滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

新しいバイオエネルギー村:1000㎡の太陽熱温水器で、村に給湯熱供給

2013-08-25 16:21:56 | 再生可能エネルギー

残暑お見舞い申し上げます。今日は出張先のスコットランドからの更新です。

私の暮らすスイスでは、先日、大企業の声を代表する経団連エコノミースイスの新しい理事に、大手電力会社AXPOの経営代表者が就任しました。これまでもエコノミースイスは、原発推進、エネルギーシフト反対を支持する中心的団体でした。この団体は組織的に行き詰まっており、方向転換を求めての今回の人選だったと報道されています。ですが、AXPOはスイスで原発の割合が最も多い電力供給会社。その社長がトップになったということは、スイスの経団連のエネルギー政策への姿勢は、方向転換どころか、現状路線をますます強めて行きそうです・・。

この秋の国会は、スイスのエネルギー政策の正念場です。3.11以降に準備されてきたエネルギー戦略2050に関わる、脱原発とエネルギーの大転換の基盤となる諸法案がやっと決議されるのです。業界通の友人は、水面下で原発・化石エネルギーロビーが政治家に大きな圧力をかけている様子を語ります。エネルギー大臣ドリス・ロイトハルドさんには、圧力に負けずに骨のあるエネルギー政策を貫いて欲しいものです。

そんな国レベルでの生臭いエネルギー政策の土俵とは異なり、スイスやドイツの各地域では省エネ&再エネの楽しいエネルギーシフトがどんどん進行しています。先月には、来年に刊行する予定の共著本の取材のために、南ドイツに拠点を置く市民出資の再生可能エネルギー建設会社であるソーラーコンプレックス社を再度取材しに行きました。経営者の方に、この10数年間のビジネスモデルの変遷をお聞きすることができて、非常に興味深かったです。それについては本の中で紹介するとして、今日はその帰り道に見てきた、同社の最新のバイオエネルギー村について紹介します。



南ドイツのビュージンゲン村は、周辺をすっぽりスイス国土に囲まれた村で、ソーラーコンプレックス社が手掛けたバイオエネルギー村の中では8つ目になります。通常のバイオエネルギー村では、まず農家のバイオガスによる電熱併給設備があって、その排熱を地域暖房に供給し、足りない分は木質バイオのチップボイラーでまかなうというケースが多くなっています。ただビュージンゲン村の場合は、農家のバイオガス設備がない環境でした。つまり給湯負荷を担うコージェネ排熱がないという条件だったのです。

もちろんそのような場合でも、木質バイオマスにより地域暖房の熱負荷(暖房と給湯)を通年して賄うことは可能です。ですが、ソーラーコンプレックス社は二つの理由から別の方法を選びました。一つ目の理由は、生チップのボイラーを部分負荷で運転すると、クリーンな燃焼が行えず、効率も下がること。二つ目は、木質バイオマスは限られた資源で、普及につれて燃料価格も高騰していくこと。そこで、給湯負荷については、1000㎡のバキューム式太陽熱温水器(500kW以上)で担い、暖房負荷は木質バイオマスで担うことにしたのです。



こうして、ビュージン源村では、夏の間はチップボイラーのスイッチは完全に切っています。夏は太陽熱だけで90度の温水を作り大きな蓄熱タンクに貯めておき、中間期には太陽熱温水器をチップボイラーが補助、そして冬には両方を使うという組み合わせになっています。村の端にある施設から5㎞の媒熱管を介して、村の100棟の建物に熱供給を行っています。1000㎡という大規模な太陽熱温水器とチップを組み合わせた地域暖房は、スイスやドイツではまだ珍しいため、ソーラー業界からは注目を集めています。経営者の方によると、デンマークの地域暖房では既に数万㎡という規模の太陽熱温水器とバイオマスが組み合わされているというお話でした。

また経営者の方によるプレゼンテーションでは、ソーラーエネルギーとバイオマスエネルギーの資源獲得効率の違いを分かりやすく示しています。1ヘクタールの土地に設置した太陽熱温水器で収穫できる熱量は、一年120万kWh。対して、1ヘクタールの森林の一年の成長量から得られる熱量は、一年2万kWh。つまり、収穫効率は60倍です! これを見ても、バイオマスというのは、蓄積できる貴重な調整用のエネルギー源であって、クリーンかつ節約的に使っていくべきものなのだという基本を再確認しました。



ビュージンゲン村の太陽熱温水器は、地域暖房の設備棟の南ファザードに設置されたものと、建物の前後の敷地に平置きされたものから成ります。設備棟の屋上は、太陽光発電に使われており、これが循環ポンプを動かすための電気を作っています。夏の間の太陽熱の割合は100%ですが、冬の日射が少ないため、通年の熱供給量(3500MWh)での割合は11%となるそうです。ビュージンゲン村では、太陽熱とチップという地域資源による地域熱供給により、年40万ℓの石油を代替。バイオエネルギー村化によって、今後、年35万ユーロというお金が地域外に流出することを防げることになります。

同社では現在、新しいバイオエネルギー村たちを建設・計画中で、その発展は興味深いところです。例えば、現在計画準備中のある村では、風車と地域暖房を組み合わせる計画も出てきています。電力需要が少ない時間帯に、風力が大量の電気を生産するような時に、安い価格で売電するよりも、余剰電力を使って電気ボイラーでお湯を作ってためておき、その分のチップを節約するという方法です。内陸ドイツでも太陽光や風力が普及して発電価格が低くなり、買取価格も低くなるにつれ、余剰な再生可能電力の熱分野への転用が広がっていく兆しを感じました。

参照:www.solarcomplex.de


ニュース

滋賀県嘉田知事、ドイツの「市民エネルギーヴェンデ」のカルタに署名
8月中旬、滋賀県の嘉田由紀子知事がドイツ・バーデンヴュルテムベルク州に、エネルギーヴェンデの視察のために訪れた。そして、市民エネルギー会社ソーラーコンプレックス社の訪問の際に、同社代表のベニ・ミュラー氏と共同で「エネルギーカルタ」に署名した。署名の様子は、下記リンクに多数の「エネルギー市民」たちの写真と共に掲載されている。
 http://www.die-buergerenergiewende.de/energiebuergerinnen-beitrag/energiewende-deutsch-japanisch/

同カルタは、ドイツの市民の手によるエネルギーシフトを促進する環境団体らのキャンペーン「市民エネルギーヴェンデ(エネルギーの大転換)」が発行しているもの。スローガンは「私たちがエネルギーヴェンデ」だ。カルタは、3つのポイントへの賛同を求める。 一.100%再生可能エネルギーを、確実かつ可能な限り素早く達成すること ニ.市民の手による分散型エネルギー供給に優先権を 三.(エネルギーヴェンデによる)収益とコストの公正な分配を 総選挙を控えるドイツではカルタに署名した政治家のリストが同団体のサイトで公開されている。署名した候補者の数は全国で既に411人に上り、地域別に検索することができる。 滋賀県から100%再生可能エネルギーへの大転換を、市民の手により目指す運動が広がっていくことを期待したい。

嘉田知事の視察の様子は、下記の知事フェイスブックで詳しく報告されている。(署名については8月16日の掲載)
https://www.facebook.com/yukiko.kada.5?fref=ts

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