ポニョ:クリシュナを孕んだ途端にやつれて死にそうやった夫婦の顔色が良くなり、元気になったって話が興味深いよな。
ヨシオ:神聖な霊力が身体の中に入ったんやろな。人って空気中のプラーナを体に取り込んだら別に食べなくてもええんや。
ポニョ:食べるのが何より好きわたくしめにとっては、それはあまり嬉しくない話やぜよ。
ヨシオ:ポニョにプラーナを食べろなんて言ってないやろ。
ポニョ:初めて知ったけれど、ヴァースデヴァには他にロヒニという奥さんがいたんやな。
ヨシオ:昔、王さんやら大臣級の人になると、何人も奥さんをもらえるんや。ヴァースデヴァもカンサの王国の大臣として仕えていたんや。
ポニョ:そうやったんや。でも、どうしてそれほど素晴らしい家系やのにカンサはメチャ利己主義で残酷なんやろな。もちろん天の声を聞くまではいとこのデーヴァキを実の妹のように可愛がっていたけれど、一度天の声を聞くや否や人が変わったみたいに残酷な悪魔になってしまったぜよ。
ヨシオ:実の父親も自分の権力の為に牢獄に放り込んでしまうくらい、自己中な王様やったんや。というのもカンサのお母さんが森に一人で入ったところをラクシャサの襲われて生まれたのがカンサなんや。だから他の兄弟とは違ってとても残酷な長兄やったんや。
ポニョ:ふーん。多分近くに米軍基地があったんや。
ヨシオ:インドの話をしてるんや。沖縄じゃないやろ。
ポニョ:アメリカ国防省の統計によれば、米軍兵士による性暴力、軍隊内での女性兵士も含めてなんと二十七分間に一回起こっているんや。日本の領土の1%の沖縄に75%の米軍基地が集中していたら、時限爆弾を抱えているようなもので、いつかはこんな事件が起こるんや。と言って、もう何度も起こってるから、みんな怒ってるんや。
ヨシオ:そら怒るやろ。残酷な事件やったもんな。カンサのお母さんは森で犯されたけれど、殺されなかったもんな。沖縄の事件はそれより悪質や。まるで悪鬼やな。
ポニョ:悪鬼より残酷な輩がこの現代の世に生まれ変わってきてるんやぜよ。インドの昔話もちょっと残酷やぜよ。
ヨシオ:そういう残酷な場面が幾つかあるよな。さて、それではいよいよクリシュナが生誕するシーンが始まりますよ。
ポニョ:クリシュナ生誕の前にも不思議な現象が起こったんやろ。それってサイババさんが生まれた時と一緒やぜよ。ババの時も妙なる音楽が鳴り始め、タンブーラやタブラが誰も演奏していないのに音を出していたぜよ。
ヨシオ:そうやったな。多分、天界のミュージシャン達がやって来て、クリシュナやサイババさんの神の化身の誕生を祝っていたんやろな。
ポニョ:今日の前置きは長くなったから、この辺でやめてすぐにクリシュナの話をしようぜ。早くクリシュナの誕生の話を知りたいぜよ。でもインドでは、この日に産まれた子供は、ホロスコープでとても大変な苦しみに遭うと言われているんやて。だからクリシュナが誕生の時からひどい目に遭っているやろ。牢屋で産まれたり、子供の頃からカンサが差し向ける殺し屋と闘ったり、クリシュナの人生は悪魔との戦いで始まり、悪魔との戦いで終わったんや。
ヨシオ:確かにクルクシェータラの戦いもあったし、常にたくさんの敵がいたよな。でもホロスコープなんて神様には関係ないんや。それよりポニョは早くクリシュナの生誕のシーンに入りたいんやろ。という事でクリシュナの誕生です。
その光り輝く姿は、だんだんはっきりとした形を取り始めました。法螺貝、円盤、釘状のものが付いた杖で武装していて、四つ目の手のひらをデーヴァキに向けて恐れないようにというポーズをしていました。そして静かに優しく言いました。
「嘆くのは止しなさい。私はナーラーヤナである。私は二、三分すれば汝の子として生まれるであろう。そして汝が今までしてきた熱心な苦行により、私は約束通り、汝が私の姿を見た時に、汝の一切の悩みを取り除くであろう。私の事を一切心配しなくても良い。汝はこれから繰り広げられるドラマの展開を静かに眺めていなさい。十四ある世界の中で私に危害を加えれる者は一人もいないのだから。汝が産んだ子への愛ゆえに、また心を覆うマーヤーによる迷いのゆえに、多少心配事が心に浮かべば、私は私の本質を示す奇跡をたちどころに見せるであろう。私が生まれるや否や、何時の手足から鎖がひとりでに外れ、牢獄の扉もひとりでに開くであろう。汝は私を誰にも知られる事なく、私をゴクラに住むナンダの家に連れて行き、その時に陣痛で苦しんでいるナンダの妻ヤショーダの横に私を置きなさい。そしてヤショーダが産んだばかりの女の赤児をここに持って来なさい。そしてカンサに子供が産まれたことを伝えるのだ。カンサに知らせが届くまで、マトゥーラにおいても、ゴクラに於いても汝に気づく者はいないだろう。私がそのように取り計ろう。」ナーラーヤナ神は神聖光輝に包まれ、デーヴァキとヴァースデヴァに祝福すると光の球となってデーヴァキの胎内には入り、それから数分後に子供が産まれたのでした。
それは午前三時三十分、プラムラ・ムフルータムの神聖な時刻でした。
ヴィシュヌ神の幻を生じさせる不思議な力が警備人たちを全て眠らせ、彼らはその場にうずくまって前後不覚に寝込んでいました。ヴァースデヴァの手足を縛っていた太い鉄の鎖は瞬間に外れ、牢獄の扉と門はさっと開きました。
周りは闇でしたが、カッコウは喜びの鳴き声を響かせ、オウムは天の至福を告げました。
星はまたたき、歓喜の光を放ちました。雨神は花の露のような雨を地上に降らせ、牢獄の周囲は小鳥たちが幸福の調べをさえずりました。
ヴァースデヴァはこれら全てが神の魅力を顕現するものである事を悟りました。産まれたての赤児に目をやった彼は、自分の見たものに驚きました。
真か、それとも幻か。彼は棒立ちになってしまいました。というのも赤児は光輪で包まれていたからなのです。赤児は両親を見て微笑みました。それはまるで何かを話しかけているようでした。そして二人は聞いたのです。
「さあ、今すぐ私をゴクラに連れて行きなさい。」という言葉を。
ヴァースデヴァはもはや躊躇しませんでした。彼は竹で編んだマットの上に衣を広げると赤児を乗せ、デーヴァキの古いサリーのスカーフを裂くとそれで赤児を覆いました。そして開け放たれた扉と門を抜け、ぐっすりと寝込んでいる警備人たちの間を通ったのです。
彼は二、三滴の雨が降ってきた事に気づき、産まれたばかりの子がずぶ濡れになると思って悲しくなりました。
しかし彼の後を蛇のアーディ・シェーシャが彼の足音を聞きつけて、後を追い、蛇の盖を広げて傘のように赤児の上に差しかけ、雨に濡れないようにしているのを見ました。
彼は一足ごとに神聖な好ましいしるしを見たのです。
まだ陽は昇っていませんでしたが、蓮の花は池という池に花開き、ヴァースデヴァに向かって微笑みかけていました。月の無い夜でしたが、多分神々も赤児を見たいと欲したのでしょう。満月が雲間から顔を覗かせ、涼しい月の光は道を行く赤児が寝かされた竹のマットだけを照らしていました。全てこれらの神聖なしるしを引き寄せた赤児をナンダの家に置くと、そこにいた産まれたばかりの赤児を抱えて連れ出して来て、デーヴァキの手の中に置きました。そうし終わるや否やヴァースデヴァは、わっとばかりに泣きくずれました。