本来、運動をすると、自律神経のバランスは崩れやすくなります。
特に、ハードな運動の場合、酸素を取りこむ量が減るため、交感神経が過剰に働きます。交感神経が過剰に働くと、血管が収縮し、水の流れているホースを指でギュッと押さえたときのように、ピューッと勢いよく血液が流れるようになります。すると、細くなった血管内を赤血球や白血球、血小板などがものすごいスピードで流れることになるため、血管の内側を構成している細胞が傷つき、その傷に血小板などが引っかかって血栓になります。その結果、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まります。
しかし、スクワットをすると自律神経のバランスが整います。その最大のポイントは、「深い呼吸」にあります。息が切れるような運動に対して、スクワットは、ゆっくり深く呼吸をしながら行うことができるからです。
もちろん、「深い呼吸」をしながら行う運動はスクワットだけではありません。
たとえばヨガは、呼吸を大切にする運動として知られています。健康効果の高い素晴らしいものですが、実はポーズによっては、取りこむ酸素量が減ってしまうこともあります。なぜなら、深い呼吸をするためには、まずはしっかり息を吐いて肺を空っぽにしてから、たっぷり酸素を吸う必要があるのですが、体が前傾していると、肺が圧迫されるため、息を吐き切れなくなるからです。
スクワットで鍛えられる筋肉のひとつに、大腰筋があります。ここを鍛えることで、腰痛や、ぎっくり腰を防ぐ効果が期待できます。
大腰筋は、骨盤まわりを逆V字形に覆っており、腹部と下半身をつないでいる重要な筋肉です。長時間デスクワークをしていたり、電車や車で座ったりして、大腰筋が収縮した状態が長期的に続くと、大腰筋は徐々に縮こまり、硬くなっていきます。そのため、縮んだ大腰筋に引っ張られるような形で骨盤が前傾し、猫背や出っ尻になります。すると今度は、体はバランスをとるために、体を反らす働きがある背中側の筋肉に負荷をかけます。その結果、背中側に負荷がかかり続けて、腰痛やぎっくり腰を引き起こしてしまうのです。
よく、「姿勢が悪いと腰が痛くなる」と言いますが、姿勢を正すだけでは根本的な解決にはなりません。なぜなら、大腰筋が縮んだ状態で固まっていると、姿勢を正そうとしても大腰筋がしっかり伸びず、背中側の筋肉に負荷をかけてしまうだけだからです。
そこで大切なのが、大腰筋をしっかり動かし、本来あるべき伸縮性を取り戻すことです。
大腰筋は、股関節を大きく曲げ伸ばしするときに使われるので、大股歩きをすれば動かすことはできます。ところが、日本人の多くは、ひざを持ちあげて歩く「ひざ歩き」をしているため、ほとんど使えていません。そして、たとえ大股歩きを心掛けたとしても、大腰筋が衰えている人は骨盤が前傾しているため、どうしても猫背になってしまいます。そのため、縮こまった範囲内でしか大腰筋を使うことができず、しっかり伸ばすことができません。
その点、しゃがむ動作を繰り返すスクワットなら、大腰筋を効率的に鍛えることが可能です。特に本書で紹介している「背筋伸ばしスクワット」は、背中を壁につけて行うので、大腰筋をしっかり伸ばした状態で鍛えることができます。猫背が気になる人は、骨盤が前傾しないように、両手を骨盤に添えて実践するのもよいでしょう。