goo blog サービス終了のお知らせ 

カンチャン狂騒曲

日々の事をあれこれと、大山鳴動してネズミ1匹がコンセプト。趣味さまざまなどを際限なく・・。

仔羊の頭・・・

2016-03-26 09:08:26 | 本と雑誌
 「仔羊の頭」を読んだ。 

 スペイン内戦の戦前・戦中・戦後を、か弱き子羊たちの目線で描いている。

 では内戦で右往左往する哀れな市民の姿ばかりが描かれているのかというとそうでもない。

 
 「仔羊の頭」フランシスコ・アヤラ(著)松本健二・丸田千花子(訳)2011.3現代企画室(刊)

 14ページにわたる序文から始まる5つ短編から構成されている。

 序文に作者の思い入れが記されていて、スペイン内戦の意味と自分の責任というものが語られる。

 「言伝」:数年ぶりに会った従兄弟との会話と意味不明のメモをめぐる物語。判然としないまま時代は動く。

 「タホ川」:反政府側に参加した中尉の葡萄畑での出来事。内戦後に心の沈殿物が浮き上がってくる。

 「帰還」:帰還した祖国で居場所を見つけられずに苦悩する亡命者。

 「仔羊の頭」:たまたま自分とルーツが同じだという家族と、興味半分で食事をする中で出された羊料理。
        デンと鎮座する「仔羊の頭」を見ながらの脂っこい料理を食べ、帰ったホテルで消化不良のため嘔吐する。
        自分の過去、家族、内戦・・・そして自分自身の生き方そのものが消化不良であった。

 「名誉のためなら命も」:作り話ではないとことわって、数奇な体験を語る人の話を物語として構成している。

 5篇のすべてが、作者独特の語り口でユーモアさえ感じるし、内戦を描きながら軍の戦闘場面は無い。

 3年間に及ぶスペイン内戦は、国民を抜き差しならぬ対立感情に巻き込み、その後心的後遺症に苦しむことを強いる。

 内戦に勝利したフランコ政権独裁は1975年まで36年間つづく。

 作者の著作が原文のままスペインで発刊されるのは内戦終了後のずっと後になる。

 21世紀になって「セルバンテス賞」を受賞し、そのスピーチの中で昨今の読書離れを憂う言葉があえて発せられたというが、本によって想像逞しいドン・キホーテが生まれた国としては、心配でならなかったのだろう。

 にほんブログ村
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする