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自分で自分の髪の毛を抜くのは、「抜毛症(ばつもうしょう)」という、ストレスが根本にあって発症する、心の問題が絡んだ病気です。本人の癖や性格の問題と言われたり、見た目は円形脱毛症と似ていたりしますが、原因は全く異なります。抜毛症の特徴や解決策について、横浜労災病院の齊藤典充・皮膚科部長に聞きました。【聞き手=医療ライター・阿部厚香】
◇抜毛症に見られる五つの特徴
抜毛症は、子どもから大人まで発症し、特に学童期から思春期の子どもに多くみられます。無意識のうちに髪の毛に触れて引き抜いている場合と、本人が分かっていて抜いている場合があります。また、髪の毛の抜け方や毛の状態などに特徴があり、次のようなことからおおよその診断がつきます。
1.髪の毛があちこち不規則に抜けている。
2.脱毛した痕が丸くなっていない。
3.利き手が右なら頭の右横とその前後、左利きは左横とその前後が抜けている。
4.毛髪の中に途中で切れた髪の毛がある。
5.コイル状に丸まった髪の毛がある。
髪の毛は、手が届きやすいほうが触りやすいため、利き手側に不規則な脱毛痕が多く見られます。切れた髪の毛やコイル状に丸くなった髪の毛は、抜こうと引っ張って切れたか、抜いてはいけないと思い直して途中で指を放した跡です。
◇髪の毛を食べてしまうこともある
また、抜毛症は、意外な症状から見つかることがあります。それは、食欲不振や腹痛といった症状で、抜いた髪の毛を食べてしまうことに起因します。髪の毛は、飲み込んでも消化されません。そのため、胃液や食物などと混ざり合って、石のように硬い固形物になってしまうのです。このような塊を「毛髪胃石」と言います。食べ続けた結果、塊が大きくなると、むかつきや嘔吐(おうと)、便秘などの症状が表れ、腸閉塞(へいそく)を起こすこともあり、見つかった場合は手術で取り除かなければ命の危険もあります。
◇問題のない「いい子」がなりやすい
抜毛症の原因はなんらかのストレスで、日本で過去11年間の抜毛症を調べた研究によると学校に起因するものと家庭に起因するものがそれぞれ半数と報告されています。学校に関連するストレスは、友人や教師との関係、いじめ、塾に行きたくないなどが考えられます。一方、家庭によるストレスがある子どもには、父親が多忙でほとんど家におらず、教育熱心な母親と過ごす時間が長い、という共通のパターンがあります。
子どもが抜毛症と診断されると「こんなにいい子なのに」と母親は言います。しかし、それが子どもにとって心の重荷になっていることに気づいていません。抜毛症の治療は、場合によっては精神的なケアが大切ですが、親に原因がある時は親も同時にケアする必要があります。
◇髪の毛を抜かないための解決策
抜毛症の治療は、傷ついた頭皮や髪の毛に対しても行いますが、基本的には髪の毛を引き抜かなければ起きないため、心のケアに重点を置きます。まず本人が自覚する、その次に行動を変える必要があります。主な解決策を解説しましょう。
1)髪の毛に触らないようにする
髪の毛を引き抜かないようにするには、手で触らないことです。頭にバンダナをしたり、帽子をかぶったりして、直接、髪の毛に触ることができないようにすると効果的です。
2)本人が自覚するまで見守る
周りの人から「髪の毛を抜くな」「抜くのをやめろ」と言われるとストレスになります。本人が「よくない」「やめたい」と思うようになると、行為は止まります。そう思えるまで温かく見守ってください。
3)相談できる人を探す
やめようと本人が思いすぎると、かえってストレスになって髪の毛を抜いてしまいます。そのような時は、気軽に相談できる人がいたほうがよいと思います。心理学の専門家であるカウンセラーに限らず、いろいろな人に会うこともいいのではないでしょうか。仲間や自分が楽に過ごせる場所ができると、よい意味でストレスからの逃げ道ができ、行動が変わるきっかけになります。
◇抜毛症の兆候と原因を見つけるには
抜毛症は、一見なんの問題もない、いい子に発症します。本人に聞いても心理的なストレスの原因や自分で髪を抜いているとは言わないので、抜毛症と思ったら、ふだんの行動をそっと観察しましょう。机やベッドの上に抜け毛が増えていないかにも注意が必要です。自宅で抜く行動は見られないのに薄毛になってきた時は、通学中に髪の毛に触っていることがあります。学校が楽しいかどうかも聞いてください。そして、抜毛症では、親の言動が子どもの心にストレスを引き起こすことがあるということも頭の片隅に入れておきましょう。