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伊東良徳の超乱読読書日記

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ぼくたちは大人になる

2009-04-17 23:01:46 | 小説
 サッカー部の花形ミッドフィルダーにして成績1位の国立大医学部志望の超優等生ではあるものの中学生時代の父母の離婚とその後の母の性生活を引きずって歪んだ面を持つ高校生宮本達大が、母から離れるために北海道大学医学部を受験するまでの同級生・恋人・家族との葛藤の受験ライフを描いた青春小説。
 主人公が受験強者(それだけでなく恋愛強者でもある)で、一定の失態を重ねながらもその失態は同時にヒロイズムとも評価され、大きく踏み外すことなく、目指した道を歩みきるというストーリーは、主人公に共感できるかという点から、かなり好みが別れると思います。
 主人公に共感できてもなお違和感を感じる要素として、主人公の恋人の片岡さんのラストのキレ方と冒頭で主人公と両思いになりかけたどやちゃんの処遇があります。片岡さんのキレ方は、主人公は無理もないと評価していますが、片岡さんと付き合う前に主人公がどやちゃんに思いを寄せていたことがなぜ「騙したのね、嘘つき」「ひとをバカにして、おぼえてなさいよ」(240ページ)となるのか、全く理解できません。自分と付き合う前の過去までも遡って自分のものにできると考えるのは傲慢を越えて妄想だと思うのですが。それまでの世話女房タイプの、できすぎとも思われる態度と対比して、おとなしい理解のある女こそ怖いという作者のメッセージなんでしょうか。どやちゃんは、優等生だけど、さばけた感覚を持ち隠れてタバコを吸い女優のオーディションを受ける、魅力的なキャラ。せっかく作った魅力的なキャラが、主人公のチクリによって学校も辞め両親とももめて一世代上の演出家との同棲に走り、それっきり、つまり身を持ち崩して終わりというのは、不公平感というよりも、読者としてもったいないというフラストレーションが残ります。そうして主人公と関わりを持った女性が2人とも不幸な終わり方をして、主人公は成功の道を歩むというラストは、やっぱりどこか腑に落ちませんでした。
 青春小説としては、そこそこ読ませるのですが、そのあたりが、ちょっと引っかかりました。


佐川光晴 双葉社 2009年1月25日発行
「小説推理」2008年4月号~12月号連載
コメント (1)
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