ファイナンシャル・タイムズは米銀のクレジットクランチにより、邦銀が米国でビジネスチャンスを拡大しているという短い記事が出ていた。
記事によると「邦銀にとってM&Aの対象となる魅力的な米銀の売り物はないが、クレジットクランチで米銀の与信能力が低下している中、その間隙を縫って邦銀が業績を伸ばしている」ということだ。
三井住友銀行で国際業務を統括する箕浦専務執行役員はFTに「過去にワシントン・ミューチュアルやワコビアを含めてM&Aの対象先を検討したが今のところ特別ターゲットとする対象先はない。SMBCは連邦預金保険機構(FDIC)が売りに出す問題を抱えた住宅ローン銀行を買収することに興味はない。」と述べている。
三菱UFJはFDICから2つの銀行を買収しているが、同行の畑尾執行役員(国際業務担当)は米国におけるM&Aの範囲は限られていると述べている。同氏によると「買収ターゲットは高くなり過ぎ、またセカンドティアのターゲットは魅力がないということだ。
M&Aの機会は欠如している。しかし米国企業の中には金融危機時に資金回収に走った米銀を忘れずにいて邦銀に与信業務以外の投資銀行サービスでもアプローチしてくる顧客がいると畑尾氏はFTに告げている。
貸出増とスプレッド拡大によりSMBCは米国での収入を過去2年間で倍に増やしている。
☆ ☆ ☆
邦銀は昔から米国に進出しているが、コーポレートファイナンスで大きな仕事をする機会は少なかった(不動産融資等アセットファイナンスではそこそこビジネスはしてきたが、これは米企業にとって「格下」のファイナンスであった)。
クレジットクランチの結果とはいえ、邦銀にコーポレートファイナンスのお鉢が回ってきたことは歓迎するべきだ。大いに頑張って欲しい。
また大手銀行が米国等スプレッドの取れる市場に出て行くことで、日本国内の過当なまでの貸出競争が少しでも緩和されるとすればそれは日本経済にとって好ましいことだと私は考えている。今私は銀行からお金を借りる立場なので、貸出スプレッドが上昇することは辛い。だが敢えて大所高所から考えると過当な融資競争が低スプレッド融資を蔓延させその結果、価格競争力のない企業に延命措置を与え、それがデフレの原因になっている側面はあると思われる。
それにしても記事に出てきたワコビアといえば20年程前は米国地方銀行の模範行といわれ、日本から多くの地銀が見学に出かけたところだ。米国企業の栄枯盛衰は激しい。だがその新陳代謝により経済は活性化し、デフレリスクは回避されるのである(米国がデフレを回避できるかどうかは今後の政府・連銀の手腕にかかわるところは大きいだろうが)。