今秋のエコノミスト誌に「中国企業の日本企業買収が増えている」という主旨の記事が出ていた。題名はScaring the salarymen「日本のサラリーマンを怯えさせる」という意味だ。
Salaryman(men)というのは、Japanese white-collar businessmanを意味する和製英語だったが、注釈もなく使われているということは「日本のサラリーマン」を指す固有名詞として定着したということだろう。ただしこの言葉はwage slaveryのようなマイナスのニュアンスがあるので、自己紹介をする時は「私はサラリーマンです」と言わない方が良いかもしれない。
さて本題に戻ると記事は3月に金型大手のオギハラを中国の自動車メーカーBYD(比亜迪汽車)が買収したことから始まる。記事は微妙なことがらなのでオギハラはディールをおおやけにしていないし、新聞発表もしていないと述べる。もっともオギワラのHPにはディールの記載はないが、新聞等には流れた話なので私も見たことがある。http://www.kyoto-np.co.jp/article.php?mid=P20100327000065&genre=B1&area=Z10
中国企業に買収されるということは、日中両国間の不安定な関係を考えると神経質にならざるを得ない話だが、記事が参照している日本のM&Aブティック・レコフのデータによると、中国企業による買収は急激に増えている。2008年の買収件数は13件だったが、09年には20件に増えている。また2010年は1月から3月の3ヶ月間で30件を越えている。ディール金額も08年は43億円だったが、2010年の3ヶ月で195億円に急増している。
ただ中国企業が買収しているのは、特殊な技術を持った小さな会社の持分の一部とかその子会社というケースが多いので、ディール1件当たりの金額は小さい。
記事は中国企業が51%の持分を買収したラオックスの話も紹介している。買収後のラオックスに中国人観光客が大挙して訪れているシーンはテレビにも流れていた。
中国のオーナーと日本の社員の意見は環境問題や品質管理を巡って衝突することが多いと記事は述べている。そしてそれにも関わらず中国企業による買収は広がると投資家達は想像している。中国企業は日本企業のテクノロジー、スキル、ブランドを欲しているからだ。彼等はそれを中国に持ち帰ったり、他の国で利用することを考えている。
少し前まで日本企業は欧米からの買収に注意していれば良かったが、これからは中国企業による買収にも気をつけないといけないということだ。
しかしものは考えようで、中国企業に買収されることで、活路が開けると考えることもできる。例えばラオックスの買収前の株価は10円だったが、今は110円近辺で取引されている。ラオックスは向こう3年間で中国に110店を出すという話だ。
少子高齢化でパイが拡大しない日本の中で過当競争を繰り返し疲弊するよりは、中国パワーを利用するというアイディアもありうるだろう。もっともこんなことを書くと「あんたは買収される当事者でないからそんな呑気なことが言えるのだ」とお叱りを受けるかもしれないが。