伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

最後の陪審員(上下)

2008-01-20 07:55:09 | 小説
 リーガル・サスペンスを離れて社会派作家になった感のあるグリシャムの、日本語版では久しぶりに法廷シーンのある作品(原書ではこれより先に出版されたThe King of Tortsが日本語版未出版のため)。
 ということで期待を込めて読みましたが、リーガル・サスペンスとしてはかなり中途半端。刑事事件の裁判そのものは比較的簡単に上巻だけで終わってしまいます。その後それと関係のないミシシッピ州の郡部社会のあれこれが延々と続き、かなり間延びした後に最後にまたサスペンス仕立てとなるものの、犯人は、まぁ私は予想を外しましたが、あぁやられたって感じでもないし、謎解きも特になく今ひとつスッキリしません。物語としてみても、殺人事件については遺族のその後もほったらかしだし、事件は主要なテーマではない感じです。地域の新聞社を買い取った青年記者の目から見た南部社会のあれこれ話と位置づけるべきでしょう。
 「解説」はグリシャムの集大成なんて書いています(下371頁)が、リーガル・サスペンスを離れた社会派作家としてのグリシャム好みの方向けと考えた方がいいと思います。
 黒人差別問題を中心に南部の社会問題を書き込んでいて、そういう面ではそこそこ読ませると思います。ただ、1970年代に舞台設定し、あえてすでに改正された法律をその改正前の前提で書いたりさらには現実の法を歪曲したり曲解してまで書いて問題提起する(その点は著者あとがきでそのように宣言されています:下366~367頁)という手法は、なぜ現在の問題ではなく過去の問題を論ずるのか、また問題提起の方法論としても疑問を感じます。


原題:The Last Juror
ジョン・グリシャム 訳:白石朗
新潮文庫 2008年1月1日発行
コメント
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