眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

2011-10-24 | 
猫がすごく不機嫌そうな声で云う
 あんたさ、どうして鍵失くしちゃったの?
  どうしてって・・
   僕は酷く混乱していた
    朝起きたら鍵が失くなっていた、それだけの話だろ?
     猫は相変わらず僕の顔を眺め
      ついでに自分の顔を舐めた
       あんたは失くしちゃいけない鍵を失くした
        それがどういう意味か分ってんのかい?
         あんたは
          あんたはもう何処の部屋にも入れない
           どの世界にも属さないんだ
            もう何処にも行けないのさ
             猫が憐れむように僕を見つめた
              あれだけ鍵を失くしちゃいけないって忠告したのに
       
             僕はボトルに残ったワインを飲んだ
            朝の七時に飲むワインは
           なんだかとても不味かった
          それでも飲まずにはいられない
         猫は皿のミルクを舐め
        僕はワインを自堕落に煽った
       他にやることが無いのだ
      薄明かりの空に白い三日月が昇っていた
     
     鍵を失くすとどうなるの?
    あんたはもう誰とも話しが出来なくなる
   どうして?
  あんたが鍵を失くしたからさ
 鍵を失くすと
永遠にこの場所から出られない
 鍵は世界の扉を開く唯一の道具なのさ
  あんたはもう他の世界には行けない
   誰とも二度と会うことも無い
    なんだか酷い話だね
     ワインの酔いでそれが僕自身の話だと
      全く持って認識出来なかった
       猫が皮肉に僕の顔を眺めた
        
       ねえ
        どうして鍵を窓から放り投げたりしたんだい?
         猫がジャックダニエルを舐めながら
          僕に質問する
         僕自身にもほんとのところ分らないんだ
        ただ、何もかもが嫌になっちゃったんだ
       毎日繰り返される日常やら
      愛想のよいだけの挨拶や
     夜中の零時にウイスキーで孤独を慰めることも
    猫は不機嫌そうに僕を見た
   でも
  でも鍵は捨てなくてもやかったんじゃない?
 もうどうでもいいんだ
鍵を持ってても僕は世界に拒絶される
 他の扉を開ける勇気が無いんだよ
  少しばかり疲れたんだ
   猫は僕の独白を聴き
    それからこう云った

     あんたのその酔いが醒めたら

      あんたの鍵を探しに行こう

       あんたはこのままじゃあいけないんだ

        可能性はある

        たとえ悲しみや苦しみや絶望に打ちひしがれたとしたって

        この世界は優しくて哀しいくらいに美しいんだ

        あんたにはまだ遣り残したことがあるだろう?

        起きるんだ
         グラスの冷えた水を飲み干したら

        旅に出るんだよ

        猫の青い目が僕の存在を覗き見る

        失くした鍵を探す旅に




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6 コメント

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たまご (直子)
2011-10-27 10:16:30

なんだかこの詩を読んで小さい頃に読んだ「ぞうのたまごのたまごやき」という絵本を思い出しました。

鍵は何だかたまごに似ています。

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Unknown (名無しのナナ)
2011-10-29 23:32:22


ね。何も鍵を捨てることはなかったのに、、


ね。
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直子さんへ (sherbet24)
2011-10-30 23:01:31
鍵と卵と世界は似ているように感じます。
卵の割れること無い殻の中の物語。
永遠と瞬間が交錯した世界。

もしかしたらそんな物語こそが儚くて美しいのかもしれませんね。

はじまりも終わりもない物語。

僕は白昼夢の中で暮らしている様な気分です。
僕はやはり大人になり損ねたのでしょうね。
孤独に耐えられなくなると、僕は音楽を聴いたり直子さんの物語を覗き込んでいます。

寒くなってきましたね。
直子さん、風邪に気をつけてくださいね。




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名無しのナナさんへ (sherbet24)
2011-10-30 23:08:13
あの時の僕にはそうするしか無かったのかも知れません。
すごくつらいことがあると、人は自分自身の大切な物を投げ捨てたくなるのかもしれませんね。
それでも僕には詩と音楽が残され、それを創り上げることで名無しのナナさんとも出会えることができたのでしょうね。

詩と音楽。

それが今の僕の鍵です。

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撃沈… (直子)
2011-11-01 07:42:01

おはようsherbetさん。
昨夜彼にフラれてしまい辛くてここを訪れました…
今年のクリスマスも独りもの確定です…

でもわたしには小説と音楽と貴方の書いた詩がある!

人って知らない間に強くなってるもんなんですね。

はじまりも終わりもない世界。

わたしだけの夢。
がんばるぞ~。

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直子さんへ (sherbet24)
2011-11-01 22:12:48
執筆活動という物が現実逃避なのかコンプレックスのはけ口なのか僕には判断つきかねるのですが、静かな夜に、バーボンを舐めながら自分自身の小さな世界を創り上げることで救われる想いがします。
つらい想いがあって、やはり飲んだくれてた僕は時間の流れと共にその記憶が優しい傷跡になってゆく事を実感しています。

時が解決してくれる、というのはあながち間違いではない気もします。そうやって歳を重ね記憶の断層が厚くなり、僕等は思春期よりも幾分痛みに対して強くなるのかもしれませんね。
そうして直子さんのつらさが僕の詩で少しでも慰めを見出せるとしたら、僕はとても嬉しいです。

どうか貴女にいいこといっぱいあるように。

「美わしき喜びに満てる真の魂は穢れることなし」

ウィリアム・ブレイクが昔そう云っていましたよ・・。


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