滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

500%の自立村ヴィルポーツリード訪問~自治体連合と住民出資で風車増設へ

2012-09-22 15:38:04 | 再生可能エネルギー



●パッシブハウスに改修された村営ホテル


随分と朝晩が冷え込むようになり、スイスの従来的な住宅では暖房シーズンが近づいています。今日は、夏休みのお土産話続編です。

ミュンヘンからスイスに戻る途中で、共著本では村上さんが報告して下さったエネルギー自立村のヴィルポーツリードに寄り道する機会を得ました。寄り道の目的は、省エネ改修されたばかりの村営ホテルに泊まることです。昔から宿だった建物を村が買い取り、ドイツの高度な省エネ性能の「パッシブハウス」基準に改修、エコロジー教育センターとして再オープンさせたのです。


(写真)左側の建物がエコロジー教育センター、右側が村の文化施設、中間がカフェ、地下が地域暖房センター

さて、肝心のお部屋はというと、目抜き通りに面していましたが、断熱三層窓と機械換気設備のおかげで、とても静かで、空気が良く快適でした。内装はシンプルで機能的、地元のブナ材で作られたモダンな家具が素敵です。リーズナブルな宿泊価格も嬉しく、是非また利用したい施設です。(下記は施設のリンク)
http://www.wildpoldsried.de/index.shtml?kultiviert_homepage


(写真)村のパッシブハウス認定を受けた宿泊施設の室内。通り側の部屋と庭側の部屋がある。

この宿泊・セミナー施設の隣には、村の新しい文化施設の建築が建っています。上階が木造の催事ホール、下にはカフェテリア&ギャラリー、そして地下室は村の地域暖房センターになっており、400kWのペレットボイラーが設置されています。先進的な再生可能エネルギー村として知られるヴィルポーツリードには年に国内外から100団体が視察に来るとか。この宿泊&セミナー施設により、視察による地域経済活性化の要素と村の魅力が一つ増えました。


(写真)パッシブハウス認定を受けた施設の中のセミナールーム

●プラスエネルギーの木造幼稚園も竣工間近

人口2570人のヴィルポーツリード村では、地域の木を使った木造省エネ建築の推進にも熱心に取り組んでいます。 例えば、村の小学校には断熱強化した上で新しい木造ファザードが施工され、増築部も木造のエコ・省エネ工法で作られています。市民体育館も文化施設も木造。そして、この夏に訪れた時には、パッシブハウス基準による木造の幼稚園が竣工間際でした。屋根には太陽光発電が設置され、プラスエネルギー建築になる予定です。


(写真)竣工間近のパッシブハウス幼稚園、左が南側、右が北側


(写真)訪問時は窓の上に日よけシャッターを施工している最中だった


(写真)左が木造の市民体育館、右が省エネ改修された小学校

公共建築の屋根を中心に設置量の多さが目立つ太陽光発電ですが、村全体での設置出力は約4MW。このほか太陽熱温水器も2000㎡(100基)あります。こういった普及の背景には、自治体にあるエンジニアリング会社がボランティアで、住民用に格安価格でのまとめ買いを調整してきた成果だそうです。

こういった村の公共建築や中心部の建物の熱供給は、村が出資した有限会社が運営する地域暖房網により行われています。熱源はバイオガスとペレットボイラー。 面白いのは、村の外れにある農家のバイオガス発酵装置で発生するガスを、ガス管でもって村の中心部まで持ってきて、熱消費地の近くで発電・発熱していること。夏の間はこのコージェネの熱だけで村の熱需要を満たせます。そして熱需要がピークになる暖房シーズンには、ペレットボイラーも稼働させるという仕組みです。


(写真)村の地域暖房センター、左がペレットボイラー

●住民出資の新しい風車2基

ヴィルポーツリードは2011年末には電力需要の335%再生可能エネルギーで自給していました。そのうち200%分が5基(7.5MW)の市民風車によるもの、それ以外にも5基のバイオガスコージェネ、200基の太陽光発電が主な電源を成しています。

8月に訪れた時には、村の東側にある小高い山の上には11基の風車が見えました。うち4基は隣の自治体の敷地にあるものですが、7基はヴィルポーツリードの敷地に立っています。既存の5基(7.5MW)の風車に加えて、新たな2基(2.3MW×2)が調度ほぼ竣工したところでした。これによりヴィルポーツリードの電力自給率は500%に増えるそうです!

ヴィルポーツリードの風車の特徴は、全て住民出資で実現されたという点です。また、村に地元の風況を知り尽くした風力専門家の農家の方がいて、彼が中心となって村の風車は実現していったそうです。自治体でエネルギーを担当する政治家のメーゲレさんは、風車に出資したいという住民は後を絶たない、風力への投資は地域内での定期預金のようなものと話していました。


(写真)丘の上から風車を眺める、右はスマートグリッドプロジェクトの一環として導入されている電気自動車

●自治体連合会社と住民出資で更なる増設計画


バイエルン州は福島第一原発事故を受けて、風力を推進する方向に政策を転換しました。そのため州の「地域計画」を見直して、風力適性地を洗い出しています。そこで認められた立地には、土地所有者と事業者の同意があれば、基本的に建設許可が得られるそうです。つまり、地域外部のコンツェルンや投資家の行動が早ければ、最良の立地を「よそ者に取られてしまう危険」があります。

ヴィルポーツリード村の東側の山沿いには、まだ6基の風車を建てられる風況の良い立地があります。そのため、ヴィルポーツリードは山を囲んだ周辺の自治体と組んで風力開発会社を設立し、「よそ者」が来る前に立地を自治体会社の手中に収め、共同でプロジェクトを作り、さらに各自治体の住民の出資により実現していく戦略を進めています。周辺自治体と競合するのではなく、共同開発することを選んだ点は賢いと思いました。

その他にもヴィルポーツリードでは、省エネ対策推進、スマートグリッドプロジェクト、植物による下水浄化や近自然の洪水防止対策・・といった興味深い取り組みが進行中です。1999年にこの村は、自治体の政治家が代替わりして若返ったことをきっかけに、住民と共に目指すべきモットーとして「ヴィルポーツリード、革新的で、未来の方向性を示すまち」を掲げました。今日のヴルポーツリードは、僅か10年でそのビジョンを見事に達成しています。

 http://www.wildpoldsried.de/ (自治体のサイト)





◆スイスでの最近のフクシマ効果

夏前から、スイスの安全委員会(KNS))の職員が、原子力産業と癒着した保安院(ENSI)と安全委員会(KNS)の組織体制や安全文化の不十分さを理由に次々と辞職。
9月中旬には保安院がフォーラムを開催。そのパネルディスカッションには、保安院の体制に批判的なグリーンピース・スイスも招待された。しかし、ディスカッションの準備として同団体が提出した質問事項のうち批判的な事項が削除されたり、記者の公開質疑が許されないという事態が生じた。
このフォーラムで保安院代表者は、安全委員会による保安院の監視・規制は不必要であり、安全委は保安院をアドバイスするだけの機関になるべきだと要求。IAEA(国際原子力エネルギー機関)の提案を受けての発言だ。グリーンピース等の環境団体らは、保安院に批判的な視点を持つ安全委員会の権力こそをより強めるべきであると主張している。

他方、スイスの大手電力会社は高齢原発に高額の修繕費用を注ぎ込み、自らのエネルギーシフトへの道を狭めつつある。世界最高齢(43歳、40歳)のベッツナウ原発2基を運転するAxpo社は7億フラン(約630億円)を原発改修に注ぎ込んで、寿命が50年過ぎても運転する意向を示す。
同じく高齢(40歳)のミューレベルク原発を運転するBKW社は、安全上の理由から行政裁判所から2013年には運転停止する命令を受けていたが、最高裁に上告。同原発の地震時の安全性を高めるために、原発上流にある河川ダムの補強工事を行う申請を行った。
8月にはミューレベルク原発と同じメーカの製造による、ベルギーのDoel原発3号機の圧力容器にヒビが見つかった。それを受けてBKW社は、ミューレベルク原発の圧力容器の僅か幅50㎝の部分を超音波検査し、その結果ヒビはなかったと報告。保安院はこれを良しと認めた。

8月末には保守・右派のスイス国民党らが中心となり原発新設の必要性をメディア各種で唱え、原発推進派の勢力はまだ衰えていないことを示した。
スイスの内閣は、来週に脱原発政策のロードマップでもある「エネルギー戦略2050」を告示する予定で、関係団体からの意見収集がスタートする。
脱原発の鍵となる買い取り制度のサーチャージ額が制限されている問題については、スイス政府は未だに解決していない。買い取り予算不足のためにウェイティングリストに並ぶ申請者の数がついに2万件を超えた。大半が太陽光発電だ。これらの事業を実現するだけでもミューレベルク2基分の発電量が得られる。が、原発を所有する大手電力会社の政府への圧力は大きい。


◆ ニュース

●スイス:シャワーから熱回収する家庭用システムJoulia
一瞬使って捨てられているシャワーのお湯をもったいないと思ったことのある人は多いはず。シャワータブJouliaは、床面に内蔵された熱交換機で、シャワー排水から熱回収する機能を持つ新製品。排水と水道水を熱交換することにより、水道水の温度を25度まで上げる。その後、水道水は温水と水栓で混合され、適切な温度が作られる。水道水の圧力だけで機能するため、電気も蓄熱タンクも要らない。簡単な仕組みにより温水使用量を30%減らすことができるという。4人家族なら年1000kWhを節約でき、数年以内に通常のシャワータブと比較した割高分を回収できる。スイスでは2012年6月よりビール市のスイステニス施設で導入されている。薄いデザインで、すっきりとした収まりにもこだわる。
出典:http://joulia.com/

●スイス:ベルン州、製材所に1.35MWの太陽光発電
ベルン州のWorb町にある製材所OLWOは、8800㎡の倉庫の屋根を活用して同州で最大規模の太陽光発電設備を設置中だ。設置出力は1.35MWで、300世帯分の消費量に相当する電力を生産する予定。大型製材所の消費する電力の60%を自給する計算になる。同社は2年前より固定価格買い取り制度に申請し、ウェイティングリストで待ち続けていた。OLWO社では太陽光発電だけでなく、ペレット生産、残材チップによる地域熱供給なども行っている。
出典:www.ee-news.ch、 http://www.olwo.ch/

●スイス:ヴァリス州Charratに大型風車竣工
ヴァリス州ローネ谷にある自治体Charratにスイスでは最も大きな3MWの風車が竣工した。ローターの中心部までの高さは99m。年に1800世帯分の電力消費に相当する650万kWhを発電する予定。この立地は風に恵まれているため今後5基の風車が建設される計画だ。運転するのはValEoleSA社で、その株の半分は周辺の6自治体が所有し、残りの半分は5つの広域のエネルギー公社が所有する。後者もほとんどが自治体や州の所有である。
出典:http://www.suisse-eole.ch/de.html

●スイス: ミューレベルク原発に事故があれば首都避難に
ドイツのエコ・インスティテュート研究所が、スイス・ベルン州にあるミューレベルク原発の事故避難計画の評価を行った。ミューレベルク原発で福島第一原発事故に相当する事故が起こった場合、スイス国土の4分1が汚染され、首都ベルンを含む広域の18.5万人が避難を余儀なくされるほか、風向きによってはドイツのミュンヘンまで初年は1ミリシーベルト以上の汚染が広がる。またアーレ河に沿ってビール湖が汚染され、その水は北海へと流れて飲料水源を汚染する。国の避難計画では20㎞以上の地域の対策や水系の汚染は想定されていない。調査を依頼したのは、3.11以前より脱原発とエネルギー政策に熱心な社会責任医師の会と環境保護医師の会、そしてグリーンピーススイス。汚染の予測は下記からヴィデオで見られる。 http://www.greenpeace.org/switzerland/de/Kampagnen/Stromzukunft-Schweiz/Atomstrom/Wo-endet-die-Reise-wenn-der-Reaktor-explodiert/Fukushima-in-Muehleberg/

●ドイツ:7600㎡の太陽熱温水器と季節間蓄熱
バーデンヴュルテムベルク州のクライルスハイム市では、市営インフラ公社によりドイツ最大規模の太陽熱温水器を用いた地域暖房が実現した。温水器のパネル面積は7600㎡、260世帯の新興住宅と学校、スポーツ施設の熱需要の50%を担う。パネルは7棟の屋根と遮音丘に設置されている。480㎥と100㎥の2つのバッファータンクが夜間や悪天候時のバランスをとる。さらに地中39000㎥を用いた季節間蓄熱体を設置。これは深さ55mの地中採熱管から成る。この地中に夏の余った太陽熱を貯めておいて、冬に使う。この熱は冬の間取り出されて、地中熱ヒートポンプを介してお湯を作る。季節間蓄熱体を使わなくても、太陽熱によるエネルギー供給率は通年で35%、夏には100%を達成。季節間蓄熱体を使うと、通年の供給率が50%となる。
出典:www.ee-news.chhttp://www.stw-crailsheim.de/

●ドイツ:村の地域暖房に1000㎡の太陽熱温水器
市民出資のエネルギー会社ソーラーコンプレックス社では、現在、2か所の地域暖房網の施工を進めている。スイスに囲まれたドイツの村ビュージンゲンでは、この秋から熱供給が始まる予定だ。熱源は1000㎡の太陽熱温水器とチップボイラーの組み合わせ。太陽熱を活用して、有限な資源であるチップ消費を節約する。 また2013年に竣工予定なのがエーミンゲン村の地域暖房網。こちらは2基のバイオガス装置の排熱が通年の熱需要のベース負荷を担う。そして冬のピーク時にはチップボイラーを併用する。熱供給網の長さは20㎞、400棟の建物に接続する予定で、投資額は1000万ユーロ。同社が手掛けてきた熱供給網の中では一番大きな規模となる。
出典:www.solarcomplex.de

●ドイツ:9月14日に風力とソーラーの発電最高記録
IWR(国際経済フォーラム再生可能エネルギー)によると、2012年9月14日の13時~14時にかけて、ドイツでは風力とソーラーが送電網に送り込む電気の出力量が31.5GWに達した。これはドイツの新記録となる。この時点で稼働していた発電装置の出力(69.4GW)のうち45%がソーラーと風力によるもので、内訳は風力が15.4GWでソーラーが16.1GW。従来電源の需要は夜間並に抑えられた(40GW)。 風力だけ、あるいはソーラーだけを見るなら、9月14日以上の発電出力を達成した記録はこれまでにもある。だが風力とソーラーを合わせて30GWを超えたのは初めてだ。
出典:IWR(Internationale Wirtschaftsforum Regenerative Energien)

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« バイエルン州レッテンバッハ... | トップ | エネルギー自立と地域通貨 »
最新の画像もっと見る

再生可能エネルギー」カテゴリの最新記事