絶版プラモデルやじ馬考古学・ボックスアート美術館(なつかしき50~60年代アメリカプラモの世界)

古き良き時代の絶版プラモを発掘する、インターネット考古学。現在、・ボックスアート美術館にてエレール特別展を開催中!

特別講座:偉大なるアーティストJack Leynnwood先生

2008年09月19日 | プラモデル

やじ馬考古学 
                                                           


「オモロー!」

前回やったシーマスターの続きです。



キットはとてもシンプル。インストもパーツも、いたって簡単。
でも、シーマスターの雰囲気はよく出ています。
デスクトップモデルと割り切ってしまえば、なかなかの出来です。

デカールには、海神ポセイドンの王冠と三つ又のモリをデザインした
マークが付属。いかにも海軍機らしくて、いいですね。



海面の波をイメージしたスタンドが、ちょっとオモロイ。
でも、安定がよくないんですよね。
もっと台座が大きいスタンドが、ほしいゾ。


40度の後退翼を、見てください。
飛行艇というと、鈍足・鈍重のイメージがありますが、このシーマスターは
従来の飛行艇の概念を打ち破る、画期的なデザインだったことがわかります。
エンジンも海水の流入を防ぐため、主翼上面に配置されるなど特徴的です。
結局、制式採用されなかったシーマスターですが、高速ジェット飛行艇という
インパクトのあるスタイルは、いま見ても古さを感じさせまん。

当時としてはきわめて当たり前だった、パッケージの大きさにプラモデルの
スケールを合わせる方法で作られているので、スケールはハンパですが、
手頃な大きさで、いいですね。

オマケ 
ホンモノのシーマスターです。
ネイビーブルーの塗装は、ガルグレー塗装とは
また印象が違いますね。
重厚で、なんだか威圧感があります。

ブックマークに、シーマスターの映像を用意しました。
興味のある方は、どうぞご覧ください。


出典:フリー百科事典『ウィキペディァ(Wikipedia)』
    P6M(航空機)



もうひとつの特別講座
                                                           


おまっとさまでした。

オレのお師匠さまの話だゼ。
しっかり読みな。

偉大なるLeynnwood先生

優秀なアーティストは、実に多才です。
あのレオナルド・ダ・ヴィンチは、芸術家であり、建築家であり、航空工学者であり、
解剖学者であり、ロボット工学者であり、音楽家であり、etc、etc、とにかく多くの
方面に優れた才能を発揮していました。

Leynnwood先生も、これまたしかり。

1921年(大正10年)、カリフォルニア州の生まれ。
子どものころは、ハリウッド映画に子役として出演(ちょい役だったらしい)。
また、当時としては珍しい(今でも同じかな)子どものサックス奏者として
アメリカ中西部を中心に、演奏旅行を行っていました。

十代の頃から大空に関心をもち、第二次大戦のときはアリゾナ州ルカフィールドの
陸軍航空隊戦闘機パイロットとして、猛訓練の日々に明け暮れていたというのです
から、メチャすごい!

…戦闘機パイロットですか!
そういえば、先生が描いた航空機のイラストは、どれもみんな生き生きとしていまし
た。理由がわかりましたよ。

戦後は、イラストで身を立てることを決心し、復員者援護法によりロサンゼルスの
アートセンターカレッジに入学。商業イラストレーションの勉強を、本格的に開始。
先生の最初のお客さんは、ノースロップ。
そうです、あの航空機メーカーのノースロップだったんですね。

その後、レベル社のボックスアートを担当し、約30年間まさに『レベル社の看板』
として活躍したのは、皆さんご存じですよね。
このレベル社での実績もあって(…と私が勝手に判断していますが)、アメリカ空軍
の広報用イラストも描いていました。

1999年(平成11年)逝去……この事実は、つい最近知りました。

ここ10年くらい、先生の新作を見ないなァーと思っていたのですが、残念ですね。


私が、プラモデルボックアート評論家(?)になったのも、じつは先生の作品の影響が
大きかったのです。
前回のブログでも書きましたが、先生の作品はとても衝撃的なものでした。
大胆な構図、都会的な洗練されたタッチ、そして粋でスマートな雰囲気をもった
ボックスアートは、商業イラストレーションを超越するような素晴らしさがありました。

Leynnwood先生、永遠なれ!

解説:ボックスアートを解剖する

はじめに

どんなボックスアートでも、短いながらもテーマとストーリーが封じ込められています。
これを自分の直感で、楽しんでいきましょう。難しい理屈は不要です。
これから書く内容は、私の勝手な解釈です。
学会の定説めいたものではありませんから、どうぞお気軽に!

先生の傑作を2点。
ひとつは、近代化改装前の空母コーラルシー。



ボックスアートを、パーツに分解してみると……


このボックスアートのテーマは、「陽の光と影」です。

A、これが、ボックアートストーリーの起点になります。
  山陰に沈む夕陽。このまぶしさを感じさせる技法に、感嘆の声をあげざるを
  得ません。

B、夕陽を反射する海面。その反射の光が、一直線に甲板上の艦載機を照ら
  します。注目すべき主役の暗示が描かれています。

C、夕陽の光で浮かび上がる艦載機群。
  主役が空母であれば、艦載機はなんとなくワキ役。
  しかし、光がスポットライトの役割をはたしており、艦載機が準主役の扱いに
  なっているのは、やはりヒコーキに対する先生の思いやり?

D、こちらは、艦影で暗くなった海面に、ゆっくりと航行する空母の白波が映えます。
  このゆったり感をイメージする白波を強調するため、あえて影の部分を作り出し
  たのでしょう。

E、夕陽を照らす雲。ここが、ボックアートの終点です。
  真夏の夕暮れに、このような雲を見かけませんか。
  なんとなくホッとするような、そして南国をイメージするような気だるさが、シッカリ
  と描かれています。

AからEまで、順番に眺めることによって、下記のイメージを持つことになります。

山の向こう側に沈む太陽。

日没の陽の光が海面に反射して、キラキラと輝く。
何となく心を落ち着かせるような、ホッとした雰囲気にさせるところがいいですね。
長い任務を終え、ようやく母港に戻ることができた空母コーラルシー。
見慣れた山影が、空母を歓迎しています。
明日は、いよいよ上陸できるぞ…乗組員のそんな雰囲気が、伝わってきそうです。

このボックスアートは、本来であれば主役は空母コーラルシーそのものなのでしょう
が、実際のところ「日没の陽の光」と「陽の光で輝く海面」がメインになっており、
ボックスアートを見た瞬間、どうしてもそちらに目がいってしまいます。
この「光と輝き」の表現は、まさに神技的であり、イラストでありながら、本物の陽の
光のような眩しさを感じてしまいます。

ボックスアート左上部分の、夕焼け雲の再現も素晴らしく、ある夏の日の夕暮れ風
イメージをかもしだすのに成功しています。

絵のイメージから、当初ハワイ周辺の海域を描いたものと思っていましたが、
近代化改装を行う前のコーラルシーは、アメリカ海軍の第6艦隊に所属しており、
主として地中海周辺で活動していたそうなので、ジブラルタル海峡あたりをイメージ
して描かれたのかな、という気がします。

1964年からは、第7艦隊に所属。ベトナム戦争に参加、艦載機による
北ベトナム(当時)爆撃を行いました。


もうひとつの傑作、スピットファイアー。


こちらも、パーツに分解してみましょう。


テーマは、「大空、死闘、そして勝利への予感」です。

A、全速で逃げる敵機。これが、ボックスアートストーリーの起点です。
  どうやら、ドイツ側は形勢不利のようで、下手をすると撃墜されそうです。
  うまく逃げ切れるか。そんなハラハラドキドキの、緊迫した雰囲気が漂います。
  
B、反転、追撃するスピットファイアー。
  手前のスピットファイアーより、スピード感があると思いませんか。
  エサに食らいつくサメのように、戦闘機の俊敏さとどう猛さが、うまく表現されて
  います。「必ず撃墜してやる」、パイロットの燃えるような闘志が、伝わってきそう
  です。
  
C、大空に幾重にも描かれた飛行機雲。 
  敵味方双方の空中戦が、大規模で、かつ激しいことが予感できます。

D、塗装のはげ具合から、多くの戦闘をくぐり抜けた歴戦の戦闘機であることが
  わかります。おそらくベテランパイロットが、搭乗しているのでしょう。
  今日の戦いも、勝利をおさめるでしょう。勝利の予感がします。

ところで…これら2機のスピットファイアーの後方に、1機でいいですから
襲いかかる敵機の姿を描いてみたとしましょう。
もう、これは完全なる『敗北の予感』ですね。

ヤッパ、この絵はイギリスが勝利した「バトル・オブ・ブリテン」でなければ、
お客さんは納得しないでしょう。
ドイツ側は、斬られ役です。

これは、まさに映画『空軍大戦略』そのものの世界です!
大空に大きく描かれた飛行機雲。
そのいくつもの円形の輪が、戦闘機同士の空中戦であることを示しています。
ドイツ・イギリス両軍の戦闘機の大群が入り乱れて戦い、その勝敗の行方は‥‥
バトル オブ ブリテンを象徴するイメージが、このボックスアートの隅々に
余すところなく描かれています。

このスピットファイアに限らず、先生が航空機を描くと元パイロットの血が騒ぐらしく、
艦船や陸モノとは異なるインパクトのある作品ができあがります。
おそらくパイロット時代に体感したエンジン音、機体の振動、空気の流れ、
身体にかかるG、排気ガスの臭い、外界の温度などなど、飛行に関する
あらゆる体験が、イラストに凝縮されているのでしょう。

ボックスアートの使命は、お客さんに商品(プラモデル)を買ってもらうため、
いかに多くのイマジネーションを、提供できるかが勝負となります。
まして、シュリンクパックの状態で、中身を見ることができない外国プラモの場合
なおさらです。
ボックスアートの善し悪しで、売り上げに差が出るのであれば、当然メーカーも
一流の作品をめざして、一流のアーティストにどんどん発注していくのも、
これまた自然の流れというものでしょう。

その意味で、先生が活躍した1960年代は、素晴らしいボックスアートの黄金時代と
いうことができます。



次回のチラリズム

                                                           

次回は、観測ロケット「エアロビー」を取り上げます。
アメリカ初期の観測ロケットは、ドイツから手に入れたV2だったのですが、
これらを使い切ってしまったので、あらたに開発したのがエアロビーなのです。
私が子どもの頃見た宇宙開発関係の書籍には、このエアロビーがよく紹介され
ていたので、なつかしい思いがあります。

ところで、エアロビーの画像が出ませんね。
……?





「オイッ、エアロビーの画像はどうした」


「まっ、待ってくれ。
 オレは何も聞いていないんだ
 エアロビーのことは、ホントに何も知らないんだ」


 
「馬鹿野郎!
 気を利かせろ、俺の顔にドロを塗りやがって」

☆!★! 

そんな訳で……
次回は、高層大気観測ロケットのエアロビーハイを取り上げます。


なんともレトロなボックスアートですね。
古き良きアメリカ的雰囲気が、エエなあー!