近所の木之下川沿いの道を歩いて15分もさかのぼると、幅がせまくなり、岸に菜の花が咲き、蓬の丈が伸びていた。
画像は13日、鹿児島市慈眼寺で写す。
春川の源へ行きたかりけり 杞 陽
そう思ったが、そのさきは道がなくなってしまった。
一ヶ月ほど前はちらほらと紫雲英が咲いていた山田は、絨毯を敷きつめたような紫雲英田に変わっていた。
山桜もあちこちで咲いていた。画像は6日、鹿児島市慈眼寺で写す。
切岸へ出ねば紫雲英の大地かな 草田男
調べてみると、パール=バック作「大地」の原題はThe Good Earthだそうで、紫雲英の原産国は中国だそうだ。
蜜蜂
紫雲英の花には蜜蜂がたかっていた。
密蜂の喜ぶ余り針一本 草田男
春ガ来タと喜んで、うっかり蜜蜂に触ってしまったのだろうか。「喜ぶ蜜蜂」の視点から句意をさぐってみたが、満足できる解釈は得られなかった。
郊外に行って、今年まだ画像を載せていない花を求めて撮り歩いた。
画像は12日、鹿児島市下福元町で写す。
大根の花
大原や日和定まる花大根 蛇 笏
今年もそろそろ春日和が定まってほしいと願う。
連翹
連翹の一枝づつの花ざかり 立 子
活け花の心得が、一句に表れているように思う。
山吹
藪中や日の斑とゆらぐ山吹草 梅の門
撮るときは気がつかなかったが、写真に日の斑らしいものが写っていた。
蘇枋の花
いまはむかしのいろの蘇枋の花ざかり 龍 太
江戸紫が念頭にあるのかと、それだけ書こうと思ったが、江戸紫を知らないのだった。
川の橋のたもとに蕎麦屋の標識が立っており、近寄ると媼がのれんをかかげていた。時計をのぞくと午前11時きっかりだった。
画像は11日、鹿児島市坂の上で写す。
ぶっかけ
店に入ってビールを所望すると、置いてなかった。くるまの客が多いので、置くのをやめたのだそうだ。
注文をつけずに蕎麦を頼むと、ぶっかけが出てきた。蕎麦は長さが4センチ前後だったが、つなぎとして山芋をほんのすこししか加えないので、やむを得ないそうだ。
箸にはさんで蕎麦を啜っているうちに、ぽろぽろとちぎれて啜れなくなり、最後は粒になった蕎麦を汁もろとも掻っ込んだ。
蕎麦よりも湯葉の香のまづ秋の雨 万太郎
坂の上のぶっかけは、蕎麦以外なにも匂わなかった。
朝起きたときは雨が降っていたが、そのうちに雪に変わった。画像は10日、鹿児島市谷山中央で写す。
大層に考えずとも春の雪 和 子
心配ごとをかかえていたが、春雪をながめているうちに、心配ごとはほっとけば、そのうちに春雪ともども消えるはずと、考え直したのだろうか。
聚落のなかの田に水が張ってあった。北総では、5月の連休前によく目にする田植え前の風景だった。
画像は6日、鹿児島市下福本町で撮影。
葛飾や桃の籬も水田べり 秋桜子
山本健吉著「現代俳句」に収録されている名句。それにしては水田と桃の季重なりが気になっていたが、あらためて歳時記をめくってみると、水田は季語ではなかった。
民家の庭木の楓が、はやくも若葉の時期をむかえていた。
歳時記によると、若葉は夏の季語。画像は8日、鹿児島市谷山中央で写す。
伯母逝いてかるき悼みや若楓 蛇 笏
「おもき悼みや楓散る」では、俳諧にならないのであろう。
ベランダの鉢植えのジャスミンが芳香を放つようになった。
画像は7日、鹿児島市谷山中央で写す。
ひと鉢は茉莉花にしてにほひぬる 友 二
手元の歳時記ではジャスミンの例句はすくなく、別称の茉莉花が多い。マツリカと読むそうだ。日ごろ歳時記に親しんでいるつもりだが、そんな別称があるとは知らなかった。素馨と書き、ソケイとも呼ばれるそうだ。
雨があがると、雨雲を冠った桜島がみえるようになった。降灰が雨に洗われたのか、いつもより緑が濃いようだった。
画像は6日、南港埠頭から写した。
春蘭や雨雲かむる桜島 秋櫻子
雲のまとい方によっても、桜島の表情は微妙に変化するようだ。
近所の空き地のたらの木は、枯れた葉、花および実がすがたを消して、新しい芽が出ていた。
画像は4日、鹿児島市谷山中央で写す。
たらの芽のとげだらけでも喰はれけり 一 茶
作者は欠けたたらの芽の痕をみて、人が摘んだのか、鹿や猪などが喰ったのか判ったらしい。
民家の庭木に薄紫の躑躅が咲いていた。深山霧島だと思ったが、猫車に大根を載せていた婦人に声をかけた。
「きれいですね。深山霧島ですか」
「はい」
と、婦人は作業の手をとめないで応じた。画像は3日、鹿児島市下福元町で写す。
大根の上に児を乗せ猫車 権 六
猫車の句にはじめて接したとき、猫用の玩具かと思った。
天道虫があたたかい日をあびて這いまわっていた。画像は2月28日、鹿児島市の郊外で写した。
天道虫生れまだ翅を思ひ出せず 秋 を
手で軽く触れると、天道虫は肢を引っこめて動かなくなった。避災の手段として、翅を使う前に擬死を身につけるらしい。
水上の鴨にカメラをむけると、餌でももらえると勘違いしたのか、水尾をひろげて近寄ってきた。いつもは嫌って遠ざかるのだが。
画像は1日、鹿児島市谷山中央で写す。
引鴨の名残りの水尾となりにけり 金治郎
水尾を末広にして、去っていく状況だろうか。