BISの自己資本規制が「国際業務を営む銀行は最低8%」「国内基準行は最低4%」ということは良く知られている。ところが最近エコノミスト誌に連銀の前会長グリーンスパン氏が「銀行はもっと高い自己資本比率が必要だ。ラフな推定をすると14%位必要だろう」という小論文を寄稿していた。
何故14%と推定するのか?という根拠から見てみよう。グリーンスパン氏は銀行の破綻リスクの物指として3ヶ月LiborとOIS(Overnight Index Swap)のスプレッドを使って説明している。OISとはオーバーナイト金利と固定金利の交換を行う金利スワップで期間は3ヶ月程度だ。通常3ヶ月LiborとOISのスプレッドは10bp程度だったが、リーマン・ブラザースの破綻した直後364bpに達した。つまり一夜限りの与信と3ヶ月の与信では3.6%も違いがある、それ程銀行に資金を出す人は銀行の債務不履行リスクが高いと見ていた訳だ。
先月米国ではTARP(不良債権買取プログラム)から、2,500億ドルの資本が銀行に注入された。これは自己資本比率を2%押し上げる効果があった。これにより3ヶ月LiborとOISの開きは半分に縮小した。米国の銀行の自己資本比率は、金融危機以前は平均10%だったので、3ヶ月LiborとOISの開きを正常ベースに戻すには更に2%自己資本比率を向上させる必要がある・・・というのがグリーンスパン氏の推論根拠である。
つまり銀行に資金を出す投資家は10%の自己資本比率ではクッションとして不十分で、もっと厚いクッションが欲しい、それには後4%の自己資本比率の向上が必要だろうという話。
エコノミスト誌についている米国商業銀行の自己資本比率の推移グラフを見ると1930年代は15%程度の自己資本比率があったがその後低下して10%を切り、2000年代に入って10%程度まで戻っている。
昨今貸し渋りが問題になっているので、ある国内基準行の融資マンに「あなたのところは、国内行でしょ。自己資本比率は4%で良いのだからもっと貸したらどうですか?」と質問したところ答は「でもアナリストや株式市場は国際行基準で見ているのですよ。だから国内行といえども8%は守らないと」というものだった。
グリーンスパン氏の小論文がどれ程インパクトを持つかどうか分からないが、大手行が自己資本比率の基準の目線を上げる一つの指標になるかもしれない。