
ブラームスのホルン三重奏曲(作品40)とクラリネット三重奏曲(作品114)は、これまで私は聞いたことの無い曲である。このCDは二週間ほど前に購入してきたものである。前者が2002年、後者が2004年のウィーンでの録音と記載されている。
ホルン三重奏曲(作品40)はブラームスが32歳の時の作品である。第3楽章を除き若い頃のブラームスらしい躍動感あふれる曲である。ホルンをホルンとヴァイオリンとピアノの編成。ただし作曲家自身はホルンに変えてヴィオラでの演奏も認めているとのことである。
ホルン用の室内楽曲はブラームスはこの1曲しかない。管弦楽曲特に4つの交響曲いづれでもホルンの美しい旋律があり、かなり気に入った楽器であったようなので室内楽曲ではこの曲しかないというのが不思議な気もする。
ホルンとヴァイオリンの組合せは私はどうしても想像できなかった。あまりに質の違う音がうまく噛みあうのだろうか。このふたつの音をピアノが結びつけられるのか、と思っていた。
しかし実際に聞いてみると実によく合うものである。不思議な気分になった。第一楽章の冒頭から低音のヴァイオリンとホルンが絡み合って響いてくる。それに合わせるようにピアノが歌い始める。ここでヴァイオリンが高音の重音で絡み、さらにホルンが加わる。冒頭から私の危惧というか不安が解消されてしまった。
第4楽章は華やかでエネルギーあふれる曲である。ヴァイオリンが美しい。
この曲でもっとも惹かれるのは、悲歌ともいうべき第3楽章である。情緒に流されて通俗に陥りそうでいてギリギリのところで踏みとどまっている憂愁の気分、これはこの曲が出来る直前に亡くなった母へのオマージュともいえるとのこと。
このころホルンという楽器は大きな変わり目を迎えていたとのこと。現在使われているバルブホルンが作られ、従来のホルンにとって変わろうとしていた時期らしい。ブラームスは古い形態のホルンを念頭にこの曲を作っている。
クラリネット三重奏曲(作品114)はホルン三重奏曲とは違ってブラームス58歳、最晩年の1891年に作られている。こののちの室内楽曲では同じ年にクラリネット五重奏曲と、1895年にできたクラリネットとピアノのためのソナタ2曲だけである。
編成はクラリネットとチェロとピアノ。この曲もクラリネットをヴィオラやヴァイオリンに変えて演奏されることもある。作曲家自身は有名になっている五重奏曲よりもこちらの三重奏曲の方が好きだと言明しているとのこと。若い頃に作られたホルン三重奏曲と比べると晩年のブラームスの甘美と沈潜した抒情が際立って聞こえる。
冒頭のチェロとクラリネットの少し悲しげな音型に基づく掛け合いにピアノが絡んで高揚していくフレーズは印象的である。
第2楽章は長いクラリネットの奏でる主題が印象的。第3楽章もクラリネットの比重が高い。第4楽章はこれまでとは違って躍動的であるが、若い頃の躍動感とは違って落ち着いた雰囲気が漂う。
このふたつの曲、もっと昔から聞いていればよかったと悔やんでいる。



