
ジョニ・ミッチェルといえば、柔らかなソプラノボイスをシンプルなアコースティックサウンドに乗せて、独特な節回しで自作曲を歌うカナディアン女性シンガー・ソング・ライターである。
当初はフォーク調の曲が主であったが、その後ジャズ・ミュージシャンを起用しジャズ風なアルバムを制作するなどフォークとジャズの領域をクロス・オーバーするとでも言うべきか、彼女独自のスタイルを構築していった。そして、つい数年前までアルバムを出し音楽活動をしていたようだが、最近脳動脈瘤という大病を患い病院に入院していたらしく心配なところである。
1970年に発表されたアルバムにLADIES OF THE CANYONがある。そのアルバムの最後を飾るサークル・ゲームという歌はいつ聴いても瑞々しく感じる。
同年に60年台後半の学生運動の走りとでも言える回想を記録した、いちご白書(STRAWBERRY STATEMENTS)というノン・フィクションの本が映画化された。
その映画の主題歌に、パフィー・セント・マリーという女性歌手によるサークル・ゲームのカバーが使用された。映画を見た人はこちらのバージョンがしっくりくるかもしれないが、私としてはシンプルなアコースティック・ギターの伴奏でゆっくり目に歌われる、ジョニのオリジナル・アルバム・バージョンを押したい。
一般的に言われる平均年齢の半分をすでに通り越し、残りの人生が今まで生きてきた時間よりはるかに少なくなると、どうしても昔のことに回帰する傾向があるように思える。もちろん歳を取っても過去のことは一切振り返らず、前に見えることだけに全力を注ぐポジティブな考えを持った方もいるのではあろうが、私としては、この手の曲を聴くとどうしてもノスタルジックなムードになってしまう。
ゆっくりした、ジョニ・バージョンをどうして薦めるのかというと、この曲はメロディーも秀逸だが、歌詞も示唆に富み重要で、歌詞カードで言葉をゆっくりした歌唱に合わせて追っていくと、結構頭に内容がストレートに入ってくるのである。
リフレインのパートで、
And the seasons they go round and round(そう、季節は巡り巡って過ぎ去る)
And the painted ponies go up and down(木馬もアップ・ダウンを繰り返しながら)
We're captive on the carousel of time(時の回転木馬に囚われたみたいに)
We can't return(元に戻ることはできない)
We can only look behind from where we came(今来た道から振り返れるだけ)
And go round and round and round(そう、巡り巡って過ぎ去る)
In the circle game (サークル・ゲームみたいに)
二番の歌詞のところで、
Sixteen springs and sixteen summers gone now(16回目の春と夏が過ぎ去り)
Cartwheels turn to car wheels thru the town(おもちゃのカートから街を通り抜ける自動車へと)
And they tell him,(みんなは彼に言う)
Take your time, it won't be long now(ゆっくり楽しみな、今の時はそれほど長くはないよ)
Till you drag your feet to slow the circles down(足を引きずらしてまで、時の歩みをスローダウンさせようとする迄のことさ)
三番の歌詞は、
So the years spin by and now the boy is twenty(時は過ぎ去り今や二十歳となる)
Though his dreams have lost some grandeur coming true(幾らかの夢は失うも、素晴らしきことも現実となる)
There'll be new dreams, maybe better dreams and plenty(新しい夢、多分より良きものでそして数多くあるだろう)
Before the last revolving year is through(大人になる最後の年を過ごす迄には)
人生にアップ・ダウンは付き物で色々な困難に直面することはあるだろうけれども、希望を持って人生のサークル・ゲームを続けようというメッセージなのか、そこに絶望という文字は未だ見あたらない。
それもそのはず、ジョニは当時27歳で、まだ人生の後半を展望できる年齢には達していなかった。もし出来るなら、今20歳を過ぎてから中高年に至るサークル・ゲームなるものを聴いてみたいものだ。
と! 不意にバック・グラウンドに“二人だけのメモリ~♪ どこかでもう一度~♪♪”とバンバンのヒット曲“いちご白書をもう一度”がしんみりと流れる。
助手:博士!さっきからなぜ遠くの景色をじっと眺めているのですか? 老眼防止のトレーニングですか? 遠くの緑生い茂る山並みを見ていると眼に良いと言いますからね~
博士:バッカモ~ン!
回転木馬の木馬がアップ・ダウンするがごとく、山あり谷ありだった遠い昔に思いを馳せておったのじゃよ。過去に戻ることは出来ずとも、あの時こうすればよかったなどと省りみて、これからに繋げる事は出来るかも知れん。
とは言え、山といっても小高い丘の上に登ったのが精一杯じゃったし、ほとんど谷底じゃった。
助手:なるほど、優雅なイメージの“LADIES OF THE CANYON”ではなく“おっさん達 OF THE CANYON”となんかむさ苦しい響きが伝わるような人生だったわけですね。
Joni Mitchell - The Circle Game
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