構造が育ってきたわけですが、日本にも参考になるモデルだと思いました。
http://www.zuendholz-erlenhof.ch/cms/


オーストリア土産その3

★ラース村の太陽熱温水器で冷暖房する病院
オーストリアとスロベニア・イタリア国境近くの谷、標高900mにあるケルンテン州営地域病院Laasでは、太陽熱温水器で冷房・暖房・給湯を行なっています。
屋根の改修をきっかけとして、南側の屋根材の代わりに364㎡の太陽熱温水器を設置。収穫した温水で夏の間は、給湯水を供給し、余った熱を吸熱式冷媒を用いて病院の冷房に使います。冬の間は、給湯と暖房補助に熱を用います。



これにより年3.5万リットルの灯油を節約。設備の寿命は25年で、償却期間は10年。総投資コストは32万ユーロですが、この設備により一年3.2万ユーロの灯油を節約できる計算です。同病院には135床があり、200人が勤務します。
スイスの場合、トゥン市にあるベルン州銀行でも5年前より、太陽熱温水器を用いた冷暖房を行っており、冷房時のエネルギーの36%を節約しています。
http://www.wolfnudeln.at/index.php?option=com_content&view=article&id=21&Itemid=18

★ ギュッシング市のバイオガスでエネルギー自給するパスタ工場
ギュッシング市の工場地区にあるパスタ工場Wolf社では、自社の生ゴミや、農場の鶏糞、牧草、飼料用トウモロコシなどを混ぜて発酵させたバイオガスのコージェネ設備で、エネルギーを自給します。熱はパスタの乾燥などの工業熱に利用し、電気は全量買取制度を利用して売電。またバイオガス発酵後の残滓は、契約農家に肥料として戻しています。
スイスでもビール工場や食肉工場などでバイオガス・コージェネを行い、産業熱と電気を生産している例があります。
http://www.wolfnudeln.at/index.php?option=com_content&view=article&id=21&Itemid=18


最近のフクシマ効果

最近スイスでは、東日本大震災とフクシマの被災者や被災地に関する情報が、一般メディアからはほとんど入ってこなくなりました。ドイツやスイスの知人からどうなっているのかと訪ねられることしばしばです。日本の原発54基中37基が運転停止中で、再稼動への地方の反対が大きいことや、大型消費者に15%の節電義務が実施されていること、節電キャンペーンなど、スイスの人は全く知りません。

● スイス経団連による原発推進派の巻き返し
スイスでは、原発推進派の大手電力3社と経団連や商工連、原発ロビー団体が中心となり、巻き返しキャンペーンが始まっています。
例えばDerBund新聞によると、ロビー団体は60人ものジャーナリストをロンドンに招待、原発推進国イギリスを視察するツアーを実施しています。また秋の上院での脱原発を巡る決議で、原発技術を禁止させず、原発というオプションを残すよう、議員の説得活動を行なっているとのこと。
秋に上院が原発禁止を決めても、脱原発法を議会が決めるのは2013年で、その一年後に国民投票が行なわれるというスケジュール。原発推進派には、民意を覆すためにまだ3年の時間があるというわけです。

● プロの原発延命戦略
スイスの原発推進ロビーは以前より、国際的なPR会社のバーソン・マーステラー社にPRを委託しています。Der Bund新聞によると、同社のアドバイスを受けてスイスの経団連らは、長期PRキャンペーンの戦略を決めたそうです。
そのポイントは、公に直接に原発推進するのではなく、次の2~3年の間に「再生可能エネルギーがいかに困難か」を社会的議論の場で畳み掛けていくこと。それを裏付けるための「新しい調査」も予定していると、キャンペーン担当者が新聞に発言しています。
チェルノブイリの後にも同様な対策により、1990年の国民投票では脱原発案が否決に持ち込まれています。大手電力はエネルギーシフトにより市場シェアを失うことが確実であるため、ガスであれ、原発であれ、一極集中供給の手法を断固手放さない姿勢です。

● ミューレベルグ原発、突如の運転停止
6月29日にベルン州電力は、ミューレベルグ原発の運転を予定されていた定期メンテナンスより5週間も早く、突然、自発的に停止させました。ミューレベルグは、スイスで一番危ないと言われている高齢原発です。
しかも6月30日は、スイスの原発が連邦核安全監視委員に対して、1万年に一度の洪水に耐えうるという証明を提出する期日だったのです。ベルン州電力がミューレベルグ原発を停止させた理由は、チューリヒ工科大学の調査により、川から冷却水を取水する管が洪水時には詰まりうることが判明したため修繕作業を行なうとのこと。
本来ならば、連邦核安全監視委員に修繕作業への許可を得てから作業を始める手順ですが、ベルン州電力は作業を始めてから許可を申請。ベルン州電力の怪しい行動に批判が集中しています。

● 25都市の市営エネルギー会社も脱原発を支持
人口100万人の地域を供給する、25都市の市営エネルギー会社が集まった「スイスパワー」社は、6月22日、内閣と下院の脱原発決定を支持すると発表。同時に、スイスが2050年までに、総エネルギー需要を100%再生可能エネルギーで供給することを目指すといいます。
具体的には9月までに「マスタープラン・エネルギー2050」を発表し、その中でエネルギー生産、送電、インフラ、効率化、ヨーロッパ市場への進出などについての戦略をまとめる予定。
この発表の中で、スイスパワーが深層地熱利用を再生可能エネルギー増産の中心的要素として力説しているのには驚きました。スイスでは成功事例がまだないのですから。市営エネルギー会社としては、今後協力して深層地熱の実現に取り組んで行きたいと考えている、という市民へのメッセージだと私は考えます。
スイスの市営エネルギー会社は、地域暖房、ガスや電気、水の供給に関して、地域に密着したサービスを提供しており、エネルギーシフトが行なわれていく際には、将来の勝ち組に属するグループと考えられます。

● アールガウ州とベルン州がクリーンテク産業政策?
スイスの原発銀座であるアールガウ州。スイスに5基ある原発のうち、州内に3基、州境に1基が立地し、さらに放射性廃棄物の中間保存庫や原子力関連の研究所が立地する州です。
アールガウ州の内閣は6月16日に、国の内閣と下院の原発を更新しない方針を支持。アールガウ州をクリーンテク産業の中心地に育てて行くために国の支援を要請すると発表しました。とはいえ、原子力技術を法律で禁止することには反対というスタンスです。
アールガウ州では、既存原発の廃炉により州内の職場が減少します。それよりも多くの職場が再生可能エネルギーや省エネ技術「クリーンテク」により国内に生まれますが、その職場をアールガウ州に誘致しようという狙いです。
同じような動きが、1基の原発が立地するベルン州でも見られます。ベルン州には既に、再生可能エネルギー関連の国際的な機材メーカがいくつも立地しています。ベルン州内閣は、2025年までの経済戦略の中でベルン州に「クリーンテククラスター」を作り、スイスのクリーンテク産業中心地になるという目標を打ち出しています。

● ベルン州、住民発議案「再生可能なベルン」
ベルン州の緑の党が、2009年に提出した住民発議案「再生可能なベルン」について、州議会が対案を出しました。住民発議案は下記を求めています。
ベルン州の総電力需要を、2025年までに75%以上、2035年までに100%を再生可能エネルギーで供給すること。既存の建物の暖房給湯エネルギーについては、2025年までに50%を、2035年までに75%を、2050年までに100%を再生可能エネルギーで供給すること。新築される建物では再生可能エネルギーのみの使用を許可すること。
対して、州議会の対案は、電気、暖房・給湯エネルギーを基本的に30年以内に100%再生可能エネルギーで供給することとしていますが、住民案にあった細かな分野別の中間目標は削除しています。
対案と住民案は2012年に投票される予定です。


ニュース

★スイス、再生可能エネルギー19.4%に
エネルギー庁より2010年度のエネルギー統計が発表された。それによると2010年度、スイスの最終エネルギー消費量に占める再生可能エネルギーの割合は、19.4%。09年は18.9%だった。再生可能エネルギーの割合は、熱生産で15%、電力消費量で54%となっている。また、電力の国内生産量の57%が再生可能エネルギーだが、その大半は水力。それ以外の新エネは2.2%で、昨年度比では7.1%の伸びとなっている。熱分野では、再生可能な熱の54%が木質バイオマス、18%がゴミ焼却場からの廃熱(半分を再生可能としてカウント)、22%がヒートポンプによる環境熱利用となっている。

★スイス、エネルギー消費量が史上最大に
エネルギー庁によると2010年度スイスの総エネルギー消費量は前年度比で4.4%伸び、史上最高の91.1万テラジュールを記録した。理由は、寒冷だった冬(暖房ディグリーデイが12.7%増)、経済成長(GDP成長率2.6%)、そして人口増加(+1%)だという。温暖化防止と持続可能なエネルギー利用のためには、2050年までにエネルギー消費量を3分2減らす必用がある。そのためには年2%~の省エネが必要だが、トレンドの転換はまだ起こっていない


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