絶版プラモデルやじ馬考古学・ボックスアート美術館(なつかしき50~60年代アメリカプラモの世界)

古き良き時代の絶版プラモを発掘する、インターネット考古学。現在、・ボックスアート美術館にてエレール特別展を開催中!

特別講座  有名芸術家シリーズで、ボックスアートは磨かれた

2008年08月28日 | プラモデル

                                                                        
やじ馬考古学
                                                                        

ようこそ、皆さん。
調子はどうだい?
お師匠さまのアートを、トクと見てくれよナ。

特別講座

 『有名芸術家シリーズで、ボックスアートは磨かれた』



グワーン! ‥‥そんな轟音が、聞こえてきそうです。
洋上を航行する船舶を背景に、高速で飛行するシーマスターの勇姿。
全面ガルグレーの塗装が、いかにも新鮮です。
右翼先端のフロートが、陽の光に反射しています。
オヤ?何か投下していますね。
救難用キットが入ったコンテナなのでしょうか。
もしそうなら、あの船舶は今、危機的状況なのでしょうか。
それとも、船舶を追跡する国籍不明の潜水艦に対して、爆雷を投下
したのでしょうか。場面を、いろいろ想像するだけでも、ワクワクしそうです。

このキットを手に入れて、レベル社の素晴らしいボックスアートの多くが
Leynnwood先生の作品だとわかりました。
それまで、とても気に入ったボックスアートの多くに、共通するサインが
書き込まれていましたが、チョッと判読不明なところがあり、正確な氏名が
わからなかったのです。
彼の作品は、当時日本のボックスアートを見慣れていた私にとって、
衝撃的なものでした。
航空機のスピード感、鮮やかな色彩、都会的なスマートさ、そして
ダイナミックな構図、洗練されたタッチ、どれを見ても素晴らしいもので
豊かな国アメリカを実感したものです。
 

 何と!ボックスアートにタイトルがつけられています。
『GUARDING THE PACIFIC 』‥「太平洋の護り」‥そんな意味でしょうか。
その下にはJack Leynnwood先生が、レベル社のために特別に描いてくれた
という文が添えられています。
タミヤが初代パンサー戦車を発売するときに、ボックスアートの制作を
小松崎茂画伯にお願いして、特別に描いてもらったエピソードを思い出しました。
レベル社もこのシリーズの力の入れようがわかります。

このシリーズは、もともとレベル社が1950年代に発売していたアメリカ海軍機の
キットの中から12種類を選んだもので、1961年『Famous Aircraft Series』として
発売され、途中から名称が『Famous Artist Series』に変更されました。
アイテムは下記の通りです。※( )内は、最初にリリースされた年。

H-167 F8U-1クルセーダー (1957)
H-168 F9F-8クーガー (1954)
H-169 F11F-1ブルーエンゼルスタイガー (1957)
H-170 P2V-7ネプチューン (1957)
H-171 F7U-3カットラス (1954)
H-172 シコルスキーHO4S-1 (1954)
H-174  ロッキードWV-2 ラドーム (1958)
H-175 マーチンPBM-5 マリナー (1958)
H-176 マーチンP6Mシーマスター (1957)
H-177 ダグラスA3D スカイウォー リア (1957)
H-178  コンベアR3Y-2 トレードウインド (1957)
H-179 A4D スカイホーク (1959)
 
ボックスサイドの素晴らしきイラスト群。
シーマスターのキットを初めて手に入れたとき、これらのイラストを
ドキドキしながら眺めたものです。

 
H-179 A4D スカイホーク
Bart Doe作
ブルパップミサイルをズドンと発射するスカイホーク。
機体のガルグレーと背景のオーシャンブルーのコントラストが
いいですね。

 
H-175 マーチンPBM-5 マリナー
George Akimoto(日系人?)作
火災をイメージさせる背景が印象的。
そこに浮かび上がるようなマリナーの姿は、なんとも
不気味。死神的な凄さが演出されています。
でも、飛行艇の爆撃で、これだけの大火災が発生する
ということは、いったい何機で攻撃したのでしょうか?

 
H-178  コンベアR3Y-2 トレードウインド
Ken Smith作
モーレツな水しぶきを上げながら、着水するトレードウインド。このダイナミックな
構図がいいですね。
当時、このイラストを見てトレードウィンドの存在を知りました。
このイラストではちょっとわかりにくいですが、後方で接岸したトレードウインドの
機首部分をパックリ開けて、兵士を上陸させている様子が描かれており、本機の
特異性がわかって感心したものです。 

 
H-174  ロッキードWV-2 ラドーム
Al White作
このアングルで見たラドームが、いちばん美しい!
後方には海と艦船、山々が描かれ奥行きの広がりを
感じさせます。
銭湯の壁に描かれた風景画的雰囲気があって、心が
落ち着きます。
ただ、この絵は小さいのでわかりにくいですが、
実際は小雨が降っているシーンなんですよ。


H-177 ダグラスA3D スカイウォー リア
Chuck Coppock作
何となく異様な空模様。
核戦争でも勃発したのでしょうか。
この時代、米ソの対立は一層激化しているので、
それを反映しているのでしょうか。 
背景の中央あたりに、キノコ雲がモクモクあがっている
ところを描いたら、それはもうメチャ恐い絵になりますよ、ホント。
 
この色鮮やかなボックスアートは、それまでのレベル社のものと比較して、
非常に洗練されており、新しい時代を感じさせました。
Jack Leynnwood先生やJohn Steel先生の優れた作品が、多く出てきたのも
この時期で、まさにボックスアートの黄金時代といっても、過言ではありません。 

 
H-172 シコルスキーHO4S-1
Jack Leynnwood作
下のP2V-7 、そしてF9F-8クーガーと見比べて下さい。
何か共通するところがありませんか。
そうです。
手前に人物を大きく描き、その後方に主役の航空機を描き、
さらに背景を描くことで、効果的な遠近感や奥行きを出すことに
成功しています。この方法は、当時アメリカのボックスアートでは
比較的多く採用された手法です。
ところで、このキットは古いながらもよく出来ていて、グンゼレベル時代
陸自仕様のものを作りましたが、子供心にもスゲーッ!と思いました。

 
H-171 F7U-3カットラス
Chuck Coppock作
ヤッパ、カットラスといえば風防がボコッとふくらんだU-3タイプが
一番カットラスらしくて、メチャいいですね 

 
H-170 P2V-7ネプチューン
Jack Leynnwood作
手前に大きく描かれた除雪車と人物。
その後方は、主役のP2V。さらに、その後方は大きな雪山。
これも、当時の典型的な手法で、3種類の異なる距離感をもった
対象を描くことによって、絵の奥行きを効果的に出そうとしています。
シリーズ中Leynnwood先生は、同じ構図の作品をふたつ描いているのが
興味深いですね。 

 
H-169 F11F-1ブルーエンゼルスタイガー
Don Wilson作
このスピード感がいいですね。
機体をこのアングルから描くというのは、ちょっと珍しいですが、
アクロバット飛行をイメージさせる大胆な構図がGood! 

 
H-167 F8U-1クルセーダー 
George Akimoto作
黒雲の後方には晴れ間があり、雲と青空のコントラストが
美しい。黒雲を描くことで、背景に奥行きと立体感を与え、
きわめて印象的。 

 
H-168 F9F-8クーガー
Bart Doe作
手前にクルーを大きく描くなど、HO4SやP2V-7と同じ手法で制作されています。
このクルーのおかげで、緊迫感のある着艦シーンが再現されていて、
メチャいいなァ。


ところで、まん中のタロスをご覧ください。
これは、Leynnwood先生初期の作品なのですが、シーマスターやHO4S、P2V-7の
ものと比較すると、明らかに絵の洗練度が違います。筆のタッチも少し荒さが目立ち
ます。タロスのリリースが1958年ですから、1961年の『Famous Aircraft Series』
までの3年間で、相当腕をあげたのでしょう。

さて、ブックマークに、YouTubeで見つけた気になる映像を
リンクさせてみました(残念ながらアダルトモノはありませんけど)。
興味のある方は、どうぞ…

次回のチラリズム
                                                   
シーマスターのインストとパーツを取り上げて…

組み立ては、いたって簡単。胴体と翼を接着すれば、90%完成です。
海神ポセイドンを象徴する王冠とモリをアレンジしたマークが、巨人飛行艇
シーマスターにふさわしいですね。
そして…あのJack LeynnWood先生の輝ける略歴を
ご紹介いたします。
なんせ若いときは、ヒコーキのパイロットをしていたんだから、ビックリ!

先生の作品は☆の数ほどありますが、その中でも最高傑作のひとつが
レベル社のUSS コーラルシーのボックスアートです。
あの日没のシーンは最高です。
これは、単なる商業イラストレーションの域を超え、高い芸術性を秘めた作品と
いえるでしょうね。

 
いかがかな、諸君。
今回の特別講座は、充分楽しめたかね。

ゲーリング閣下は、空軍雑誌「アドラー」の
表紙に、これらの絵を使いたいと話されて
いたぞ。
もっとも、総統が一蹴されたけどな。
アメリカの退廃芸術など、もってのほか‥
というわけだ。