円「三度目の正直」で1ドル115円台に パウエル氏再任で
マーケットニュース
2021年11月23日 13:12 (2021年11月23日 15:49更新)
23日の外国為替市場で円相場は2017年3月以来、4年8カ月ぶりに一時1ドル=115円台まで円安・ドル高が進んだ。前日にバイデン米大統領が米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長を再任する方針を発表したことを受け、金融緩和の縮小が進むとの見方からドル買いに弾みが付いている。円の総合的な実力を示す実質実効為替レートは約50年ぶりの低水準に近づいており、円が売られやすい地合いだったのも背景にある。
「1ドル=115円の壁は破られやすくなっていた」。みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストはこう分析する。「円売りの地合いが続いていたところにパウエル再任方針と日本の祝日が重なり、取引量の小ささから値動きが荒くなったのが大きい」(唐鎌氏)。日本の祝日時間に入り商いが薄いなかで、円相場は節目の1ドル=115円を一気に突破した。
円相場は今年10月以降、1ドル=115円を伺っては到達しない場面を繰り返してきた。9月の米小売売上高の発表を受けて10月20日、一時1ドル=114円台後半と3年11カ月ぶりの円安・ドル高水準をつけた。その後はしばらく足踏みの状態が続き、1ドル=113~114円台で推移。10月の米小売売上高発表後の11月17日に再び1ドル=115円を伺う値動きとなり1ドル=114円97銭近辺をつけたものの、ドルの上値は重かった。
1ドル=115円近辺には為替予約やオプション取引に伴う売買注文が集中していたとみられ、これが1ドル=115円を伺いつつもなかなか突破しなかった要因の1つのようだ。ただ「過去に2度トライしていたことで、注文は消化されていた」(国内銀行)可能性が高く、4年8カ月ぶりとなる1ドル=115円の大台を突破する条件はそろっていた。
ニッセイ基礎研究所の上野剛志上席エコノミストは「これまでなかなか1ドル=115円に到達しなかったのはインフレを背景とした米景気への先行き不安もあったとみられる」と分析する。パウエル議長の再任方針を受けて金融政策の不透明感が晴れ、「米景気回復への期待感にもつながった」(上野氏)ようだ。
シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)が算出している短期金融市場が予想する米利上げ確率をみると、22年末までに3回以上の政策金利の引き上げを見込む割合は6割強に達した。長期金利の指標となる10年物国債利回りは1.6%台に上昇(債券価格は下落)し、日米金利差の拡大も円売り・ドル買いを促した。
心理的な節目だった1ドル=115円を突破し、市場では「目先はドル高方向に進みそうだ」との見方が強い。金融緩和の縮小にカジを切っていたパウエル議長の再任が濃厚になり、新型コロナウイルス禍後の金融緩和を続ける日銀と米国とのスタンスの違いが浮き彫りになった。
そもそも円の実力は低下傾向にあった。国際決済銀行(BIS)が今月公表した10月の実質実効為替レートは68.71となり、1972年並み(67台)の低さに落ち込んだ。日本の物価上昇率が海外に比べて低く推移したことが主な要因だ。実質実効為替レートは様々な国の通貨の価値を計算し、さらに各国の物価変動を考慮して調整した数値。市場関係者は「エネルギー価格の上昇も背景に円が『全面安』となっていた」と口をそろえる。
今回、FRB人事によるドル高と、従来からの円安地合いの両方が節目突破をもたらした。この先もしばらく円安・ドル高基調が続くとの見方が多い。