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伊東良徳の超乱読読書日記

はてなブログに引っ越しました→https://shomin-law.hatenablog.com/

群青の空に薄荷の匂い 焼菓子の後で

2008-01-13 10:31:33 | 小説
 「卵と小麦粉それからマドレーヌ」の続編。
 小学校時代にいじめにあい別居中の父親の言葉を支えにそれを乗り切り、その後大人びた文学少女になった高1の川田亜矢を主人公に、北村菜穂ら友人たちとの関係、2人暮らしの母との関係を描きながら、再会した小学校の同級生との恋をめぐりいじめの過去と向き合う亜矢の心を描いています。
 パパっ子だった亜矢の母親との関係はなかなか難しいものがありますが、時に喧嘩しつつも次第に母親を好きになっていく様子が気持ちよく読めます。同時に別居後も月1回続けているパパとのデートを通じての別居した父親との心の交流も好感が持てます。そしていじめが始まる前に転校していった同級生との再会と淡い恋、しかし、そのために度々いじめられた過去を思い出さざるを得ない亜矢の辛さも巧妙に位置づけられ、それと向きあい成長していく亜矢の様子にすがすがしさを感じられます。
 亜矢を主人公にしたことで前作より重いテーマが描かれているのですが、やはり悲劇的にならずにさらりと読めました。
 文章は、前作から6年経ったせいか、話者を入れ替えたのにあわせたのか、前作より少しシャープな感じがしました。前作の文章の方が私の好みですが。


石井睦美 ピュアフル文庫 2007年11月18日発行
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卵と小麦粉それからマドレーヌ

2008-01-13 08:04:54 | 小説
 普通か少し子どもっぽい中1の少女北村菜穂が、大人びた友人の川田亜矢らと過ごしながら、母親のフランス留学にとまどいそれを受け容れ成長していく様子を描いた青春小説。
 ママっ子だった菜穂が母と離ればなれになることを受け容れ、父親と2人で生活してゆく様子を通して家族の関係・絆を描き出しています。
 その中で友人の川田亜矢が大きな存在となっていて、その大人びた視点は小学生時代のいじめとそれを乗り越えてきた過去、両親の不仲と別居している父親との絆などから形作られているのですが、それが重苦しくなく描かれていることに作者の力量を感じます。
 文章も、何気ない言い回しが心の襞を示していたり、小じゃれていたり、軽いのですがどこか、うまい。
 重苦しいテーマもあるのにほんわかした気分で読めるところがいい作品だと思います。


石井睦美 ピュアフル文庫 2003年3月9日発行(単行本は2001年)
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記憶がなくなるまで飲んでも、なぜ家にたどり着けるのか?

2008-01-12 10:05:48 | 自然科学・工学系
 酒と脳の関係についての解説書。
 酒好き・底なし派と飲めない派の2人の学者が掛け合い的に書いているのが、常に反対からの見方読み方を提示していて、楽しく読めました。
 表題にある、泥酔してもなぜ家に帰り着けるのかについては、泥酔すると新たな記憶を作る能力は失われるが過去の記憶は利用でき、視覚情報から見慣れた景色の情報が入るとこの信号は右にとかいう情報を出すナビゲーションニューロンが働いて、いつもの道であればたどり着ける、しかし新たな記憶を作れないのでどうやって帰ったかは覚えていないということになるそうです(6~7頁)。でも日常的に通っているルートでないと機能しないので電車を乗り過ごしたりしてふだん行ったことのない場所に連れて行かれたらもうダメだとか・・・(8~9頁)。
 酒を飲むと摂取したアルコール量に比例して脳の神経細胞が消えていくそうです(>_<)。加齢でも脳は萎縮するけどアルコールによる萎縮は人間の行動を理性的に抑制している前頭前野から進むんだとか(101~102頁)。う~ん。
 でも、ほろ酔い状態の時に脳は最も活性化するそうです(42~47頁)。これを底なし派は脳の情報処理能力が高まっていると解釈し、飲めない派は脳の機能低下をカヴァーするために多くの部分を活性化させて取り組むことになり反応時間が速くなるのは酔って抑制が外れていきおいで適当に判断しているためと解釈していますが。どちらにしても、ほろ酔いでは止められないのが酒飲みなんですよね。


川島隆太、泰羅雅登 ダイヤモンド社 2007年11月29日発行
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旗本夫人が見た江戸のたそがれ 井関隆子のエスプリ日記

2008-01-09 20:01:04 | 人文・社会科学系
 旗本夫人で息子が大奥との連絡等の事務を行う役人だった井関隆子が幕末近い天保年間の5年間にわたって書いていた日記を紹介した本。
 江戸時代の風俗や習慣が描かれていて興味深く読めますが、あくまでも幕府の役人の家庭からの視点ですので、一般庶民にとってはたぶん違う感じなんだろうなとも思えます。
 水野忠邦の「天保の改革」についてはかなり批判的で、その点も興味深い。忠邦は「世間には節約するようにと、厳しいお触れを出して、これも将軍家のためであるといいながら、自分自身は領地を増やしてもらっている。また、世には厳しく禁止されている賄賂なども、水野殿自身は、何事につけても、受け取っている。そういう人物である」(136~137頁)とか。それじゃあ改革も失敗するわなと納得します。
 この天保の改革関係と江戸城大奥の火事(192~205頁)あたりが読ませどころでしょうか。
 新書ですから、まぁ当然とも言えますが、新たな研究発表ではなくて二十数年前に書かれた本の要約・焼き直しのようです。そのためか同じことが何度も出てきたり、本文と最後のまとめ的な部分に対応のズレがあったりして、ちょっと気になりました。


深沢秋男 文春新書 2007年11月20日発行
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君空

2008-01-07 08:02:31 | 小説
 ヒットしたケータイ小説「恋空」(2007年5月2日の記事で紹介)のヒロ側から書いたバージョン。
 恋空のストーリーのうち癌と知ったヒロが美嘉の幸せを祈って病気を隠して別れを切り出し、敢えて嫌われるようなことをし続け、しかしそれでも美嘉のことを思っていますということに関わる部分だけをピックアップしてつなぎ合わせた感じです。ただひたすら美嘉のことが好きだ、美嘉の幸せだけを願うというヒロ像を繰り返しそれに純化させたものです。それはヒロを美化したものか、こんなに思われるなんてという美嘉の陶酔/願望なのか。内容的には、今回の描写の中心となるヒロの心情も含めて、ほぼ恋空で書かれていることでわかっていることで(新事実は、例えばヒロパパがマヨラーだったとか:191頁(^^ゞ)、もう一度反芻したいファン向け。
 癌ものにしては、高3の秋の大量脱毛まで病状や治療についての描写はほとんどなく、その後も入院までは同様で、ヒロの苦しみは美嘉に真実を伝えられないことと美嘉と会えないことだけという状態。
 一生連れ添えないなら美嘉の幸せのために早めに別れるって(一方で60歳まで生きてやるなんて言いながら)、あまりに観念的。でも、そこは、若気の至りで、男性読者には、そうやって誤った道を選んでもリカヴァーして幸せになれることはあるって、そういう読み方もできるかも知れないところをポジティブに評価しておきたいと思います。
 あとがきの日付と奥付の発行日が同じって珍しいですが、まぁ年賀状に1月1日って書くのと同じでしょうか。


美嘉 スターツ出版 2007年10月17日発行
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樹の上の忠臣蔵

2008-01-06 12:48:13 | 小説
 山林に作ったツリーハウスで過ごす夜に娘たちが暇つぶしに始めた「コックリさん」で赤穂藩城代家老の家来の幽霊が呼び出されてしまい、その幽霊が忠臣蔵と幕末の討幕運動の謎を語るという設定での歴史蘊蓄小説。
 忠臣蔵で悪役になっている城代家老大野九郎兵衛を中心に据えて、慢性赤字だった赤穂藩を製塩への投資で経済復興し、赤穂城明け渡し後も塩相場での蓄財を用いて浅野家復興を画策し、討ち入り・赤穂浪士切腹後は幕府への復讐を誓い経済力による討幕運動を決意して実行するという役回りにしたところがポイントになっています。
 忠臣蔵自体は前半で終わり、むしろその後の経済活動による幕府の弱体化と幕末の討幕運動へのつなぎが独創的で、読ませどころかも知れません。米相場の長期的な下落による幕府の経済力の低下が独自の通信網による情報収集で相場に先んじた赤穂藩元城代家老の仕業とか、長州藩の経済成長がその赤穂藩元城代家老が儲けを意図的に移して行ったことによるとか、奇兵隊の討幕運動や薩長連合を経済的に支援した白石正一郎が大野九郎兵衛の養子の子孫とかいうのは、ちょっと苦しいですが、ミステリーとしては楽しい。江戸時代後半の歴史の展開が1つの藩のさらには1個人の意思/復讐心で大きく展開したというのは、危ない魅力を持ったロマンですね。
 作者は火山と地震で名をなしたのですが、前作(2007年1月6日の記事で紹介。あぁ、ちょうど1年前ですね)でも歴史ミステリーの方に力が入っていたように感じられ、本当は歴史の方が好きなのかも知れません。
 ところで、浅野内匠頭の刃傷事件を癇癪持ちで天気の悪い日にはそれが悪化したことによるとしているのですが、そこで「現代なら浅野方が腕のよい弁護士をつけて適当な精神科医の診断書を提出すれば『心神耗弱』という理由で無罪になった可能性もある」(96頁)というのは勘弁して欲しい。心神耗弱が認められても刑が減軽はされますが無罪にはなりません。無罪になるためには「心神喪失」と認められなければならなくて、癇癪持ちとか心臓神経症でそういう認定になるとは考えられませんし、心神耗弱だって認められるのはごく稀だと思います。


石黒耀 講談社 2007年12月5日発行
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女神のための円舞曲

2008-01-05 09:12:46 | 小説
 四半世紀前に死んだ母が残した自分の名前でのコンサート主催の予約を知らされ、その実現に向けて奔走することになった女性教師を軸に、死に向かいつつある筋ジストロフィーの青年の家族捜しと、殺人事件の捜査が絡みながら進展するミステリー仕立ての小説。
 主人公が人の死の予兆を見ることができたり、埋もれた才能が次々と発掘されたり、まるで世界が100人の村だったらというか冬のソナタというか登場人物が偶然にも事件や血縁で結ばれた人だったとわかっていく展開が、いかにも都合よすぎですが、それを受け容れられれば、ジグゾーパズルのピースがはまった快感で読めていけます。だから「女神」であり、それが運命なんでしょう。非現実的な設定ではありますが、人の運命を動かせるとしたら自分はどうすべきかっていうことを考えさせられます。
 ところで、お話の中で警察官が、やたら裁判員制度を意識して、裁判員だと自白だけじゃ無理だ、物証がいる(203頁、215頁)とか、早く自白すれば裁判は1年くらいで終わる(287頁、292頁)とかいうのは業界人としてはちょっと溜息。裁判員がきちんと証拠にこだわってくれることには期待したいところですけど。自白している事件で1年なんて引き延ばしたってかからないし、何よりもこのお話の設定が2007年8月31日にコンサートがあり(15頁)その日の逮捕ですから裁判員制度の実施まで1年半以上あるのでこの事件が裁判員に裁かれることはおよそあり得ないんですが・・・


大石英司 中央公論新社 2007年10月25日発行
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「言語技術」が日本サッカーを変える

2008-01-05 06:25:15 | 人文・社会科学系
 サッカーにおいても、自分で判断してそれを相手に論理的に伝えるということが大事だということを論じた本。
 冒頭に2006年ワールドカップ準決勝で1人退場して10人になったときイタリアチームの選手は誰1人ベンチを見なかった、ベンチの指示を求めず自分たちで決めたというエピソードが象徴的に示されています(8~9頁)。それに対して日本人選手はプレイの根拠を聞かれると相手の目を見て相手が求める正解を探そうとするということが対照的に語られます(10~11頁)。
 こういう例を引きながら、サッカーには正解はない、それぞれの場面で自分で考え判断することが大事、自分の判断とその根拠を語る習慣をつけることで考えてプレイするようになるということが著者の主張の軸になっています。失敗を繰り返し試行錯誤することから創造性が産まれてくるのに勝敗にこだわりすぎ失敗が許されない環境になりがちとも。
 間違ってはいけない、失敗が許されないというプレッシャーが子どもを萎縮させて伸ばさないという指摘は、サッカー以外も含めて肝に銘じたいと思います。何か聞かれたら「別に」としか答えず、気に入らないことには「ビミョー」でごまかしてしまう若者の対応を許していては、自分で考え判断する姿勢が育たないという指摘も、いまどきの子どもの親として、同感です。


田嶋幸三 光文社新書 2007年11月20日発行
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すぐに使える!ビジネス文章の書き方

2008-01-04 09:43:50 | 実用書・ビジネス書
 表題のとおり、ビジネス用の文書、特に企画書・マニュアル・取扱説明書を念頭に置いた文章術の本。
 優しい言葉で書く、あいまいな書き方をしない、言葉は正確に使うとかはよく言われるところ。
 1文を短く、ビジネス文章は1文平均40文字で書こう(175頁)。はい、わかりました。
 注意表示やマニュアルについて、一番言いたいことから書くことが強調されています。作業方法の説明で最後に「必ず電源を切った上で作業してください」と書くのは欠陥文書、これでは電源を切らずに作業してしまう(144~146頁)という指摘には納得します。こういう取扱説明書多いですもんね。
 冒頭に差別発言を挙げて障害者等がどう受け取るかの見識を問い、こういう欠陥文だけは書いてはいけない、文章は書き手の知性と品位を証明すると指摘している(20~25頁)のは、ビジネス書としてはユニーク。
 う~ん、これで1文平均46文字・・・


高橋昭男 PHPビジネス新書 2007年12月3日発行
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もの書き貧乏物語

2008-01-04 09:15:23 | エッセイ
 フリーライター稼業のリスクとよさなどについて論じたエッセイ。
 フリーライターで生活することがいかに大変かを語る部分(1、4、7等)は、自営業者の1人として、共感というかお察し申し上げます。お願いしてまで仕事をしたくないとか、胸を張って毅然と生きていきたいとか(31頁、77頁等)いうのも。
 この本の読みどころはやはり、この自営業者の悲哀と矜恃にあると思います。でもその周辺の、持ち込み原稿はコネがないと読んでももらえないとか記事潰しの動きとか取材相手との間合いの取り方なんかのライター稼業を取り巻く裏事情も、楽しく読めました。
 途中で「目下売り出し中の安部譲二氏」(57頁)とかいうのが出てきて、あれあれっと思ったら10年以上前に雑誌「公評」に連載したもののリライトだとか(あとがき)。そういうことは奥付の前頁に初出を示して断り書きしておいて欲しいなあ。


坂口義弘 論創社 2007年10月25日発行
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