南の国の会社社長の「遅ればせながら青春」

50を過ぎてからの青春時代があってもいい。香港から東京に移った南の国の会社社長が引き続き体験する青春の日々。

貝をめぐる回想

2009-02-09 00:34:00 | 古代中国
この一月にハワイに行ったとき、ワイキキのビーチウォークに
入っているお店で小さな貝殻の袋詰めを買いました。石鹸や
キャンドルなどを売っているお店でしたが、貝を部屋のインテ
リア用に売っていたのです。何故これを買ったのか、妻は訝し
がっていましたが、実をいうと、このミックスの中に宝貝
(子安貝)の小さいのがいっぱい入っていたからです。
子安貝というと安産のお守りとして使うところがあるのですが、
私がその貝にこだわったのは、日本の少子化問題を何とかしよ
うとかそういう理由ではありません。

実は、古代中国の殷の王朝(商の王朝)の時に使われた最も
古い貨幣がこの貝だったのです。私は宮城谷昌光さんの古代
中国に題材をとった小説が好きで、数年前によく読んでいた
のですが、その中の『王家の風日』という作品があります。
今から3000年以上も前の話です。その中に、費中という役人
が当時の受という帝王に向かって、子安貝を通貨として使用
する案を提案する場面が出てきます。

子安貝は当時、中国の東か南の沿岸でしかとれないもので、
生命の誕生への呪力をもつものとして、王室では尊重されて
いたものですが、それが国の公式の通貨として認定されること
になっていきます。実はこれが商業の始まりでした。商業の
「商」はこの商王朝の「商」のことだったのです。
貨幣経済の始まりでした。

漢字の貝の文字は、この子安貝の形から生じた象形文字でした。





通貨を意味したこの貝の文字は、お金にかかわる様々な漢字に
使われています。「賣」(売という文字の旧漢字)にも、
「買」という漢字にも「貝」が入っているし。「販」にも、
「貨」にも、「財」にも、「賃」にも、「費」にも、「資」
にも、「貢」にも、「贈」にも、「賄賂」にも、「貯」にも、
みな「貝」が入っているのですね。「敗」や「貧」という文字
にも入っていますが、これは一文無しになってしまって悲しい
感じですね。今の日本にも実は貝がこんなにも活躍していたと
はあらためてびっくりです。

さらに、「朋」という文字。これは一見、貝には関係ないよう
に見えますが、この二つの月は実は宝貝を紐で束ねたものを
二つ並べたものの象形文字だったのです。この「朋」も先ほど
の『王家の風日』の中で費中が受王に提案しています。貝を
つらねてひとまとめにしたものを「朋」と呼び、通貨の基本
単位とすることになるのです。この文字がやがて「ともだち」
の意味で使われるようになるのですが、これは対等のものを
並べるということなんですね。



昨年、仕事で上海に出張したおり、ちょっと時間があったので、
上海博物館を訪問しました。ここは以前にも行ったことがある
のですが、通貨のセクションがあるのでとくに気に入っていま
した。陶器や、書などもいろいろあるのですが、時代とともに
変遷した中国の通貨を眺めていると、それを使って生活をして
いた人々の姿が見えてきそうで何時間も眺めていても飽きま
せん。



これがその通貨の展示の入り口付近にある貝の通貨の展示です。
3000年以上前の人々がこれを通貨として使って、商売をして
いたのかと思うと不思議な気持ちになります。ある場所では
ハワイで買った貝のように、簡単に手に入るのに、古代中国の
海から離れた王朝では、希少価値だったのです。タイム
マシーンに乗って、このハワイで買った貝を持って、3000年
前の古代中国に旅したら、結構リッチな旅ができるのかも
しれないなんて思ったりする私でした。