今年のNHK大河ドラマ「篤姫」は人気が高かった。私もほぼ毎回見た。何が面白いかったかを考えてみると、まず役者のバランスが良かった。篤姫の宮崎あおいや和宮の堀北真希、小松帯刀の瑛太などの若手陣と生島の松坂慶子、瀧山の稲盛いずみなどのバランスが良かった。また年の元頃は少し生硬に見えた若手俳優が回を重ねる度に役になじんでいくところも良かった。
歴史ドラマとして見た時は「良く知っている歴史的事実」と「番組が示した新しい解釈」のバランスが程よく取れていて知的好奇心をくすぐった点が人気を呼んだのではないだろうか?
「良く知ってる歴史的事実」というのは「通説」と言い替えても良いだろう。例えば「江戸城の無血開城を巡る薩長側と幕府の駆け引き」だ。私が知っている「歴史的事実」ではまず幕臣山岡鉄太郎が薩摩人益満休之助を連れて、一人で西郷を訪ね無血開城の大枠をまとめた。そしてそのお膳立ての上に西郷と勝海舟の会談が行われたいうもの。
何故「武力討伐派」だった西郷が無血開城に変わったか?という点については色々な推測がある。例えば「江戸に官軍が攻め込めば火消しの集団を使って火攻めにする」という脅しを勝が示唆したという説がある。また英国政府が「降伏している幕府に武力を振るうのであれば英国は幕府に付く」と西郷を脅かしたという説もある。
ドラマ「篤姫」では西郷が島津斉彬の書状の入った篤姫からの手紙を受け取り、恐懼して武力討伐を放棄することになっている。篤姫が西郷に手紙を書いたということは知っていたが、その影響力はどれ程あったのだろうか?ということになると疑問だ。むしろ英国大使の脅かし説の方が大きかったかもしれない。
維新物のように視聴者がある程度知識を持っている場合、「番組が示す新しい歴史解釈」や「作者が作った架空の人物」などをゆとりを持って受け入れることができるので、ドラマを深いレベルで楽しむことができる。
ところが「歴史的事実」に関する知識を欠くテーマについてドラマを見ると私のように「事実に拘る」人間は「これは事実か作者の創作か?」ということが気になって落ち着かないのである。
また歴史文学やノンフィクションについて極端に事実について知識がない場合は話そのものに対する関心がわかない場合もある。一から十まで知っている話では新たに読む必要がない。かといってある年齢になると全く知らない話には興味が涌きにくいのである。既知と未知の程よいバランスが知的好奇心をくすぐるのだ。だから私は頭が少しでも柔らかい内に知識のフロンティアを拡大しておく必要があると考えている。といっても私の頭は随分固くなってきているが。