@江戸時代の女の「生きがい」。貧乏で身売りされた女は絵師を夢見ていたが、数年後花魁となる。 その後愛されていた男の下でやっとの思い出夫婦になるが絵を描くことなく亡くなってしまう。 悲しい女の生涯を描いた「月溪の恋」には、その女を愛し続けた弟子の男が居た。 何とも悲しげな結末だが、女の過去を捨て去り夫婦になったことは現実、強い二人の絆が生まれなければ出来ない事だったと想像できる。 恋愛に年齢は問題ではない、特に晩年の恋は、心と心の問題なのかもしれない。
『恋しぐれ』葉室麟
京に暮し、俳人としての名も定まり、よき友人や弟子たちに囲まれ、悠々自適に生きる蕪村に訪れた恋情。新たな蕪村像を描いた意欲作 蕪村、最後の恋。五十近い歳の差を厭わぬ一途な想いに友人の応挙や秋成、弟子たちは、驚き呆れるばかり。宗匠と祇園の妓女の恋路の結末は…
- これは蕪村の後半生を俳句や絵に託してその思いを語らう「晩成」、年とってからの蕪村の恋愛と弟子たちの恋に注目した小説である。 蕪村は「恋愛してから絵も俳句も良くなっている。弟子たちに小糸ときれろ切れろと迫られた」事で分かれた後すぐに死んでしまうのだ。蕪村には妻子もいた。だが恋に落ちた相手小糸は、実は一時期恋を燃やした昔の妻美和との間でできた息子の相手であった。
- 「隠れ鬼」遊女の言葉「私は今まで世を恨み、人を憎んで生きて参りました。しかし人が日々努力し、己の命を全うしようとする姿こそが美しく、愛おしいのだ、と思いました」「世の中、悪いことばかりやない。自分がしっかりしてたら生きていける。死んだらしまいや、生きたものが勝ちや」
- 「月渓の恋」女衒に売り飛ばされた女、おはるは絵画に才能があるとみた弟子の月溪は諦めきれなかった。2年後遊郭でそのおはると出会い、あれまで絵師になりたいと言っていたおはるを何とか妻にする。だが故郷へ帰る途中船が難破し、おはるは還らぬ身となり月溪は悲しむ。そこで出会ったのがおはるが書いていた幽霊絵が月溪を悲しみから立ち直らせる。(月溪は蕪村の弟子であり絵師)
- 「雛燈り」許婚の婿の父の反対で婚姻が許されず娘は病魔に襲われる。余命幾ばくもなく力弱くなった窃めを何とかしたいと兄は妹の「嫁入りした家で死にたい」との強い意志から、嫁に化粧を施し婿の家に出向くが、あしらわれてしまう。思わず兄はその家で、妹の望みである死を覚悟し、刀で妹を一刀だに殺害した。それをある男が物語として世に出すと一躍噂が広がり妹思いの兄(兄弟愛)となった。実はその物語を書いた男も昔同じような環境にあり出家する理由となったことを知った。「西山物語」「春雨物語」ー「死首の笑顔」
- 「牡丹散る」円山応拳は駆け落ちした七重に心を奪われる。それは応拳の亡き妻によく似ていた殻だったが、七重は若き夫と共に暮らすことになる。
- 「梅の影」芸妓のお梅は小糸との蕪村に対する嫉妬があったが、亡き蕪村に対する悲しい気持ちが月溪と寄り添うきっかけとなり京で住むことになる。そこで「天明の大火」(京都の5分の4消失した大火災)にあい、避難した先で小糸と出会う。互いの思いを交わす事で蕪村を悔やんだ。