通勤のため毎朝のように国分寺駅で中央線から西武線に乗り換える。
中央線の車両はギシギシとそのオレンジ色の車体を軋ませながら、まだ日も昇らぬ街を東へ向け速度をあげながら快走する。何故なら快速電車だからだ。
ところで、中央線の快速電車をなめてもらっては困る。なんと、八王子から新宿まではほぼ各駅停車の旅が楽しめるのだ。だからと言って、何が快速なんだかとか突っ込んじゃいけない。それが、中央線沿線に住む人の中央線に対するマナーである。
ギシ・ギシ・ギシ!!
車内はおそろしい程の騒音で車内アナウンスさえ聞き取れない。
と言うより、中央線の車掌は皆それぞれが独特の節がついたアナウンスをするので、そもそも何を言っているのかが分からない。
やがて、電車は国分寺駅に到着した。
車内の自動扉がいっせいに開くと、俺の目の前には連絡通路に続く階段があらわれる。いわゆるこれがベスト・ポジション。これは電車通勤する者にとっては基本中の基本の技。電車で通勤する者がまずマスターすべき技であろう。降りる駅の階段の位置を見据えての乗車。実に些細で下らない事のように思われるかもしれないが、こんな些細な小技で会社に遅刻しないですんでいる電車通勤者は多い。
中央線においては、常に数十秒だが到着時間に誤差がある。
ホームや階段を走らなきゃいけない日と、走る必要がない日がある。
ここで問題としているのは、西武線へのすみやかな乗り換えであるので、西武線側の問題は考えない事にする。と言うより、常に遅れるのは中央線の方で西武線はほとんど定時に出発する。
しかし、今朝は休日ダイヤなので、乗り換えに数分の余裕がある。
ちんたら歩いて西武線のホームへ向かうと、やっと黄色い西武線の車両が線路の向こうに姿をあらわしたところだった。
到着した西武線から何人もの人間が吐き出される。
早朝の中央線に乗る人間は帰宅する者と今から出かける者が半々くらいだが、小平や東村山などの住宅街から西武線に乗ってやって来る人達は、ほとんど今からどこかへいく人だ。その中に、幾人かコロコロ付きのカバンを引きずりながらガラガラ歩いてくる旅行者の姿を見かける。もう、正月休みも終わりだってのに今さら何処へ出かけるつもりだろうか。
西武線に乗り込んで、ガラガラに空いた車内で適当に席に着く。
扉が閉まり、西武線は発進する。
ガタン・ゴトン。
電車が走り出し加速をはじめる間際。
ふと、まだ暗い車外の光景に目をやると、国分寺駅すぐ前にある洒落た美容院の店内に明かりが灯っている。
照明に照らされた店内には3人の人間。
てるてる坊主みたいされた客が、2人の店員に髪を結ってもらっている。
まだ、6時にもなってないのに。正気かこの美容院とか思ったが、今日は『成人の日』だったな。多分、成人式の髪結いだ。こんな早朝からやらないと間に合わないぐらいに予約が一杯なのだろう。
気合い入ってんなぁーと感心した。