SUPER FLAT 2

非ファルス的にもっこりするものを肯定せよ!(神の性的不器用あるいはその性的悪戯に由来するもの達について)

インランド・エンパイア17

2009年06月18日 | Weblog
 ローラが「引越しの挨拶」に来たときリンチに起こったことは、つまりフロイトのいうところの「不気味なものの経験」である。リンチが家で女優ローラについて何かしら考えていたときに、そのローラ当人が突然「引越しの挨拶」をしにやって来たのだ。おそらくリンチは同じ町にローラが引っ越してきたことをすでに知っていた。あるいはローラの姿を町で見かけたが、しかしその知覚自体は感情的な動機により抑圧され、意識にのぼらない。にもかかわらず他方で、その情報を受け取った無意識は独自に連想の糸をたどり、ローラのことを心にのぼらせる。つまり一つの情報が二つに分割され、別々の回路で処理される。そしてそのあいだにリンチとローラの距離が近づく。結果としてリンチは、ちょうどローラについて考えていたとき、まさにその当人から声を掛けられることになったのである。

>ここでは「不気味なもの」の経験、つまり非世界的存在についての経験が、情報を処理する複数の回路(目‐意識と目‐無意識、さらに耳‐意識)の衝突、あるいは速度のずれの効果として見事に説明されている。以上のフロイトの分析はそのまま、『マルクスの亡霊たち』でデリダが「目庇効果(まびさしこうか)」――向こうからは見えるがこちらからは見えない――と呼んだ幽霊特有の性質、つまり声‐意識(フォネー)に一方的に侵入する幽霊の能動性についてのすぐれた解説にもなっていると思われる。(東浩紀『存在論的、郵便的』188ページより抜粋)

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