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徒然草 第七十段

2005-09-30 20:24:56 | 徒然草
元応の清暑堂の御遊に、玄上は失せにし比、菊亭大臣、牧場を弾じ給ひけるに、座に著きて、先づ柱を探られたりければ、一つ落ちにけり。御懐にそくひを持ち給ひたるにて付けられにければ、神供の参る程によく干て、事故なかりけり。
 いかなる意趣かありけん。物見ける衣被の、寄りて、放ちて、もとのやうに置きたりけるとぞ。

<口語訳>
 (『元応』とは『元応天皇』の事だと思う。たぶん現代人が裕仁天皇を昭和天皇と言うのと同じノリ。元応という年号に在位していた天皇陛下の事を指していると思われる。だから『元応』とは後醍醐天皇のことで、その即位のお祝い会の席での出来事が、この段のメインなお話なのだ)
 元応の清暑堂での御遊会で、玄上(琵琶の名器)は失せた頃、菊亭大臣(きくていのおとど)、牧馬(琵琶の名器)を弾かれますので、座に着いて、まず柱(琵琶の弦の支柱)を探られたりしますれば、一つ(柱が)落ちました。ふところにノリを持っていらっしゃったので付けらましたらば、神への供え物が参る間によく乾いて、事故なかった。
 いかなる意趣があったか。見物していた衣を被った者、(琵琶に)寄って、(柱を)
放して、もとのように置いたりしたんだと。

<意訳>
 後醍醐天皇即位の前祝いの席上で、菊亭大臣が琵琶を弾く事となりました。
 琵琶の名器と名高い「玄上」はこの時には盗難にあっていましたので、同じく名器と名高い「牧場」が演奏会で使用される事となりました。
 さて当日。少しばかり早く演奏の座についた菊亭大臣は、まず、琵琶の確認をしてみました。するとどういうわけか触れただけで琵琶の弦の支柱が一つ落ちてしまいました。しかし、ふところにノリを用意していましたので、それでつけられ、儀式の進行を待つ間にすっかりノリは乾いたので、事故には至りませんでした。
 いかなる恨みがあっあたのか、見物していた衣をかぶった女が、琵琶に寄り、支柱をひきちぎり、もとのように戻しておいたんだという噂も聞きました。

<感想>
 並の名人の話しだ。
 今で言うなら、例えば小泉さんが、すげー琵琶の名手だったとして、天皇の即位の席で、自慢の琵琶の腕を、国宝級の琵琶で、披露するになった。というかんじだろうか。
 どんなに腕に自身があっても、国宝級の琵琶の演奏ともなれば緊張する。まして、一度も触った事がない楽器だ。どんな音が出るのかすらわからない。
 当然、ふところの中は、ノリだけでなく、琵琶の調整用具で満載だ。そんでもって、少しばかり早く演奏の座につき、琵琶を確認してみたら、案の定に不都合がある。あわてて楽器を直して、難なく収める。これって、以外と二流のふるまいなのである。
 真の名人なら、開演三分前に自前の楽器をかついで、ノコノコ地下鉄で現れる。そして開演前の数分で、楽器の不都合を発見。腕でカバーできる不都合なら、腕でカバーし、無理なら主催者に「無理」と言う。
 「この楽器は腕でごまかせないほど壊れている。俺が普段に使っちょる楽器なら、今日も背負って来た。こいつでいいなら演奏するが、どうしても予定の楽器じゃなきゃ駄目なら、俺にゃ無理だ。他の人をあたってくれ」
 と、開演三分前にダダをこねる。これが、すごい迷惑だが、真の名人ってもんだ。たぶんだけどね。

原作 兼好法師


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