眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

青の色

2024-09-23 | 
友人が絵描きをめざして貧乏していた頃。
はじめて見せてくれた絵は、馬のデッサンだった。
風呂もない、トイレは共同、台所らしき場所には開いた缶詰めが散乱していた。
僕らは、ひたすら安い酒をあおり、慰めあうように馬鹿な話ばかりしていた。
八方手詰まりだった。
彼には夢があり、叶えられない。
僕は自分の人生に飽き飽きしていた。

 皮肉の時代だった。

皮肉の代償はとてつもなく大きな物だった。
互いが世間を笑っていた頃、まさか社会に自分たちが笑われることになるなんて想像もしなかった。

皮肉を云うのは僕らで、笑い飛ばすのも僕らのはずだった。
僕らの世界はそんな馬鹿げた、ありもしない虚構に塗り固められていた。

 酒に酔った友人は、立てかけたキャンバスにふらつく足取りで向かい、いきなり あるだけの青い色の絵の具を塗りたくった。
 彼がナイフで白いキャンバスを青に染めているあいだ、僕は黙って林檎をかじっ ていた。

友人はきゅうに絵の前で座り込み、どうだ?と尋ねた
タイトルは?
と聞くと、「青の色」だ、とやけっぱちにつぶやいた。

    青の色

  それが僕らの最後の皮肉だった。

  僕らはそれから、笑われることに馴れていった。

きゅうり食うか?
 食う。

 味噌にきゆうりをつっこんで、ぼりぼり食べた。

     青の色





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