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伊東良徳の超乱読読書日記

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ザ・プーチン 戦慄の闇

2009-04-22 22:11:47 | ノンフィクション
 プーチン政権下で石油の高騰を背景に取られている強いロシア復活のための傲慢な姿勢と、反プーチン派に対しては暴力・犯罪による抹殺が平然と行われ事件の真相が解明されない社会の出現を嘆く本。
 西側に亡命して放射性物質による暗殺未遂事件の被害者となったニコライ・ホフロフ、プーチンに追われた元新興財閥ボリス・ベレゾフスキー、ベレゾフスキーを批判する著書を書いていた暗殺されたポール・クレブニコフ、プーチン批判の記事を書き続けた暗殺されたアンナ・ポリトコフスカヤ、西側に亡命し放射性物質で暗殺されたアレクサンドル・リトヴィネンコらを題材に、プーチンの覚えめでたくない者たちの死に様を描写しています。
 しかし、この本の結論は、プーチン政権下で、犯人が何者かはわからないが暗殺が公然と行われ真相が解明されない社会が出現しているというところにとどまります。他の者が、暗殺にプーチンや政権上層部が関わっていると述べているのを、著者は、その証拠はないとか自分はそうは思わないとか私の勘ではそうではないなどと述べています。
 プーチンを批判する体裁の本でありながら、暗殺・事件へのプーチンや政権上層部の関与への言及には妙に慎重で、「プーチンに対するフェアネス」に満ちたプーチンに申し開きが立つことに意を用いた本という印象を私は持ちました。
 取りあげた人物も、ポール・クレブニコフはむしろプーチンの味方というべき人物で、その暗殺を取りあげているのはプーチン批判派のみが暗殺されているわけではないという印象づけに思えますし、プーチン批判派の描写でも、アンナ・ポリトコフスカヤ以外については信頼の置けないいい加減な人物という側面をも繰り返し描いています。
 どうも読んでいて何が言いたいのかはっきりしない中途半端な本です。一体何のために書いた本なんでしょ。
 ノンフィクションにしては本論に関係ない人物描写が多く、「暗殺」を論じることよりも「暗殺された人物」を描きたかった感じです。しかも、その人物選択が複数で統一感がないので、ますます雑多な散漫な展開となっています。
 最初と最後にプーチン政権への批判的なことを書いているのと、アンナ・ポリトコフスカヤ部分だけはストレートな記述になっているので、辛うじてプーチン批判本に読めますが、それがなければ「裏切り者の末路」を描いたプーチン批判派への批判本とさえ読まれかねません。
 その中途半端さ、論旨の不明快さのため、読み進むのがとても苦痛でした(アンナ・ポリトコフスカヤのところだけはスッキリしているので一気読みできましたが)。


原題:Putin’s Labyrinth
スティーヴ・レヴィン 訳:中井川玲子、櫻井英里子、三宅敦子
阪急コミュニケーションズ 2009年2月11日発行 (原書は2008年)
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トーキョー・クロスロード

2009-04-22 20:42:06 | 小説
 まじめで純情でそれなりにしっかりしている高校1年生森下栞が、中学卒業後の春に行ったハイキングの帰りにキスされた相手の月島耕也に抱いた恋心を暖めていて、耕也と再会して織りなすほのぼの寄り道ラブ・ロマンス。
 栞と2人の友だち亜子・美波の典型的な学園もの展開に、高1のとき密かにできちゃった婚して赤ちゃんを育てながら通学する河田貴子とジャズバンドに入りアルトサックスを吹く青山麟太郎の2留コンビが華やぎを与えています。どちらかというと栞と耕也のエピソードよりも、貴子、麟太郎の生き様の方が輝いて見えるくらい。
 栞が耕也への思いを一貫して持ち続けているので、栞の側から読む限りラブ・ロマンスですが、それを隠して読んだら耕也のやってることはかなり酷い。再会して憎まれ口きいた上で栞に親友のかわいい亜子を紹介させて付き合いながら栞につきまとって送り狼となり亜子をつまみ食いして別れた挙げ句に栞にストーカー状態。そういう経過でありながら栞は一度として耕也を嫌うことなく思い続けてハッピーエンドというのですから、見てくれのいい男は何をやっても許されるってことなんですね、と拗ねたくなります。男の目からは、いかにもわがままでいやなヤツと見えるのですが。
 私が作者なら、栞が幼い身勝手ストーカー男耕也への思いを捨てて自力で人生を切り開くたくましさを身につけた麟太郎に思いを寄せることで成長を見せるという展開を、迷わず選びます。
 でも、若い女性には、(あくまでも見てくれはいい)不安定なわがまま男への一途な愛路線もありなのかと思って作者のプロフィールを見たら、私より4つ年上。ちょっと頭がくらっとしました。


濱野京子 ポプラ社 2008年11月発行
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