放送台本というものが「最終稿」になるまでに、どのくらい書き直されるのか分かりませんが、前回紹介した星新一原作「宇宙船シリカ」の初回放送分の台本(わら半紙にガリ版印刷されたもの。ここでは「オリジナル台本」と呼びます)には、別のバージョンがありました。
星新一公式HPの「ホシヅル図書館」のデータを改訂増補するのに資料を探していたら、
ここでの過去記事、「星新一の大コレクター 巨星落つ」でお伝えした、2019年2月に亡くなった、大先輩の星新一コレクターから送っていただいたコピーが出てきました。30回分放送までのコピーで、初回放送分を両方比べると、その表紙からして違っています。記載された事柄から判断して、後から印刷されたものだということが分かります(ここでは「コピー台本」と呼びます)。
ウィキペディアで「宇宙船シリカ」を調べると、年度別の「放送リスト」が出てきます。放送開始の1960年度を見ると、1回目のタイトルは「宇宙基地」、2回目が「不思議な金属」になっています。
オリジナル台本の表紙には「宇宙船シリカ」とあるだけで、初回放送分のタイトルの記載はなく、コピー台本の表紙には「№1 不思議な金属」となっています。
台本に記載されたスケジュールも、オリジナル台本(左)では「7月25日第一稿上り(印刷)」から始まりますが、コピー台本(右)は「8月18日22:30~25:30 セリフ録音 人形と音合わせ」から始まっています。
このことで、放送台本には「最終稿」にたどりつくまでに、いくつかの段階があることが分かります。
しかし、ここで疑問が———。
どちらの台本も2回目の放送分が抜けているのです。
ここからは推理にすぎませんが、コピー台本が印刷されたあと、「最終稿」の台本に至るまでの検討を重ねていく過程で出された、「導入部が唐突なので、宇宙船シリカが置かれている状況説明を初回に入れた方がいいのでは?」という意見に従い、「宇宙基地」を初回放送にして、当初予定していた1回目放送予定の「不思議な金属」を2回目に回したので、どちらの台本も2回目の放送分が抜けている——この推理は的外れではない気がします。