参院選が終盤である。マスコミの調査によると、自公が優勢を維持して、「ねじれ国会」が解消されるのは確実だ。「ねじれ国会」が解消され、「決める政治」が行われることは歓迎だし、実は私も「ねじれ国会」解消に向けて、既に期日前投票を済ませてきた。
だが自分が選んだ候補者と私自身の政治的課題に関する意見の相性ということになると、多少の疑問を感じないわけではない。
毎日新聞が運営している「えらぽーと」というサイトがある。http://vote.mainichi.jp/
このサイトは「憲法改正」「消費税引き上げ」など26の質問に「賛成・反対」を回答することで、自分の政治的意見と相性の良い政党を選ぶという仕組みである。
このサイトで実際に相性を調べたところ、意外なことに一番相性が良かったのは私が投票した候補者が属する政党ではなく、「第三極」の政党だ、という答が返ってきた。
このことから色々なことが考えられる。
1)自分の政治的意見とすべての面で一致するような候補者や政党はほとんどいない。
2)各政党の掲げる政治的課題の比較検討だけで政党選択をした訳ではない。政党としての政治的課題の実現力を重視した。
3)政治的課題やプライオリティは時々に変わっていく。選挙で重視するべきは、具体的な政治的課題のみならず、党や政治家としての基本姿勢(自助努力を重視するなど)である。
以上のようなことを踏まえて私が新しい参院(衆院にもだが)に望みたいことは二つある。
1)選挙戦で大きな争点にならなかった(あるいは敢えて避けた)政治的課題を決定する場合は、自分に投票してくれた人のその時々の意見を聞き、それを国会に反映する仕組みを作るべきである。今のネット環境はそれを可能にしている。
2)国の行く末に影響を与える大きな問題(憲法改正など)については、党議拘束を緩和して、国会議員一人ひとりの見識および1)で述べた選挙民の意思と見識が反映されるようにするべきである。
今月行われる参院選については、世論調査では与党が過半数の議席を取ると推測されている。だが選挙は水物。自民党としては、選挙で勝利するまで、トリッキーな問題はそっとしておき、勝ちをおさめたいというところだろう。トリッキーな問題の一つには「消費税の引き上げ判断」の問題がある。来年4月から消費税を8%に引き上げるには、今年の秋には引き上げ可否を判断しなければならない。つまり参院選から2ヶ月先には決めないといけない問題だが、安倍首相は、消費税引き上げ判断問題が参院選の争点になることを避けている。
アベノミクスの三本目の矢は構造改革と成長戦略であり、法人税の大幅減税は自民党の選挙公約に入っている。法人税の減税をやりながら、消費税の引き上げ時期を遅らせると財政状況は悪化する。だが法人税の減税を掲げながら,来年4月から消費税を上げるというと、選挙民の不満が噴出しそうだ。
消費税の引き上げには第二四半期(4-6月)の景気判断、GDP成長率などが影響する。最近菅官房長官が「消費税の引き上げ判断には、引き上げにより税収が増えるどうか?」の判断もいると言い始めたのは、選挙を意識した甘味剤かあるいは本音なのか?
消費税を引き上げるべきか、引き上げ時期を延期するべきか?は、世界中のエコノミストの間でも意見は分かれている。WSJが6月下旬にエコノミスト達に行った調査によると、36%が引き上げるべきだといい、引き上げ時期を延期するべきだと主張する人は12%だった。残りの意見は「引き上げ支持寄り」「引き上げ時期延期」が拮抗したということである。
内閣府の調査によると、消費税1%の引き上げはGDP成長率を0.5%引き下げる。消費税2%の引き上げはGDP成長率を1%押し下げるという計算だ。
1997年に消費税を5%に引き上げた時は、GDP成長率は2.7%から0.1%に低下し、また総税収は引き上げ前より減少した。この「事実」が消費税引き上げ据え置き論者の論拠の一つだろう。ただし当時のGDPの急激な鈍化は消費税引き上げの影響ではなく、アジア危機の影響だと主張する経済学者もいる。
専門家の間でも意見の別れる問題だが、私は現在の第2四半期の経済成長率が堅調であれば、予定通りに粛々と引き上げに向かうべきだ、と考えている。理由は「責任ある政治の信頼維持」である。無論補正予算等の景気悪化防止策は必要だろうが、まずは政府がこれ以上の財政悪化に対して毅然たる姿勢を取るということを、市場と国民に示すべきである。
高齢化が進む日本だが、国民負担率(国民所得に対する租税割合)は、欧州先進国に較べてまだ低い。フランス、スウェーデンの国民負担率は約6割、ドイツ、英国は約5割で日本は4割弱だ。社会保障費の割合が日本半分の米国は国民負担率は31%弱と少ない。
日本の社会保障費は今後ますます拡大が予想される。消費税引き上げの前にやるべきことはある、と主張する政党もあるが、精神論は別として国会議員の数を減らした程度で捻出できる金額ではない。むしろ一度消費税を引き上げて、その痛みの中で社会保障のあり方を含めて、議論を深めるべきだろう。国家も家計でも行き詰まるとどこかから借金して凌ぐ、というスタイルでは破滅は近いと考えるべきだはないか?
ただし仮に消費税を引き上げた後、原因は何であれ、景気が大幅に落ち込むと、次の引き上げはハードルが上がる。来年4月に向けて、景気対策の持続が肝心だ。
昨日(7月4日)公示された参院選挙。内外の新聞紙面を各党の公約や情勢分析が賑わしている。外国人にとっても選挙結果に対する関心は高い。金融面では安倍政権がねじれ国会を解消して、経済成長を推進できるかどうか?が今後の投資スタンスに影響を及ぼすからだ。もっとも個人的な推測だが、すでに海外勢は自公政権の勝利をかなり織り込んでいて、選挙結果が株式・為替相場に与える影響は限定的だろう。市場は米国の景気回復の足取りを何よりも注目しているからだ。
WSJはAt forefront in Japan Vote:Stabilityという記事で、選挙の争点は個別の政策~経済成長、消費税の導入阻止、原発の継続・廃止など~よりも、国民がねじれ国会を終わらせ、政治的安定を望むかどうかという点だと論じている。
記事が引用する月曜日の共同ニュースの調査では、56.3%の人がねじれ国会を終了させたいと回答し、終了させたくない回答した人は29.6%だった。
選挙は水物であり、投票率によって左右されるところが大きい。また人気の上滑りということもある。しかし現時点での調査は安倍政権にかなり有利な情勢を示唆している。
単独の政党が、衆参両院で過半数を確保できなくなって四半期(1989年から)が過ぎ、17人の首相が交代した。小泉内閣の5年を除いた期間を16人で割ると平均1.2年弱である。
民主主義とは混迷するものである。特に国民が共通の目標を見失った時や価値観が多様化した時は。1989年頃は世界的には「冷戦の終結」で、アメリカが唯一のスーパーパワーと言われた時代(長続きはしなかったが)。日本はバブルの果実が熟れ過ぎて腐り始めた時期。高価だったがパソコンが一部オフィスで使われ始めた。やがてITの波とグローバル化は、世界の工場として中国を台頭させ、日本の製造業が空洞化。日本の就業人口は1995年にピークをつけ、その後緩やかに減少。セクター的には95年から05年にかけて第二次産業で4百万人の就業者が減り、第三次産業では1百万人が増えた。
この間国会は党利党略の政争の場となり、しばしば「国益」がなおざりにされた。
民主主義は混迷する。多様な価値観と利害が衝突し、際限ない議論が繰り返される。議論の中には正解が分からないものを多い。世の中にはAのルートでもBのルートでも結果はあまり変わらないということも多い。むしろAでもBでも一生懸命歩き通すことが肝心だ、ということが多いと私は感じている。
昨日(1月4日)の日経新聞朝刊最初の社説は「米国は包括的な財政再建策の合意急げ」だった。内容は「歳出削減に慎重な民主党と、個人の増税に反発する共和党の対立は根深い。それでも不毛な政争に明け暮れ、米国の経済政策を機能不全に追い込むことは許されない。・・・・改選後の新議会に「決められない政治」を持ち越してはならない」
書いていることは常識的でもっともなことだ。だが誰に対して書いているのだろう?
もし米国の議員に向かって「与野党は党派の対立を乗り越えて詰めを急ぐべきだ」というのであれば、米国人が誰も読まない日経新聞で書いても意味がない。ニューヨーク・タイムズが書くなら意味があるが。
それとも日本の議員に向かって「他山の石」にしろ、と言っているのだろうか?