眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

マルメロの陽光

2008-02-08 | Weblog
寒い空気のぴんと張り詰めた心地よさ。
その空気を憶えているから、たぶん冬の日だったんじゃないかな?
僕らは映画館に足を運んだ。
仲の良かった友人に誘われるまま、僕はこの映画を観たんだ。

 「マルメロの陽光」

初老の画家の一年の暮らしを記録した映画だ。
四季が移ろう。そうして画家は絵を描き続ける。
画家は中国茶を愛し、美味そうに紙煙草を吹かす。そして一日中キャンバスに向かう。盛り上がりもたいして無いけれど、僕はこの手の映画がわりと好きだったりする。
 スクリーンに机の上に置かれた林檎のカットが入る。
  デッサン用なのか、置かれた林檎は時間の流れとともに、
   美しく妖しげに腐り始める。
    とても綺麗だった。

物が腐ってゆく、ということが綺麗だなんて感じたのはそれが初めてだった。
腐ってゆく異物に蓋をし、この国は愉快なくらい清潔になった。
もちろん死、という事象にもマンホールで蓋をした。
それがどんな意味を持っているのかは人それぞれの意識の違いかもしれない。
或る人はそれを良しとし、或る人はそれを警告する。
僕はどうなんだろう?
 
 ただ、腐ってゆく一個の林檎がとても美しかった。
  時間とはこうして流れていくものだ、と想った。

映画に誘ってくれた女の子は、つまらない映画だと閉口していた。
珈琲を飲みながら僕は、腐る、ということに想いをめぐらせていた。

その子とその取り巻き連中は、やたらとこムツカシイ映画をこよなく愛した。
一度、連中と小さな劇場で寺山修司の映画を見た。
川の上流から仏壇が流れてくる奴だ。
皆、素晴らしいと興奮していた。
とりあえず僕は冷たく冷えたビールが飲みたかった。

 人の好みなんていい加減だ。
   懐かしい出来事だ。

ずいぶん後になって、僕は曲を悪戯した。
 タイトルは。

  「腐った林檎」




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