「疾風に勁草を知る」という諺がある。困難に出会って人の価値は初めて分かる、という意味の諺で、私が割合好きな言葉だ。今朝FTを読んでいたら、Traders shrug off Tokyo stocks slideというタイトルの記事があった。「欧米のトレーダー達は東京の株価下落を肩をすくめるように払いのけた」という意味だ。昨日日本株は大きく下落したが、欧米の株式市場は堅調だったので、このようなタイトルになったのだろう。記事のサマリーは「米連銀の債券購入の持続と日本の公的年金基金による株式購入期待から株価堅調」となっていた(ただし本文とあまり関係のないサマリーなので少し変な記事だと思うが)。
さてこのshrug off(軽くあしらう、一笑に付す)という言葉を見ながら、私は「疾風に勁草を知る」という言葉を思い出していた。今世界の株式市場が一番注目していることは、米連銀がいつ債券購入プログラムを減少に転じるか?ということで、先週来の日本株の大暴落もその懸念を先取りしたもの、と言われている。一方本家本元の米国株の方は多少の下落はあったものの、非常にしっかりしている。あたかも金融緩和の風向きが変わる中で勁草(強い草)のようにしっかりしている(少なくとも今のところは)のである。
ところが日本株は「疾風勁草」の反対で、あたかも「富士川の戦いで水鳥の羽音を敵襲と勘違いして自走壊滅した平家軍」のように、米連銀の鼻息に振り回されている。「疾風勁草」の反対の言葉が「周章狼狽」かどうかは自信がないが、とりあえずこの状態を「周章狼狽」としてみた。
英語にはIn a calm sea, every man is a pilot.「凪いだ海ではだれでも水先案内人が務まる」という意味で「疾風勁草」の英訳にあてる人もいるようだ。
ところでどうして日本株はかくもボラタイルなのか?ということを考えてみた。「逃げ足の早い外国人投資家が市場を牽引しているから」などという事情通の話は専門家に任せるとして、一般的に分かりやすい説明は絶対的な金利水準が低い、ということではないだろうか。
ある収益資産(株・賃貸不動産など)から年間10の収益が上がっているとする。かりに期待収益率を0.5%とすると、その資産の価値は10÷0.5%で2,000と考えらるはずだ。ここで期待収益率が0.5%上昇して、1%になると資産の価値は10÷1%で1,000になる。つまり価値は半減だ。
金利が同じく0.5%上昇しても、スタート点の金利が高いと資産価値の下落幅は小さい。かりに期待収益率を1.5%とすると10÷1.5%で資産の価値は666.7であり、収益率が0.5%に上昇して2%になると資産価値は500に減少する。下落幅は25%である。つまり永久還元方式で資産価値を計算すると、金利水準が低いほど同じ幅の金利変化でも資産価値に与える影響は大きい。
などと書いている内に、日本の株式市場が開く時間が近づいていきた。昨夜のシカゴ先物市場では日経平均先物は200ポイント上昇しているからとりあえず高く寄るだろう。だが誰でも水先案内人が務まるほど凪いだ海はしばらくもどってこないだろう、というのが私の予測だ。