南の国の会社社長の「遅ればせながら青春」

50を過ぎてからの青春時代があってもいい。香港から東京に移った南の国の会社社長が引き続き体験する青春の日々。

日本に帰ったら必ず食べるものは何?

2008-02-28 02:21:41 | 日本
昨日、日本から香港に帰ってきました。いつものことながら短い
滞在なのですが、日本に行くと忘れていた懐かしいものがいっぱい
あります。また日本でしか感じる事のできない感覚、空気、味覚
などがあるものです。ときどきそういうものを思い出すことも必要
なのだと思います。

日本に帰ると、まず何を食べたくなるのか、という質問をよく受け
ることがあります。香港には、寿司屋もあれば、居酒屋もあれば、
ラーメン屋もあれば、いろんな日本食屋がいっぱいあるのですが、
日本でしか味わえないもの、香港では絶対に味わえないものもあり
ます。たまに日本に帰ると、海外では決して味わえないそういう物
が恋しくなるものです。

例えば上の写真の『釜焼き』。これは東京の門前仲町にある石と
いうお店にしかない料理なのですが、日本に帰るたびに食べたく
なるものの一つです。何と言ったらよいのでしょう、小さな土鍋
のような器に、こぼれそうなくらいたっぷりとかけられた茶色
の餡。それは一見、天津丼のようなどろっとした餡のように見え
るのですが、その『釜焼き』の餡は、オーブンで焼かれている
ため、ところどころ焦がされていて、それがまたビジュアル的に
食欲をそそる。

決して見かけは華麗ではない。しかしそこに素朴な味わいがある。
私は昔、水彩画をやっていたことがあるのですが、この料理は、
油絵や、ペン画ではなく、水彩画でしか表現できないのではない
かというような見かけをしています。水をたっぷりふくませた筆
で一気に描かないと、その実体を表現することができないであろ
うと思わせるその不思議な空気感。デジカメの写真ではいまいち
その本質が表現できていないなあと思ってしまうのであります。

しゃもじでその餡の下をつっつくと、卵生地にくるまれて地底
深く埋蔵されている野菜や豚肉などの具が発掘されてくる。
それが湯気の中で、餡と卵とからみあい、何ともいえぬいい具合
のハーモニーとなってやがて口の中で混じり合う。一瞬そこに
流れる至福の時間。ああ生きててよかったと思うのはそういう
瞬間であります。

美味しいとかいうありきたりの言葉で表現するのがもったいない
くらいの不思議な味覚。口に入れた瞬間がちょっと熱いので、
テレビ番組でよくレポーターがやるように、すぐにコメントを
発する事は難しいと思われます。いろいろ言葉を探しても結局
この美味しさを的確に表現する言葉が見つからないので、結局は
美味しいという形容詞でしか表現できないということがわかる。
この料理を前にしては、洒落た美辞麗句がいかに無力で意味の
ないものかというのを思い知らされる。

決して、日本一だとか、ナンバーワンだとか比較すべきもの
ではなくて、比較のできないオンリーワンの料理だと、石の
『釜焼き』を食べるたびに思うのです。本当にこれは他の店では
食べることができないし、海外には絶対にない味覚なのです。

門前仲町の外れのひっそりとした小さな料理屋『石』でしか味わえ
ないこの『釜焼き』。その場所は、門前仲町に来ても、見つけにく
いし、仮に見つけたにしても、小さなお店がお客さんでいっぱいの
ときは、お店に入れない事もある。だから、このまぼろしの料理の
ことを知っている人はまだ少ない。

お店でこっそりメニューの写真を撮影しました。この手作りな感じ
がまたいい感じです。デザインは完璧すぎると、逆に魅力がなく
なってしまうことが多いのですが、このくらいのアバウトな感じ
は逆に非常に魅力的なデザインとなっています。

今の季節、『牡蠣の釜焼き』というメニューがランチメニューに
あります。この牡蠣の釜焼きも食べたのですが、これまた絶妙な味。
私は、実は生牡蠣はそれほど好きではないのですが、牡蠣フライは
好きです。この牡蠣の釜焼きは、牡蠣フライとはもちろん味覚は
違いますが、これはこれでいい感じなのです。生牡蠣の苦手な私も
この牡蠣の釜焼きはとても美味しいなと思うのです。冬場はこの
牡蠣の釜焼きを食べることを目的に東京まで来て、この店を探し
当てるという価値は十分にあると思います。

以前、この店に、韓国からの女性の旅行者が寄ったことがあると
いう話を聞きました。その女性は『釜焼き』を食べた後、「日本
で食べたもののうちでこれが一番美味しかった」と言ったのだ
とか。その人の気持も何となく理解できるような気がします。
本当に美味しいものってミシュランとかで星をもらう店以外の
ところにさりげなくころがっているのだと思います。

ランチタイムは月曜から金曜までで、釜焼きのメニューはこちら
です。

ミックスというのが、豚、海老、鮭が入ったもの、ぶた釜は豚肉
を使ったもの、あなご釜はあなごを使ったものというような感じ
で数種類の釜焼きメニューがあります。あなごの釜焼きはまだ
食べたことはないのですが、是非トライしたいメニューです。
私はあなごも好きなのです。

このお店は夜も営業していますが(日曜祝日は休み)、釜焼きは
夜も食べられます。注文して出来上がるまでに多少時間がかかる
のですが、待つ価値のある一品です。これは他の場所にはないし、
弁当で持ち帰ることもできないのですが、こういうのこそ幻の
料理というのではないかと思うのですね。

日本に帰って、高級な寿司や、天ぷらや、すき焼きや、しゃぶ
しゃぶなどは食べてないですけど、この石の『釜焼き』を食べ
られただけで、そういう高級料理を食べたよりもずっと幸せな
気持になります。それもわずかこの値段でそんな幸せが買える
なんて今時あまりありえないですよね。