サイババが帰って来るよ

Count down to the Golden age

世界が水に覆われて朝が来る

2015-12-17 00:00:15 | 日記

ポニョ:加代子さんは信心深い人やったんやな。心の中に神さんがいてたんや。

ヨシオ:毎朝、毎晩、神棚に手を合わせて拝むのが日課やったみたいやな。曲がった事が大嫌いで潔癖性っていうか、完全主義者やな。

ポニョ:だから中国から飛び出して大阪に戻ったんやろな。だってそういう性格の人やったら、先妻さんと一緒に住むなんて加代子さんには到底無理やぜよ。

ヨシオ:多分そうなんやろな。負けず嫌いやし、男勝りの性格で何をやっても上手く出来るという自信の塊みたいな女性やったらしい。

ポニョ:それってあんたの性格と似ているやんか。あんたはお婆ちゃん似かも知れないぜよ。いろんなところがよく似ているぜよ。

ヨシオ:隔世遺伝で似るっていうもんな。

ポニョ:でも最後は寂しく亡くなって逝かれたよな。

ヨシオ:でも本人は最愛の娘に死に水を飲ませてもらったし、満足して亡くなられたと思うな。外面では自分の信仰心を絶対に見せない人やったけれど、神さんがいつも心の中にいる人やったから、それなりのカルマを支払って人生を終えられたんやろな。今回の記事の中で加代子が大金を失ったのは保証人になったからだと言ったんやけれど、それだけではなく戦前から喫茶店で貯めて来た金を一度に無くしたのは新円切り替えの時やってお袋が言ってたな。

ポニョ:ああそれやったら、学生の頃に調べたからよく知っているぜよ。預金封鎖と言って、自分の貯金した財産を自由に引き出すことができないんや。戦争で政府は国家財政を湯水のように軍事予算に注ぎ込んで、三菱などの軍事関係で大儲けしていた財閥を肥え太らせたんや。そして戦争に負けると昭和21年2月17日、政府は突如として預金封鎖を発表して、すべての銀行を封鎖して預金の引き出しをできなくさせるとともに、新円への切り替えを実施したんや。新円を各世帯にほんの少しずつ配っただけで、旧紙幣での預金はすべて使えなくしてしまったので加代子さんの様に小金を貯め込んでいた人たちは一度に貧乏人のお仲間になったんや。と言うのもこれは戦争で膨大に積み上がった政府の借金を帳消しにするためなんやけれど、ひどい政策やぜよ。今、アメリカでも年間二十五万ドル以上の現金を引き出す事が出来ない法律が出来てるし、銀行に預けたお金は個人の物ではなくて銀行が所有者になる様に法律を変更したんや。日本でもオレオレ詐欺を防止するためにという口実で、現金を大量に引き出せない様になって来ているんや。また、今日FRBが金利を上げたけれど、これによって世界中のドルを還流させて世界経済を暴落さすためなんや。もうすでにアルゼンチンではペソの下落が止まらないし、クリスマス前ぐらいに大きな動きが始まるやろな。そして金融封鎖が始まるんや。第二第三の加代子さんが出てくるんや。これ以上言い出すと、きりが無いけれど世界中で人々からお金を奪い取るいろんな画策が進行中なんや。と言うわけで数奇な加代子さんのお話を終わったけれど、このままやったら東洋子がどうなったのかも分からないし、龍海の話も聞きたいし、区切りの良いところまでこのまま少し話を続けてもらおうかな。という事で龍海と東洋子の結婚のお話ですが、これもややこしいよな。

ヨシオ:昔の中国人って色々封建的な要素を持っている人が多いからな。というわけでもう少しこの話に付き合って下さいね。

龍海は天涯孤独になった東洋子と直ぐにでも結婚して所帯を持ちたかったのですが、実は両親と約束をしていた事があったのです。それは決して日本人と結婚してはならない。同じ中国人の女性と結婚しなさい。というものでした。それは龍海が物心を付いた時からうるさく両親から言い聞かされて来た事なのでした。
でも龍海はどうしても東洋子と一緒になりたいと思っていました。それである日意を決して両親に東洋子と結婚したいと頼むと、両親は泣きながら自分達の大阪にいる中国人社会での面子を保つために、中国人の娘を説得して連れて来るから、その娘と結婚式の真似事だけをして欲しいと頼まれました。その娘は、両親が龍海の嫁として子供の頃から選んでいた許婚だったのです。それで仕方なく龍海は親の面子を潰さない為に、大阪にいる両親の同郷の人達を招待して結婚式の真似事をして両親を満足させました。

龍海が親との約束を守った後、まだ十七歳になったばかりの東洋子を家に連れて来て、家族全員に紹介しました。弟達は全部で五人いて妹は針中野に嫁いで家にはいない英子を入れて三人でした。そして信仁と林氏の十一人家族でした。今まで一人っ子で、時折中国から加代子の元に通って来る興蔵と三人家族だったのが、突然大家族の中で生活し、しかも長男の嫁として嫁いだので、両親の面倒を始め今まで体験した事が無いような料理の準備や文化の違いによるすれ違いや、言葉が時々通じない事による誤解などによって、東洋子は精神的にとても疲れてしまって、とうとうバセドウ氏病になってしまいました。
龍海は家業の事業でとても忙しくしていましたが、東洋子の為に出来るだけ時間を割いて面倒を見ました。龍海は東洋子に、出来るだけ洋服屋の二階から降りて来ないように言いました。そして無理をせず自分のペースで一日を過ごすようにさせると、東洋子の病もだんだん癒されて行ったのでした。

龍海は加代子と同じで、何事をするにも全力投球で、決して手を抜いたりする事はありませんでした。だからこそ加代子とも気が合ったのでしょう。そんな忙しい龍海でしたが、夜に仕事が終わり店を閉めた後、店の前に椅子を置いてギターを演奏して歌い、自慢の声を商店街で働いて一日を終えた人々に聞いてもらうのが楽しみでした。商店街には、地方から大阪に家族や友達と別れて出て来て、寂しく過ごしている人たちがたくさんいました。龍海は毎晩のように一時間ほど、そういう人々の為に歌を歌いました。地方から出て来た人々は仕事が終わると龍海の周りに集まって来て、その歌に聴き惚れました。そして自分たちが知っている歌は、龍海と一緒に大きな声を出して歌いました。まるで夜中の十二時を回った商店街が、歌謡曲合唱団の練習会場のようになるのでした。東洋子も毎晩のようにギターを抱えて歌う龍海を、憧れと誇りを持って横に座り、一緒に歌っていました。
龍海は東洋子に、「もし自分の店が倒産するような事があっても、俺はお前と二人でギターを一本持って全国を回り、街角で歌えば生活が出来るぐらいのお金が入るから、慎ましくても素晴らしい人生を歩めるよな。」と笑いながら言っていました。それくらい龍海のギターの腕前や歌声は素晴らしかったのです。

龍海は李紅蘭のバンドにも応募しに行った事がありましたが、足が一本短くて写真の写りが悪い、と言われて断られた事がありました。

商店街でのコンサートの後は、二人で大衆浴場に行き、一日の汗を流した後、大型バイクに乗って夜の大阪の街をぶっ飛ばしましました。その後行きつけのラーメン屋台へ行って二人で肩を寄せ合って仲良く食べました。東洋子は、今までの人生を振り返ると苦しい事しか思い出せなかったけれど、今味わっているこのような幸せな人生が待っていたので、本当に今まで生きて来て良かったなと、しみじみ思いました。東洋子にとって龍海は、自分の命と代えられない程、一生涯愛し続けても愛せ尽くせないぐらい尊敬出来る立派な夫だと思いました。

そんなある日、東洋子は自分が妊娠しているのではないかと思い産婦人科へ行って調べてもらうと、妊娠していると告げられました。その事を早速龍海に告げると龍海はとても喜び、一目散に走って両親や友達の元に知らせに行ったまま夜中まで帰って来ませんでした。
龍海が夜中に帰って来た時には、もうかなり酔いも回っていて何軒も友達と飲み屋を梯子したようでした。普段の日の龍海は、東洋子が寝つくまで霊界の話や宇宙の話、四次元や超能力といった東洋子が今まで聞いたことが無いような話をしてくれました。
そして、自分の話に興奮して寝れなくなり、朝まで天井を大きな目で見つめながら起きていた事も珍しい事ではありませんでした。

張家に待望の初孫が生まれました。男の子でした。信仁と林氏は初孫の為に盛大な宴会を開く事に決めました。何百人もの人たちを大きな中華料理店に招待し、新しく生を受けた孫を祝福しました。孫の名前は世に潮と書いてヨシオと呼ぶ事にしました。実は世潮が生まれた朝に龍海は忘れようとしても忘れられない程のインパクトのある夢を見たのでした。そんな夢は今まで見た事がありませんでした。それは次のような夢でした。龍海が宇宙空間に浮かび、足元にある大きな地球を見下ろしていました。ちょうど地球が太陽と反対側の夜の部分の上を浮かんでいました。眼下には暗闇の中に大都市の明かりが見え、そこから人々の喧騒の声や争い、また戦場では、砲弾が炸裂する音など、ありとあらゆる人間がこの地球で犯している様々な悪い行為の音が聞こえて来ました。龍海はそのような音が聞こえてくる度に、大変辛い気持ちになりました。すると突然ゆっくりと自転していた地球が、大きく向きを変えて回り始めたのです。まるで地球の地軸が傾いたような感じでした。それと同時に地球のあらゆる大陸が海の水に呑まれて行きました。そして人々の阿鼻叫喚の叫び声が地球のあらゆる場所から聞こえました。龍海は思わず自分の耳を塞ぎました。しかしその後、地球の水平線の向こう側から太陽が昇って来たのでした。その太陽は優しい霊的な光線を四方八方に発し、地球をその愛の光線で包んでいるように見えました。

龍海は凄まじい愛のオーラを発している太陽とそのオーラに包まれつつある地球を感動しながら見ていました。地球からはもう何も音が聞こえて来ませんでした。静寂と平安、愛に包まれた地球がそこにありました。そして龍海は目を覚ましたのです。その日の午後、陣痛が始まった東洋子が男の子を産んだのでした。龍海はもう心で決めていました。夢で見た通り、「世界が水で覆われ朝が来る。」つまり息子の名前は、世界の世と、水を表すさんずい篇に、太陽が昇って来たので、朝と書いて潮、世潮を自分の息子の名前にすると。

龍海は産後、女性として大きな仕事を終えて母となった東洋子に、興奮しながら自分が今朝見た夢の話を一生懸命していました。しかし東洋子はまだお腹も痛いし、頭痛もするので龍海の話を聞くのが苦痛でした。龍海が話し終えて息子を納得行くまで両手で抱えた後、自転車に乗って何処かへ消えてしまいました。友達とまた飲み屋を回りに行ったのです。東洋子は自分の横に寝ている息子に優しく声をかけました。「どうしようも無いお父さんやね。また酔っ払って夜中まで帰って来ないんだよ。きっと。嬉しくて今晩は朝までお友達と飲むつもりやろね。君の名前は世潮なんだって。最初はヨシオと読めるって気付かなかったので、みんなが反対しているのにも関わらず、俺の息子の名前は張世潮(チョウ セイチョウ)に決めたって叫んでいたんですよ。嫌ですよねそんな名前は。でも針中野に嫁いだ英子姉さんが、それってヨシオって読めるやんかと言って一件落着したんですよ。あなたのお父さんは本当におっちょこちょいなんですよ。でも心はとても優しくて、愛がいっぱい詰まっている世界一素敵な私の旦那さんなのよ。君にとっても良いお父さんだったら良いよね。そうそう、自己紹介が遅れましたが、私があなたを産んだ東洋子です。あなたのこの生でのお母さんです。世潮くん。これからどうぞよろしくね。」