金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

「2025年東京不動産大暴落」~少々極論もあるけど概ね納得できる

2017年06月30日 | 本と雑誌

住宅ジャーナリスト榊淳司(さかきあつし)さんが今月上梓した「2025年東京不動産大暴落」(イースト新書 861円)。

細かいところでは少々強引な意見もあるけれど、概ね納得できる本だ。帯封は「あなたの家が『半額』になる」。

私の自宅(西東京市)付近では、古い家が相続等で売り出されることが多い。古い家を取り壊し、2区画にして売り出すことが多いようだが、買い手がつくのに時間がかかることが多い。そして売り手の希望価格よりはかなり低い価格で取引されているようだ。

一方もう少し大きな土地を大手不動産会社が戸建て分譲しているサイトはまだ比較的販売状況は好調なようだ。

粗い数字でいうと日本には現在8百万戸の空き家がある一方、年間1百万戸近い新築物件が市場に供給されている。このアンバランスが臨界点を越えた時、不動産価格の大暴落が始まるというのが著者の論点だ。

ではなぜ2025年に「東京不動産大暴落」なのか?それは2025年に団塊世代がすべて後期高齢者になり、また東京都の人口が減少し始めると予想されるからだ。

平均寿命が延びているので、75歳でも男性の73%、女性の87%は生きている。しかしこの数字は男性の4人に一人は亡くなっていることを意味する。夫が亡くなったので、自宅を処分して賃貸型マンションへという奥さんも増えることが予想される。

今後10年ぐらいの間に東京近郊でも大きな不動産の売り圧力がでて、住宅価格を押し下げるという予測には説得力がある。

モノの値段が下がることが予想される場合、損失を抑える方法は「先に売る」ということだ。株式投資では何等かの理由で将来の株価下落が予想される場合は先に売ってしまうとよい。もっとも予想なので外れることもあるが。

だが住宅はそういう訳にはいかない。なぜならそこに住んでいるからだ。売ってしまって賃貸住宅に移るという選択肢もありうるが、それは「賃貸期間の家賃総額が値下がり幅より小さい」と判断した場合だろう。

私自身も今の自宅は将来値下がりすると確信しているが、どれ位下がるかは予測がつき難いので「今売って賃貸へ」ということにはならない(それにどれ位生きるか分からないので)。

ただ著者がいうように「もはや不動産は『資産』ではない」という警鐘はしっかり受け止めておいた方が良いだろう。不動産は資産でなければ何なのか? 会計的に考えるとそれは長期に前払い家賃(前払費用)と考えるべきだろう(なお前払費用は資産として計上されるが、期間の経過とともに取り崩されていく)。

ところで本の売れ行きはタイトルで決まるという。ショッキングなタイトルの方が読者にアピールするからだ。東京という日本で一番地価が底堅いと思われているところで「暴落する」というからショッキングなので、すでに全国的には目新しい話ではない。

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株のボラティリティ低下は経済のボラティリティ低下を反映

2017年06月28日 | 投資

昨日(6月27日)の米国株は久しぶりに大きく下げた。ダウは99ポイント(0.46%)、S&P500は19ポイント(0.81%)下落。一番大きく下げたのはナスダックで100.53ポイント(1.61%)下落した。

ナスダックでは、欧州委員会から独禁法違反で27億ドル相当(3千億円)の罰金を命じられたアルファベット(グーグルの親会社)が24ドル(2.47%)値を下げたことが大きかった。

ECBのドラギ総裁の発言が「将来的に欧州中銀が緩やかに金融緩和策を終了させる」ことを示唆していると解釈されたことも欧州株安につながり、米国株にも影響を与えたようだ。

という具合に昨日だけを見ると米国株のボラティリティは高まったが、昨日WSJにはIf you think stocks are dull, look at the economyという記事が出ていた。「株が退屈だと思うなら経済を見なさい」ということだ。

記事の趣旨は「今月末で終わる第2四半期のS&P500の一日の値動きの幅は0.3%で過去半世紀以上の間で最も変動幅が少ない」「株式のボラティリティが低い背景には、経済活動のボラティリティが低いことがあげられる」「過去3年間の四半期毎の米国の経済成長率の標準偏差(年率換算)は1.5%にとどまっている。これは史上最低の変動率だ」「世界的に見ても経済成長のボラティリティは史上最低水準である」「おそらく経済成長の変動幅が少なくなっていることは、経済成長が減速していることによるものと思われる。経済成長率が低下するとその変動幅が小さくなるのは自然なことだと思われる」

なるほど。政治面での不安定さは世界各地で高まっているが、経済活動はサプライチェーンの活用などで大きな在庫投資などが減り、GDP成長率の各期毎のブレ幅が小さくなっているという説明は説得力がある。

記事は最後に「ボラティリティの低下は投資家のひとりよがりを生む。ものごとが逆に回りだした時の反動は大きい」と警鐘を鳴らしていた。

昨日の株価下落が大きなコレクションにつながるとは私は思っていないが、相場は変動するものだということを知らせてくれたことでは意味があった。

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旅の道連れは角田さん

2017年06月26日 | 本と雑誌

旅行する時皆さんはどんな本を持っていきますか?

列車に乗っている時間によりけりだけれど、私はエッセー集が多い。

長い小説は途中で腰を折られることが多いので、短い読み物の方が列車旅には向いている。短い読み物となるとエッセー集が良い。

エッセーの中で私が旅行によく持っていくのが、角田光代さんのエッセー集だ。角田さんのエッセーは大好きだが、角田さんの小説はあまり読んでいない。というか私はフィクションよりノンフィクションの方が好きなのであまり小説は読まない。あまり読まない小説の中で歴史小説はよく読む分野だが、史実に近い(感じがする)中村彰彦さんなどを好んでいる。

ただし中村さんの本はほとんど読んでしまったので、最近の旅の道連れはもっぱら角田さんだ。

角田さんのエッセーは、角田さんの今までの暮らしが適度に開示されていてリアリティが高い。それに身近な材料を仕立て上げる巧みさに引き込まれる。表現や文体が実に自由なことことも魅力だ。

最近山旅の前後に読んだ「今日もごちそうさまでした」というエッセー集の中の「ホワイトアスパラが成し遂げた革命」というエッセーの中に「缶詰に入ったホワイトアスパラガスは、へにょーんくにょーんとしていて、缶臭く・・・存在意義があまりよくわからない感じのものだった」という一文がある。

「へにょーんくにょーん」などいう表現は、男性作家では使わないだろう。大の男がそんな表現を使うと変な奴、と思われるのが、関の山だ。

女性作家だからそして角田さんだからできる自由な表現と多様な文体。一つ一つの話が短く完結しているので、どこから読み始めてもどこで読み終えてもこちらの自由。

小1時間ほど新幹線に乗るような旅には持ってこいの旅の道連れである。

角田さんは毎日自宅から自分の事務所に出勤して原稿を書いているらしい。角田さんがたくさんエッセーを書いて、旅の道連れに不自由しないことを願っている。

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秘湯から秘湯への山旅~那須連峰登山

2017年06月26日 | 

深田久弥の「日本百名山」の「那須岳」では那須岳(1,917m)となっている。これは那須連峰の最高峰三本槍岳の標高である。しかし一般に那須岳というとロープウエイで簡単に往復でいる茶臼山(1,915m)を思い浮かべる人が多いだろう。

私もかなり前にカミさんとロープウエイで茶臼山を往復して、那須岳に登ったことにしていたが、今回百名山好きの山仲間が、三本槍岳に登るというので同行した。

ルートは一日目にロープウエイ経由で茶臼岳に登り、北面の三斗温泉に泊まり、翌日三斗温泉から隠居倉経由で三本槍岳に登り、朝日岳から峰の茶屋を経て、下山するというものだ。

下山後大丸(おおまる)温泉の大丸温泉旅館で日帰り入浴した。大丸温泉旅館は「日本の秘湯を守る会」の推奨宿だけあって露天風呂の規模が大きく素晴らしい。三斗温泉という鄙びた温泉と大丸温泉というお洒落な温泉を巡る山旅であった。

6月24日(土曜日)午前10時前に到着する東北新幹線で那須塩原駅に到着。9時15分の路線バスで那須ロープウエイに向かった。10時半過ぎにロープウエイ乗り場に到着。すぐにロープウエイに乗り、11時には登山を開始した。天気は曇のち晴。

ロープウエイ山頂駅からは大勢の老若男女が茶臼岳を目指して登っている。

11時43分に山頂到着。昼食を食べた後、峰の茶屋に向かった。12時37分峰の茶屋到着。峰の茶屋から茶臼岳北面のトラバース道をたどって牛ヶ首へ。良く整備された道だ。

大きな岩がのしかかるように聳えている。

牛ヶ首(13時7分)から姥ケ平へ。姥ケ平に13時29分到着。

土石流の後に新しい植生が育っている。姥ケ平から200mほど歩いたところにひょうたん池がある。ここは茶臼岳北面の絶景ポイントだ。

いたるところに咲いている更紗満天星(サラサドウダン)の赤く小さな花が可憐だ。

遊歩道の脇にはイワカガミの花が見える。

14時51分三斗温泉到着。

三斗温泉には「大黒屋」「煙草屋」の2軒の宿がある。我々は煙草屋に泊まった。煙草屋には露天風呂があり、24時間入湯可能だ。

三斗温泉にはテレビもなく、携帯電話もつながらない。夕食は4時半開始なので、食後に露天風呂に入るとお酒を飲むくらいしかやることがない。本当に鄙びた宿だ。露天風呂で一緒になった人から「下山後の温泉は大丸温泉の大丸温泉旅館が良い」と教えてもらった。

明けて6月25日(日曜日)曇。午前4時に起きて露天風呂に入ってからカップ麺で朝食。5時20分登山開始。三斗温泉(標高1470m位)から隠居倉(1,819m)への登りは急だ。特に頂上下が急勾配。6時23分隠居倉到着。茶臼岳がよく見える。

その左手には朝日岳の荒々しい姿が見える。

東に目を向けるとこれから見える三本槍岳が見える。べったとした稜線で没個性的な山だ。

7時32分清水平到着。ここに荷物を置いて空身で三本槍岳を往復した。8時20分山頂。

西側のスカイラインには日光連山が見えた。左のギザギザした峰は女峰山だろう。真ん中に男体山があり、一番高いのは日光白根山だ。

9時に清水平に戻り、一休みした後朝日岳へ。9時58分朝日岳山頂。茶臼岳中腹の登山道を登る人が見える。

朝日岳・峰の茶屋のルートは岩場を通るので多少緊張感があり面白い。登山道はよく整備され浮石もないので、危険はないだろう。

11時30分大丸温泉到着。日帰り入浴は11時半開始なのでグッドタイミング。ビールを飲み、蕎麦を食べながら読んだタクシーを待つ。タクシーは那須塩原駅まで1万円少々だが、4人で乗ると一人2,500円だ。バス代(1,400円)よりは高いが、かなり早く着くので人数が多ければタクシー利用がお薦めだ。

梅雨シーズンで天気が気になったが、幸いほとんど雨に降られることもなく(7時過ぎにちょっと降ったが)、快適な登山を楽しむことができた。那須連峰はこじんまりとした山だが、山麓の懐は中々深い。ロープウエイを離れて茶臼岳を一回りするだけでも色々な山の顔が見えて楽しいだろう。

 

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【書評】「教養としての社会保障」~筋の通った名著

2017年06月23日 | 本と雑誌

元厚労省官僚の香取照幸氏著の「教養としての社会保障」(東洋経済新報社1,600円 Kindle版)を読んだ。表紙には「年金を改革し介護保険をつくった元厚労官僚による憂国の書、書下ろし」とある。

読み始めた時の最初の印象は「お役人の中にはしっかりした考え方をもって世の中の制度設計に取り組んでいる人がいるんだ」ということ。こんな素人っぽい印象を述べると「何を言っているんですか!日本の経済成長を支えてきたのは官僚ですよ」とお叱りを受けるかもしれない。しかし昨今マスコミでは官僚の方についてあまり良いニュースが流れないので、つい的外れな印象を持ってしまったようだ。

この本は読みやすい。なぜ読みやすいか?というと「筋が通っていてブレが少ない」からである。

ではその「通っている筋」とは何か?

それは「現代社会において何故社会保障が必要なのか?」「日本の社会保障にはどのような視点が欠けているのか?」「日本の社会保障はどこから改革していくべきなのか?」ということである。

香取氏の主張を私なりに整理してみた。

  • 低成長時代に求められる社会保障の機能は、経済成長に貢献することである。経済と社会保障を対立的に考えないことだ。
  • 人口減少が進む日本では、知識産業社会への転換を図る必要がある。そのためには知的労働を担う人材を養成する必要がある。
  • 雇用対策は「失業防止型」から北欧型の「職業訓練・能力開発型」に転換するべきである。
  • 非正規雇用労働者にも正規雇用労働者と同様、社会保険(健康保険と厚生年金)に加入する仕組みを作るべきである。

もう少し分かりやすく私の言葉を交えて、ストーリーを展開しよう。

日本が高度成長を享受できた背景には少子化政策を取って、教育・育児への投資を抑え、資金を産業投資に傾斜したことがある。

しかし少子化政策は少子高齢化を招き、人口減少は経済成長を鈍化させるとともに、国民総生産に占める社会保障費のウエイトを押し上げ、税収で賄えない公的支出は国債という形で次世代に付け回されている。この負の連環を止めるには、労働生産性を高めるため、知識産業社会への転換や女性や高齢者の労働市場への参加を拡大する必要があり、社会保障政策はこれらの目的と整合的である必要がある。

雇用政策については、景気循環をベースにした「雇用調整助成金」型から「職業訓練・能力開発」型に転換し、成長産業への人材供給を可能にするべきである。

全雇用者の34%を占める非正規雇用を「持続的な雇用形態」(私の言葉)と捉え、正規雇用者と同じ社会保険への加入を促進するべきである。

香取氏の主張のベースには「社会保障というセーフティネットがあるから、人々は自分の能力や可能性を最大限に発揮しようして挑戦する(失敗してもネットで救われ再挑戦できるから)」「その挑戦がアメリカや北欧の経済成長を支えた」「社会保障とはこのような『自助』から発生するリスクを共同化することで分散する仕組みである」という考え方がある。

なおこの本のカバーする分野は「介護」等多方面にわたるが、とりあえず私の関心が高い経済成長と社会保障の関わりに関する感想を述べた。一読をお勧めしたい本である。

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