爽やかな風を受けて素晴らしい景色を堪能。ひとり旅はええのお。
こういうところでは、その場を去るきっかけがなかなかつかみにくい。いつまで
いても、と思いつつ、ようやくここまで来たのだから帰るのはもったいないような。
ま、帰るときがきます。
まるで自分が巨大な盆栽のなかにいる小さな虫になったような視点ですよねえ。
道路のあるところまで戻ってきました。そこでデカいバイクに乗ったやつが向こうから
やってきて、降りてヘルメットを取り「岬まで行ったんですか?」と聞く。「ええ、
景色きれいですよ」と答えると、「どれくらいかかります?」というので「歩いて
30分はかかりますね」というと、フッと笑ってバイクに乗り、引き返して行っちゃい
ました。それは「よくやるよ」という笑いでした。わざわざこんなところまで来たのに、
あのフットパスを歩かずに岬の景色も見ないで帰るのはなんなんでしょ、と俺は思い
ました。アスファルトをひたすら走り続けるのが趣味なんでしょうね。
バイクで吹っ飛ばして行ったら、こんな景色もゆっくり見られないんじゃ?
下に糞が落ちているところを見上げると、だいたいこやつらがいたりします。
港がある南側ではなく、北の反対側のほうにも行ってみました。
草むらに何かいるな、と思ったら鹿でした。だいぶ近くに来るまでお互いに気づか
なかったのですが、こっちも驚いたけれど、あっちはもっとびっくりしたようです。
鹿は走るのではなく、ほとんど飛ぶように跳ねていきます。
しっかり離れたあとで、こっちを見つめていました。ご夫婦?
まだ近くに子供たちがいました。子供たちは親ほど警戒心が強くはなく、あとから親に
促されるようにそっちに行きました。
両親に子供二匹でした。お母さんが子供らを迎え、お父さんは前に一歩出てこちらを
じっと見ていました。一家を守る立派な振る舞い。
お父さんはこちらをじっと見ていて、俺もしばらく見つめていると、威嚇じゃないけど
「ケーン!」と声を上げました。「子連れなんだから、あっちに行ってくれないか」
というふうに聞こえました。
宿泊する民宿に戻りました。根室のホテルが全部満室だったので、何年ぶりかに
民宿なるものに泊ったのです。食事は大きなテーブルを囲んで他の宿泊客と一緒。
御主人と娘さんが切り盛りしています。民宿だからタオル等のアメニティなし、
全面禁煙、民家で壁が薄いから隣室の話し声が全部聞こえてしまう。いたしかたなし。
食事の際、御主人が司会になって「さきち・さんの今回の旅の日程は・・・」などと
順番に話しかけてきて親睦会のような雰囲気となる。毎晩酒場に繰り出して泥酔する
パターンとは大きな違いだな~w それまで3日連続で深酒をしており、これから
2週間飲み続けるのでちょうどいい休肝日かと思って缶ビールだけにしたのでした。
旅行先で酔いつぶれないのは久しぶりってか?
ランドーの冒険記16 ヨシタロウの本性が出る
2泊して宿を出ようとした朝、ヨシタロウは別人となっていた。無礼で私を脅そうと
したのだ。請求書には16円、英国通貨なら3ポンドと書いてあった。北海道なら一泊
1円を超えることはないはずだ。私は落ち着いて主人に、それは盗っ人であり、絵を
取り上げると言った。彼は譲るつもりはなく、なんなら闘うとまで言った。私はやれる
だけやろうと思うときには挑戦をためらわない。見たところ私の腕のほうがだいぶ
長いしな。そこで彼の喉をつかみ、激しく揺さぶって床に倒してやった。彼の友人
たちが彼を隣の部屋に連れ出したので、その間に出てゆく準備をしていたら、ヨシ
タロウが妻に「剣を持ってこい。イジンサン バッカ(馬鹿の外国人)を殺してやる」
と言っているのが聞こえた。
ランドーがその部屋に入っていくと、ヨシタロウは怒りで真っ青になって火鉢の横に
座り、8~10人の仲間とどうしようかと相談していた。
「ヨシタロウ、すぐに絵を持ってこい」
「嫌だね」(仲間たちが「いいぞ!」と合唱する)
「ヨシタロウ!」ランドーはリボルバー(弾は装填していない)を向けて言った。
「20数えるうちに絵を出さないと、死ぬことになるぞ」