劇場彷徨人・高橋彩子の備忘録

演劇、ダンスなどパフォーミングアーツを中心にフリーランスでライター、編集者をしている高橋彩子の備忘録的ブログです。

さようなら歌舞伎座

2010-04-29 00:41:12 | 観劇


現歌舞伎座の「御名残公演」千穐楽。その最後である第三部へ。
正直なところ、いつの間にかこの日を迎えていたという感じなのだが、
ふと、歌舞伎座へ向かう道すがら、妙に緊張している自分に気づいた。

この歴史的な日に忘れ物はないか、し忘れたことはないか・・・と、急に不安にかられたのだ。
(結論から言えば、この日までにちゃんとしたカメラを買わなかったことと、
ちゃんとしてはいないが一番マシなカメラですらなく、
それと同等と思いきやメモリ面で劣るカメラを持参したことが、
私の大きなミスであったものの、一応、チケットや双眼鏡は忘れなかった)。

地下鉄から地上に出ると果たして、歌舞伎座一帯は尋常ではない熱気であふれていた。
カメラを持った人々がごった返し、そこここで撮影会を行っている。すごい~。

とはいえ、この日のチケットを取るのは至難の技だったわけで、
そこまでする人はやはり、それなりの歌舞伎ファンだろう。
このところ多かった「なくなる前に一度行っておこう」的な一見さんは少なかったと見え、
開演するや、歌舞伎座基準(!?)でなら「水を打ったように」と表現してもいいほど静かに。



静かと言っても、もちろん、拍手や大向うは半端ではなかった(山川静夫氏も復帰!)
演じるほうにとっても観るほうにとっても、本公演は今日が最後なのだから当たり前だ。
かくいう私も開演前からこみ上げるものがあり、『実録先代萩』を観ながらうるうる。
次の『助六由縁江戸桜』が始まって海老蔵が現れ、思いを込めた口上を述べたところで、
堪えきれず、涙ながらに「成田屋!」(これがデビューではありません、一応)。

ここで泣いたおかげで少し落ち着くことができ、花川戸助六に團十郎、三浦屋揚巻に玉三郎、
くわんぺら門兵衛に仁左衛門、福山かつぎ寿吉に三津五郎、
髭の意休に左團次、白酒売新兵衛に菊五郎、そして通人里暁に勘三郎・・・と
恐らくはもう二度と実現しないであろうオール豪華キャストを楽しむ。
通人を観るたびに、松助の不在を思わずにはいられないが、
勘三郎は奇をてらうというより真っ直ぐに笑わせて、この狂言に華を添えた。
NYでの團十郎のエピソードはこれまでにも語られていたので耳慣れていたけれども。

『助六』上演に不可欠な「目録」

それにしても勘三郎の指摘通り、ホント、観客は搾り取られました(笑)。
1年4ヶ月も御名残公演やって、しかも最後は値上げ→三部制だったもの。
歌舞伎座へ足を運ぶ毎にカウントダウン時計で残る日数を知らされ続けた1年4ヶ月。
気がついたらなくなっていた、なんていう寂し過ぎる状況より、ずっといい。
それでも時はあっという間に過ぎてしまって、まさに「御名残惜しい」・・・。

歌舞伎座では1階から4階立ち見まで、桟敷席とその上のサイド席?を除く全ての席種で、
いろいろな経験をした。建物内の神社、楽屋、食堂、貴賓室、事務所にも行った。
今となっては、すべてがいい思い出だ。

もうこんな劇場は生まれないだろうと思う。思うけれども、勘三郎が花道で、
たぶん敢えてベタに言ったように、新しい歌舞伎座でまた思い出をたくさん作ればいい。
彼自身を含め、俳優たちはみなそう自分に言い聞かせているのだろうし、
観客として、そのスタートを楽しみに待ちたい。

終演後。明後日の閉幕式の当日券を得るべく、すでに列ができていた。
まだまだ寒い4月に2日も徹夜するなんて、私には真似できないが、
それだけ歌舞伎を愛している人がいるのだとすれば頼もしい限りではないか。
本当に観たくて並んでいる人たちが、無事に閉幕式を楽しめますように。
そして、極めて月並みだけれども、歌舞伎座よ、本当に今までありがとう。

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