最近のエコノミスト誌の記事で読者が多かったのが「中国のアキレス腱」~急速な高齢化というものだった。中国の少子高齢化の問題は今に始まった訳ではないが、沿岸地方の急速な人件費の上昇と合わせて見ると、中国の高齢化と労働力の減少は、一般の予想を超える中期的な経済インパクトの大きな問題なのかもしれない。
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エコノミスト誌に龍に引っ張られるアメリカ人と中国人の戯画がでていた。中国の易経に「亢竜悔いあり」という言葉がある。上り詰めた龍は下るしかないという意味だ。2010年には工業生産高やエネルギー消費量で米国を追い越した中国。このままいくと購買力平価ベースでは2017年には世界一の経済大国になるとIMFは予想するが、このエコノミスト誌の記事は中国の抱える人口動態上の問題を指摘する。
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過去30年間の間に中国の出生率は2.6から1.56に減少した。特に上海など経済的に非常に豊かな地域では出生率の減少が著しい(上海の出生率は世界最低の0.6%)。国連は中国の出生率は更に低下を続け、2015-20年には1.51になると予想する。一方米国の出生率は2.08で上昇傾向にある。
1.56と2.08という出生率の違いは長期的には大きなインパクトをもたらす。中国の人口は2026年にピークとなり、2050年には現在の13億4千万人より僅かに少ない13億人になり、2060年には10億人を切ると予想される。
年齢の中央値を見ると1980年の中国の中央値は22歳だったが、現在は34.5歳で米国の36.9歳とほとんど差はない。しかし2050年に米国の中央値は40歳と予想されるが、中国のそれは49歳に上昇していると予想される。
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この傾向は金融や社会面で広範な影響を及ぼすだろう。中国は年金支払の準備が進む前に巨大な年金需給層を抱え込むことになる。他の先進国とは異なり、中国は豊かになる前に高齢化が始まるのだ。現在中国では65歳以上の人口比率は8.2%だが、2050年までにはその比率は26%を超えると予想される。
2000年にスタートした中国の国民年金制度だが、エコノミスト誌によると積み立て不足の年金債務はGDPの150%に達している。また地方政府により運営される別の年金ファンドでは年金給付と時として守られていないようだ。
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だがこれは問題の一部でより大きな問題は労働人口の減少だ。2010年に総人口の72%を占めていた労働力は2050年には61%に減少すると予想される。このことは「世界の工場としての中国」が終わりに近いことを示す。一時は無限に流入するかと思われた安い労働力は枯渇し、熟練労働者の不足が目立ち始めている。
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人材斡旋業者のマンパワー社は2030年までには中国は海外から労働力を輸入するようになると予測している。しかし例えば長い移民の歴史があり、開放的で法的・政治的制度が整っている米国に較べて中国にはそのような仕組みは全くない。
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「安い中国の終り」と言う意味では、例えばアップルのiPadsを作っているフォックスコンは先月給料を16-25%引き上げた。実際中国の労働コストは過去4年間年間2割上昇している。
コンサルタントのAlixpartnersは「人民元と輸出コストが年間5%の上昇を続け、人件費が年率30%上昇すれば、2015年には、北米での生産コストと差はなくなる」と予想する。エコノミスト誌は「現実には生産コストの収斂は恐らくもっと遅れるが、トレンドは明らかだ」と述べる。
中国の人件費が上昇すれば、ベトナムなど人件費の安い国に行けば良いではないか?という議論もあるが、それらの発展途上国のインフラとサプライチェーンの問題を考えると中国を離れることは容易ではない。多くの企業は「中国+もう1カ国」戦略をとろうとしている。
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安い工業製品とデフレの輸出で、世界経済に大きなインパクトを与えてきた中国。その中国の賃金の上昇(生産性も伸びているが)が、価格に跳ね返る時、日本にインフレリスクが高まるのだろう。そして悪いことに財政赤字の拡大が止まらない日本では金利がじりじりと上昇を始める・・・・。これは個人的推測だが。