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墨汁日記

墨汁Aイッテキ!公式ブログ

平成マシンガンズを読んで 279 ガソガソくん

2007-03-09 03:55:06 | 

 コンビニの前に置いてあるゴミ箱に身をひそめて隠れているこうさぎのおいし。おいしはガラスごしにマダムの動きをじっと見つめていた。
 とても低い視点。
 人間だったら、這いつくばりでもしない限り得られる事もないような、とても低い視点。その視点から見る世界は見上げるばかりの建物の群れと、その建物の片隅から覗くはるかかなたの空、そして燃えるアスファルト。
 おいしの耳は人間の何倍も敏感だ。
 人達の怒鳴り声、機械のきしむ音、腹をすかせたカラス達の鳴き声にストレスからヤケクソ気味に吠えている犬の鳴き声。夏の風物詩のようなセミの声にまじりクーラーの室外機が秋の虫のようなリーンリーンと言う振動をあげている。
 いやでも不安を増幅させる街の喧噪。

 マダムの召還で来たけど、いやだこの街は怖いよ。
 早く仲間達のいた元の世界に帰りたい。
 おいしはそう思う。

 犬が鼻をうごめかす音が聞こえる。足並みがわずかに狂った。犬が自分の存在に気がついたらしい。並走している人間のスニーカーの音も聞こえるから人間とお散歩している飼い犬であろうけれど、いつ手綱を振り払い自分に牙を剥いてくるかも分からない。もうこの場所も安全ではない。
 怖い、怖いよ。

 マダム助けて。
 怖い。
 マダム早く帰ってきて!

 おいしは店内のマダムの様子に目をやると、マダムは呑気にレジに並んでいた。おいしの目から見るとマダムはとてつもなく呑気で腹が立つぐらい。怖いもんなんかないよって顔してる。やっと、レジでお会計。若い店員とお話している。

「店員さんよぉ、きれいなお姉さんにオマケしたいとは思わないのかね!」

 マダムはコンビニの店員に『コンビニで値切らないで下さい』と注意されている。変な女だなとおいしは思う。

 お金を払っておつりをもらっているが、まだ安心はできない。マダムの事だからおいしの事なんか忘れて裏口から帰りそうだ。マダムは何をするか分からないので油断のできない女なのだ。

 会計をすませたマダムは自動ドアのある出入り口の方を目指して歩いてきた。とうとう戻ってきた。

 グァー!

 自動ドアが軽い濁音をあげながら開く。マダムが出てきた。
 おいしはつい嬉しくなって後ろ足で飛び跳ねたら、たちまちマダムの胸までジャンプしていた。マダムはレジ袋を落とさないようにしながらも、両手でおいしを受けとめ笑いながら言う。

「なんだよ。クソ暑いんだから抱きつくなよ。ただでさえお前は毛だらけで暑苦しんだから。けっこう毛だらけネコ灰だらけで私ゃアセモだよ!」

 マダムの言う言葉はほとんど意味不明だ。たぶん、その場の雰囲気とかノリで話しているだけで言葉に意味はないのだろう。

「買ったよ。ガソガソくんのキャロット味!
 だいだいでオレンジなガソガソくん!
 ニンジン風味!
 地域限定販売のレアだよ!」

 マダムは限定販売のガソガソくんを買った事に興奮して鼻息が荒い。本当に変な女だ。


平成マシンガンズを読んで 278 自分が改造される悔しさ

2007-03-07 20:42:26 | 

「全ての子供には輝ける無限の可能性がある。子供は全てピーターパンで、念じるなら空さえ飛べるだろう。
 それを潰すのが大人や社会である。大人は無意識のうちに子供を自分と同じ大人にしようともくろむ。
 大人が子供に語る事なんて自分の自慢話か説教ぐらい。
 ようするに、全ての大人は、全ての子供を、自分と同じような大人にしようともくろむ大人である。子供が大人以外の人間に成長しないように、必死で教育という名のもとにおいて子供の可能性をはぎ取る。そして、下らない大人の枠に子供を閉じ込める」

 言葉はようやく聞き取れるが、電車の雑音に紛れて考えがまとまらない。死神が何を言いたいのか解らない。
 だが、私ら子供の味方気取りでありつつも、子供である私を操ろうとしていることだけはなんとなく解る。
 やはり、死神は私の敵であるようだ。

「私は復讐はしないよ」

「子供である事をはぎ取られる喪失感。
 自分がよってたかって大人に改造されていく悔しさ。
 そして大人になってみて、大人の下らなさ。
 望んでもいない大人に無理矢理にされる疑問と怒り。
 可能性という翼はもぎ取られ子供は自分の望んでもいなかった者にしかさせてもらえない。それは、共同体の一個の歯車!
 部品にされる恐怖。
 なりきれば安堵であるが、なりきれなけなければ不安しかない。いつすり潰れて交換されるとも知れない歯車である自分。
 いけいけまわせまわせの勢いがある時なら疑問もなく歯車になりきれるだろうが、回して意味があるのかないのか分かんないような世の中の歯車になりきるのはイヤだ。
 大人に改造されていくしかない子供達の復讐が、子供達の復讐だ!」


平成マシンガンズを読んで 277 オモチャで人は死なない

2007-03-05 00:33:40 | 

 ギシギシギシ。

 中央線の車内は金属のきしむ音と走行音に満ちていて、低い声でボソボソと話す死神の声は聞き取りにくい。
 左側に座っているおじさんと右側に座っているおじさんのにおいが中間に座っている私の鼻で微妙に混ざる。
 雑音の中、かすかにとどく死神の言葉、おじさん達の体温、目の前をふさぐ死神、私の手にあるのはオモチャのマシンガン。
 なんとなく理不尽な非現実的な体験。
 不愉快な感じがするのは、私が人ごみが嫌いなせいだろうか。
 イヤだなとただ思う。
 伏し目がちな私の目には死神のジーパンのみが目に入る。
 股間に目が行き、ふと中学生らしくない考えが頭に浮かび、自分が恥ずかしくなりもっと目をふせると私の視界にはスカートの上に置いた左手でにぎるオモチャのマシンガン。
 ただただ、自分もおじさんも死神も電車もイヤだなとだけ思う。

 人々の体温で車内には熱気がこもる。

 死神が言う。

「そのマシンガンで全ての現実を打ち抜いてやれ。なにもかもだ。あんたにならそれが出来る。
 その責任は俺がとるし、罪を問う事は誰にもできない。
 見ろ、そのマシンガンは誰がどう見てもただのおもちゃで、弾丸が出る構造は少しもない。
 中国拳法でいう『気』って知ってるだろ?
 そのマシンガンは気を一点に増幅・集中して発射する装置だ。カメハメ波や波動拳みたいなもんであり、そういうもんを現代のふつうの科学は実証できていない。科学で実証できないものは裁判の証拠にならない。
 そのマシンガンで何人殺そうと、罪には問われない。
 オモチャで人が殺せるはずないしな。
 たとえ、テレビで放映されようとも、そのオモチャのマシンガンで人が死ぬはずはない。ただ、それだけの事で、何人殺そうとも司法はあんたを裁けない。
 被害者の遺族や、警察にマスコミといっためんどうな事には俺が対処するし、最後までアフターケアしてみせる。あんたになるべく迷惑かけないし、うまくいきゃ夏休み明けには普通に登校しているはずだ。
 さて、どうだろうか、復讐をしてはくれないだろうか?」


平成マシンガンズを読んで 276 マダム入店

2007-03-03 20:28:29 | 

「じゃぁ、アイス買ってくる!」

 そう言ってマダムはすぐ近くのコンビニに入ろうとした。
 こうさぎのおいしはマダムに追いすがる。

 フルフル。

「えっ?
 一緒に来るって?
 駄目だよ。ここにペット禁止って書いてあるだろ。
 盲導犬以外の『動物』は入店できないんだよ。
 おいしは盲導犬かい?」

 ううん。
 おいしは盲導犬じゃない。こうさぎだ。

「なら、ここにいな。決まりは決まりだ。決まりは守る為にある」

 マダムはそう言ってコンビニの店内に消えた。

 マダムが消えたとたんにおいしは恐怖に襲われる。
 野良猫、カラス、道ゆく人達。いつ、自分に牙を剥き襲いかかるかもしれない脅威の存在。そして、ウサギの耳には耐えられないほどの街の雑踏。
 おいしは身を小さくして、物陰に隠れる。

 うさぎはひどく臆病な生き物だ。
 ただマダムの帰りを願う。


平成マシンガンズを読んで 275 責任

2007-03-03 20:09:58 | 

 周囲の乗客の耳を気にしながら死神はボソボソと話しだした。

「復讐の責任は全て俺がとる。
 嘘じゃない。
 復讐後の全てのやっかいは俺が引き受ける。
 ただ復讐さえ決行してくれれば良い。
 引き金を引くだけで良い。
 後は俺がなんとかする。
 俺の人生をかけよう。
 嘘じゃない。
 本気でそう思っている!」

 ガタンゴトン!

 電車は走る。