湯・つれづれ雑記録(旧20世紀ウラ・クラシック!)

※旧ブログの一部コラム・記事、全画像は移植していません。こちらのコンテンツとして残します。

ストラヴィンスキー:イタリア組曲(チェロのための)

2009年08月30日 | ストラヴィンスキー
ピアティゴルスキー(Vc)フォス(P)(RCA)

これは怪しい。チェロにしては高音域で、ストラヴィンスキー特有のトリッキーな動きが施されているから書法のせいでもあるのだけれど、ピアティゴルスキーをもってしても、誤魔化しや弾けていない部分、テンポが滞る部分、必要なところで音量が出ない部分が目立つ。このチェリストは技巧派だが中低音域での深い表現に魅力があり、高音域は無機質になりがちでもある。楽章によって出来にムラがあり、フォスのピアノがバランス的に強すぎると思う所もある。さすがのピアティゴルスキーも指がもつれる、これはストラヴィンスキーにあっていないのか、病気のせいか、らしくない。イタリア古典派に傾倒していたころの擬古典的作品だが、チェロにやらせるには音域幅を広く取りすぎる傾向が感じられ、古典を模していながらも少し流して書き直したような、とってつけたように「兵士」の頃のリズムやハーモニーや装飾的な動きが挿入されたり、そういったところも弾きづらくさせていると思われる。無印。
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フランセ:プーランクによる「楽しむための音楽」

2009年08月30日 | フランス
○作曲家指揮マインツ管楽アンサンブル(wergo)1987/1

「プーランクの息子」フランセによる軽妙な小品。プーランクのような妙な重みや毒は無く、モーツァルト的な、ストラヴィンスキーの香りを仄かに織り交ぜた作品で、まあ日曜の午前にはぴったりである。その場限りの楽しみといった要素は否定できないが、何の邪魔もせず、楽しめばいい、それだけのものである。○。
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ブゾーニ:小組曲op.23-4(チェロ編曲)

2009年08月29日 | その他ラテン諸国
○ピアティゴルスキー(Vc)フォス(P)(RCA)

小品だが、小品だからこそピアティゴルスキーの確かな表現が新古典主義音楽に反映され、黒艶光る渋い感傷をあたえるものとなっている。濁りの無い深い音色が邪魔しないルーカス・フォスの伴奏の上で思索的に響く姿は、この人ならブラームスでも透明に弾きこなすことができただろうと思わせる。なかなかの演奏。曲は音選びの新しい古典音楽といったふう。○。
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シベリウス:交響曲第5番

2009年08月29日 | シベリウス
○ベイヌム指揮ACO(RICHTHOFEN:CD-R)1957/6/17ヘルシンキ音楽祭LIVE・CD

はっきり言って雑。とくに1楽章のまとまらなさといったら、アマチュア楽団のようだ。ただ、ステレオでスケールの大きさを直感させる録音となっており、そのテンポ設定と響かせかたに雑然としてしまった要因を求めることもできようか。フォルムはしっかりしており打・ブラスは腰の据わった力強い表現をしっかりとっており、2楽章で弦楽器もようやく落ち着き、ややおざなりの世俗性はあるものの清潔で壮麗な盛り上がりが終楽章に築かれる。いい意味でも悪い意味でもベイヌムらしさはある演奏。おまけで○。
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オネゲル:交響曲第5番

2009年08月26日 | フランス
○マルケヴィッチ指揮RIAS交響楽団(audite)1952放送・CD

ミヨーのように終始「音響的」な分厚い弦楽器、緻密に蠢く抒情的な木管、咆哮するものの注意深く配置されたブラスが印象的な曲だが、これは逆にそういった理知的な面が際立ったために魅力の薄い演奏になっている、即ち磨き抜かれてはいるが余り共感というものを感じず、何が面白い曲なのかわからない。全般平板で起承転結がはっきりしないせいかもしれない。一瞬ミュンシュのオネゲルに似た雑な音の取りまとめ方、そのぶん力強さを感じるものの、場面場面の近視眼的な起伏も、大づかみの恣意的な音楽作りも足りず、何かセーブしているような出力の低い演奏に感じる。音質も比較的悪く、本来はそれほど濁らないオネゲルの音響が、わりと濁ったように聴こえてしまうのは録音の難しさでもあるが、マルケが取り組んだにしては厳しさが魅力に転化しない、相性の難しさを感じた。きちっとしている面評価で○。
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ブラームス:交響曲第1番~Ⅱ.

2009年08月26日 | ドイツ・オーストリア
○フリード指揮ベルリン国立歌劇場管弦楽団(serenade等)1924・CD

全曲あるのかどうか知らないが多分無いのだろう。このレーベル以前にもCDで出ていた気がするが目下手に入るのはこれだけだろう。演奏は纏綿とした魅力があるものの、テンポの揺れ、アゴーギグ、そういったところは思ったより露骨にはなっていない。メンゲルベルクが冷静になったような、音はロマンティックだが表現は割りと安定したもの。楽曲構成に加え録音が古いのでソロアンサンブルに聴こえてしまうのはご愛嬌だが、それでも不自然さはない。
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ラヴェル:ラ・ヴァルス

2009年08月26日 | ラヴェル
○ミュンシュ指揮ハンガリー国立管弦楽団(Aulide)1967/5/29live・CD

つんのめりながらどんどん気分アッチェルしていくミュンシュでも熱が上がりすぎたタイプの記録だが、そこが魅力と言い切ってしまえる迫力がある。面白いし、この曲の本来の姿はどうでもいい、マンネリな客観演奏を聴くくらいなら多少アマチュアっぽくても気合の入った演奏を聴いていたほうが血が騒ぐ、という人向け。オケが弱い。録音も。
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チャイコフスキー:イタリア奇想曲

2009年08月15日 | チャイコフスキー
○レオ・ブレッヒ指揮ベルリン国立歌劇場管弦楽団(PACD/Electrola他)1928/3/23

珍しい録音で、チャイコが模倣しようとしたラテン・イタリアのからっとした雰囲気がおのずと出ていて非常に聴きやすいのだが、余りにさらっとした揺れの無い表現は、オケのアンサンブル力の高さもあって、全く何も印象に遺さないまま終わってしまう。連綿と主題が数珠繋ぎになっていくだけの音楽はやはりそれぞれの主題の孕むケレン味をそれなりに印象付ける表現をとってくれないと、特に楽想が動き出す前と後の変化が調性的には大して感じ取れない場合、こうストレートにただインテンポで進められてしまうだけでは序奏がそのままフィナーレに突入してしまうようで置き去り感がある。引っかかりが無い演奏で、確かにわかりやすいが、確かに何かとのカップリング(抱き合わせ)で聴くくらいの演奏かもしれない。○にはしておく。
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チャイコフスキー:弦楽のためのセレナーデ~Ⅱ、Ⅳ

2009年08月15日 | チャイコフスキー
○レオ・ブレッヒ指揮ベルリン国立歌劇場管弦楽団(PACD/Electrola他)1929/3

これはいい。ワルツは何故か古い録音にいいものが多い気がするのは演奏家のせいか時代のせいか、実用音楽的側面が未だあった時代にあって弦セレ2楽章のSPだからけして実演と同じテンポだとは思わないがしかしこういう、微細な空気の綾が、どんなに古い音であっても骨太に伝わってくる。別に大仰というか表情の変化が豊かなわけではない、確かで太い音の流れを巧く制御している。終楽章はブレッヒらしく即物的でせかせかしたテンポで、これもまた運動性の表現として面白い。◎にしたい○。
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チャイコフスキー:交響曲第5番

2009年08月15日 | チャイコフスキー
○レオ・ブレッヒ指揮ベルリン国立歌劇場管弦楽団(PACD/Electrola他)1930/10

思いっきりアマチュアリスティックな、オールドスタイルの思うが侭。スタジオ録音なのにオケ崩壊なんて今なら考えられないところだが大曲録音自体珍しいこの頃にあっては許された、しかも決してオケが下手なのではなく指揮が即興的なのである。オケの内圧は高いから揃った部分は素晴らしい切れ味がある。そこにうまく耳を合わせられればこれほど面白いものはない、何か昔このような演奏をとても喜んで聴いていた気がして懐かしかった。きほんアレグロで、休符は須らく半分程度縮められ(本来初歩的な「怒られポイント」である)つんのめりながら爆走、緩徐主題ではデロデロ歌いこむがオケの音色からそれほどロマンティックな表現に聴こえない。SP録音ならではの異様なスピード、前時代的といってもリヒャルトやトスカニーニの香りを確実に嗅いだような即物的な表現も下手な耽溺を呼ばないのだ。ドライですらある、私はとても好きな表現である。終楽章は独自のカットが何箇所か入るがとにかく休符を休まないのであれあれと言う間に次のフレーズに進んでしまう。好悪はあれど、この時代の5番の演奏としてメンゲルベルクが頂点とすれば、そのスタイルに似た専制君主的計算の前提にありながらも、即興的に壊れてしまう「人間臭さ」が、二流を感じさせつつも、何とも言えずいい。割と中間楽章も面白いが、長々しい両端楽章を飽きさせないのがいい。この時代の権威者の見識として、○。以前国内盤CDで復刻されていたと思う。Pristineで丁寧にリマスタリングされ安価でデータ配信もされている。
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ドビュッシー:管弦楽のための夜想曲~Ⅰ、Ⅱ

2009年08月13日 | ドビュッシー
○カイルベルト指揮バンベルク交響楽団(hosanna:CD-R他)1958live

これが存外よくて、別にドビュッシーとしていいわけではなく、いかにもカイルベルトの構築的な姿がいいのだ。勘違い演奏と言って過言ではないのだけれども、ここにいろんなドイツ的な古い音楽の香りを嗅ぐことができたならきっと、ドビュッシーはその影響を受けているに違いない、そう感じさせるほどに板についている。旋律線がしっかり描かれ、中音域以下の響きがしっかり保たせられている、ドビュッシーでもこの曲ならそれは十分許容できる。何よりこれはけしてぶよぶよしていない。骨太であるが肉太ではない。レミントン盤のドビュッシー録音によくあったような、あの感じ・・・ライヴでもきちんとしている、N響と縁深かったのもさもありなんという部分もあり、いや、中欧のドビュッシーというのはこうでなくては。◎にしたい○。
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ラヴェル:バレエ音楽「ダフニスとクロエ」第2組曲

2009年08月13日 | ラヴェル
○マルケヴィッチ指揮RIAS交響楽団、合唱団(audite)1952・CD

ミュンシュ張りに愉悦的なリズム、合唱までつくのに曖昧さのない、厳しく律せられた音とアンサンブルでこの曲を両面から、即ち即物的な快楽主義と「ラヴェル的な」メカニズム指向の両方を備えた演奏に仕立てている。実に聴いていてストレスの無い演奏だが恐らく一般受けする芸風ではないのだろう、オケも一般受けするオケではない。戦後のRIAS好きなら垂唾の放送用スタジオ録音、渋い音、完ぺき主義の表れた、でも非常にいい演奏。合唱が出てくるとやっぱりぞくっとするなこの「朝」は。録音がこれでクリアならいいのだが、このレベルでは一般的に勧められる音とは言いがたいか。初出ではないと思うのだが・・・
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チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」

2009年08月07日 | チャイコフスキー
メンゲルベルク指揮パリ放送大管弦楽団(malibran)1944/1/20放送live・CD

メンゲルベルクの演奏様式は歌舞伎の型のようなものが決まっている。スコアそのものかどうかは知らないが、それをいかにオケが徹底できたかで評価が変わる。特に手兵との演奏や中欧での最盛期の録音が残る十八番であったチャイコにかんしては、新発掘と言われても難しいものがある。malibranが代理店を立てて本格的に発掘音源を売り込んできた背景は知らないが、今回のメンゲルベルク・シャンゼリゼ客演2組は一部既出であるもののフランクの交響曲を始めとしてマニアならびっくりするような「新発見」ものではある。しかし新発見は同時に状態の問題も孕むものである。偶然市場流出したアセテート原盤の劣化が激しく、骨董録音のように全般がノイジーであったりするならそうイコライズして聴けばいい話しなのだが、これは原盤の面ごとに状態が違いすぎる。オケ名も適当であるようだ。1楽章冒頭がけっこう重量感のある音でいいな、と思ったら第二主題で薄くてか細くてSPのような音質に物凄いノイズ・・・こういうのが3楽章の盛り上がりでもやってくる。断裂もあり、苦心して繋いだ様子が伺えるがとても勧められる状態ではない。演奏は冒頭にも書いたとおり難しい。メンゲルベルクの表現が徹底されていない感は拭えない。デルヴォーのように軽い響きは「らしくない」(それでもフランスオケにしては厳格な表現だが)バラケっぷりに裏打ちされ、オーボエなど深い音色にはっとさせられるも正直音質的にどうこう言える部分は少ない。司会者の長い説明に当時のフランスにおける一般的なチャイコフスキーの認知具合を知り、3楽章終わりアタッカ前で笑いながら拍手するおじさんを指揮棒の音で制するメンゲルベルクを愉しむ、そういったマニア向けの音源だろう。個人的には1楽章はなじめず、2楽章は印象なし、3楽章いまいち、4楽章は盛り上がった。メンゲルベルクを知らない人は楽しめるか。

gooブログはあいかわらずログアウト時間が短い。投稿ボタン押してのログイン表示、その後は投稿完了が普通だろ・・・全部消えてしまったので打ち直し、文章量半減しました。
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<追憶:20世紀ウラ・クラシック・ベスト> ディーリアス(英)交響詩「夏の歌」(1930)

2009年08月01日 | Weblog

 <追憶:20世紀ウラ・クラシック・ベスト>

ディーリアス(英)交響詩「夏の歌」(1930)

世紀末が流行ったとき、その時期を代表する作曲家としてピックアップされ、イギリスの作曲家で(ホルストを除くと)最も人気のあった黄昏の作曲家ディーリアス。半音階を駆使する分厚い書法は英国よりドイツで先に認められました。後年グレ・シュール・ロアンに住み、英国よりフランスと馴染み深いところもあり、グリーグに私淑していたことは知られていますが、作風的にはスクリャービンとドビュッシーの間というか、ワグナーのエコーも聞こえる印象派に属すると言うこともできるかもしれません。都会人ですが民謡を用い自然描写にすぐれ繊細な感覚を微細な響きの揺らぎと(郭公の鳴き声のような)描写的要素のミックスに反映させ独自の感傷的な世界を形づくっています。オペラからピアノ曲まで手掛けていますが、主戦場は交響詩にあったといえるでしょうか。その中でもこの作品は最晩年のもので、最盛期には複雑な構造を内包した思索的作品を得意としていたのが、単純に平易な旋律にワグナーふうの響きをつけたような、簡素な描写音楽として作られています。低弦の薄明の轟きからフルートの上昇音形とホルンの4音の遥かな対話にはじまり、長い序奏の中で明確な旋律を紡ぎだすことなく展開されてゆく朝の情景。絶妙の配合と起伏によって管弦楽が描くひろがりは、鳥達の囁きや草原のさざめき、農夫の欠伸、断片的なフレーズがいつのまにか一種の旋律構造を形成し、これが変奏の形をなしていることがわかる頃、別の民謡主題が加わってゆく。・・・農夫の口ずさむ歌。もうすでにディーリアスは視覚を失っており、自力で動くこともままならなかったので、若い作曲家フェンビーに苛烈に指示をし晩年の作品を仕上げていきました。したがってフェンビーの単純志向の如実に表れた、純粋にディーリアスの曲とは言い難く、ディーリアンにはさほど受けないのですが、英国の儚い夏について曲を何曲も書いているディーリアスが、最後にどのような風景を・・・開かない瞼の裏に見ていたのか、もう難しいことは考えなくてもただこの美しい田園に茜さす光景をメロディとハーモニーに落とせばいい、そういう境地にいたのではないかとも思わせます。あまりにストレートでかつ深く感傷的な作品はいろいろな憶測を生みやすいものですが、自筆と自認した最後の管弦楽作品として、バルビローリは非常な思い入れをもって歌い上げています。バルビローリの感傷は私たちの感傷として、クライマックスの哀しくも輝かしい慟哭をも、どうしようもなく込み上げる暖かい感動の中に、深く沈み込ませていきます。バルビローリはディーリアスの十字軍ビーチャムよりロマン派適性があり、なおかつ弦楽器に独特の歌謡的な歌いまわしを施し逸品とされた人です。残念ながら録音にはあまり頓着せずこの曲もおそらく途中で継いで作っているものですが、音はいいので最初に触れるのには適しています。1950年の旧録は覇気ある時代のもっと精力的なものです。unicornのフェンビーの録音は感情的でストレートですが、響きは純化されています。A.コリンズの演奏はディーリアスの和声に耳を傾けさせます。壮年期から変わらぬものは変わらない、これがディーリアスだと思わせます。解釈的には精力的なほうです。

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最終回<追憶:20世紀ウラ・クラシック・ベスト> シマノフスキ(ポーランド)協奏的交響曲(交響曲第4番)(1932)

2009年08月01日 | Weblog

シマノフスキ(ポーランド)協奏的交響曲(交響曲第4番)(1932)

シマノフスキは本質的には国際派の作曲家でしたが、時代に翻弄されてのちの最後の十年は民族主義音楽に捧げられています。それまでのモダンで西欧的な、一種現実逃避的な音楽から、ストラヴィンスキーの直接的影響のもと原始主義的リズムと民謡風メロディによる文字通り地に足の着いた曲を書き始め、タトラ山脈の一帯への民族舞踊や民謡の取材は複雑さを削ぎ落したリズミカルで平易な音楽への絶大な道標となりました。それでも漂う都会的な香りは冷えた響きと法悦性によるもの、すなわちそれまでのオーストリア的であったりドビュッシー的であったりしたころの蓄積の上に成り立っており、決して分裂的ではありません。ポーランド独立後、祖国のためにワルシャワへ転居し活躍したものの保守的な楽壇の反発を受け退き、遅まきながらピアニストとして身を立てようとして作曲されたのがこの事実上のピアノ協奏曲です。プロコフィエフやラヴェルなど新古典主義的なピアノ協奏曲が流行った時期でもあります。このあたりで経済的にも体調的にも状況が悪化し、ピアニストとしても結果を出せず結核で死亡しました。古い友人ルービンシュタインはこの曲を受領しレパートリーとしました。バルトーク同様に民族主義の野暮ったさがなく洒落ていて、明るく前向きで極めて演奏効果の高い作品ですが、オケへの負担もそれなりにある熟達した技術によるものです。シマノフスキは再評価され今はポーランドの国民的作曲家の一人となっています。

 

ポーランドの演奏家による録音がほとんどですが、レパートリーとしているピアニストも比較的おり、国外で演奏されることもあります。1,2楽章の自作自演実況録音が残っています。民族主義的な3楽章が入っていないのは惜しいですが、マズルカによる躍動感に満ちた曲をすでに演奏できなかったのかもしれません。ノイズも酷いですが演奏もたどたどしく、友人で擁護者の指揮者フィテルベルクの腕も疑われてしまいます。ただこの曲で繊細なタッチやニュアンス表現にこだわっている様子も伺え、直線的な演奏を想定していないことが想像されます。対しルービンシュタインは曖昧さを排し国民性に訴えることなくひたすら勢いとノリで真っすぐ弾き切ります。それは繊細な音色表現や細部の技巧を疎かにすることをも厭わないもので現代的な意味で問題はなくはないですが、ウォレンスタインの振った正規録音はそれでも最高の録音と言えると思います。残念ながらモノラルでこの曲の透明感あるカラーを引き出せているとは言えず、ライヴ録音では更にノイズに悩まされます。ロジンスキの炎の出るような指揮のもと息を合わせて更に荒っぽく弾ききる録音はノイズ耐性があるなら非常に楽しめるでしょう。アムランがカサドとベルリン・フィルでやったライヴがありますが、非ポーランド圏の演奏として希少なものですが、アムラン自身が独特の美学を持っていてルービンシュタインとは対極の曲の愛で方をしています。醒めた演奏にも向く曲だと思いますが、正規録音であればもっとバランスよく楽しめたでしょう。パレチュニーはこの曲をレパートリーとし録音も複数あります。セムコウとのものは力強くも技術的な問題を感じさせます。エルダーとのイギリスのライヴは1983年とポーランドが危機にあった時代の緊張感があります。張りきった鋭い金属質の音の交錯はシマノフスキならではで、張り裂けそうなアンサンブルは同曲の求めていたものかもしれません。このような曲でデフォルメするスタイルは好まれないのか、客席反応はそこまで激しくはありませんが(アムランはすごい)技術的破綻なくリズミカルに楽しめる最高の演奏だと思います。エキエルもこの曲をレパートリーとしています。ロヴィツキとの録音はパレチュニーよりさらにデフォルメの大きな演奏です。ロヴィツキは荒いです。スピードや技巧よりも中身で勝負、というところでしょうか。恐らく同じ組み合わせで1967年イギリス公演の非正規録音があります。民族性は希薄で非正規なりのものです。ロヴィツキはツムジンスキとも正規録音しています。録音が新しく、ファーストチョイスはこれではないでしょうか。響きが硬質で見通しが良く、この曲を立体的に楽しめます。テンポが固く前に向かわないのはセッションだからでしょう。やや荒くも男らしい演奏です。同じツムジンスキではmarcopoloが出した全集CDが一般認知される最初の録音だったのではないでしょうか。スティリアとのセッション録音です。音は澄み切っていますが今聴くと遅くて固い感じもします。クピエクとコルドのものは生硬でした。ブロヤ(P)ヴィト指揮ワルシャワ・フィルの映像があります。映像としてはyoutubeの非正規を含めて最も見ごたえがあるものです。折り目正しいスタイルです。ブロヤ&ヴィトにはnaxosに全集録音収録のものもあります。最後にゲルギエフの全集、マツエフとのもの。こちらもロシア系ということでは東側というくくりになりますが、現代なので力で押し通すスタイルではなく解釈し整えた感があります。SACDなのが売りでしょう。

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